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7.初恋だった?
しおりを挟む夜会から3日後の今日、父よりロットマイン伯爵親子が隣国に帰る事を聞いた。
どうやら夜会は、ロットマイン伯爵様の送別会を兼ねていたらしい。
母の治療は、ロットマイン伯爵の紹介で、隣国に留学経験のある、ロットマイン伯爵の友人の医師が引き継いでくれる事となったそうだ。
「ケイン様とちゃんとお別れしたかったな……」
少しの間だけど、二度目の人生において、初めて出来た友人とも言える彼と、もう会えないのかと思うととても寂しい。
中身が18歳である私は、同年代の子達となかなか話が合わない中、ケイン様と話すのはとても楽しかったのだ。
そんな風に考えていると、ジェシカが私にケイン様の来訪の先触れを伝えてきた。
「えっ? ケイン様が来てくれるの!?」
「なんでも、隣国に帰る前に、お嬢様にお別れの挨拶をしたいと寄って来られるそうですよ」
「大変! 急いで着替えないと! ジェシカ、手伝って!」
大慌てでお出迎えの準備が出来た頃、ケイン様の来訪が告げられた。
「ケイン様はどちらに!?」
慌ててエントランスホールに向かったが、姿がない為、執事長に尋ねると、
「ロットマイン伯爵令息様は、庭の四阿でお待ちになると」
と、そう告げられた。
それは、母の様子を見た後は、必ず二人で庭の四阿に行って、お茶をしながら色んな話をした場所。
私はすぐにその場所に向かって駆け出した。
「ケイン様!」
いつもの場所にいるケイン様の姿を見た私は、嬉しくなって駆け寄りながら声をかけた。
「あっ!」
急いで駆け寄ったものだから、足がもつれて転けそうになる。
「危ないよ。慌てなくても大丈夫だから」
そう言って、優しく受け止めてくれるケイン様を見上げ、恥ずかしくなった私は、慌てて身体を起こした。
「ご、ごめんなさい。はしたなかったですよね」
そう言った私は、自分でも分かるくらい、真っ赤な顔になっている。
もう! ケイン様とのお別れの時に、こんなみっともない姿を晒すなんて!
そう考えるほど、真っ赤な顔になる自分に途方にくれていると、ケイン様がフッと吹き出した。
「フッフフ。ルーシー、真っ赤になってる。可愛い」
「も、もう! からかわないで!」
恥ずかしくて、私はすでに涙声だ。
「ごめんごめん、あまりにルーシーが可愛くて。ごめんね、ルーシー。怒らないで?」
そう優しく言ってくれるケイン様に、ハッとして気を落ち着かせる。
「怒ってなんかいないわ。私こそ、ごめんなさい。お忙しい最中に来てくれたのに……
ケイン様、隣国に帰られるの?」
そう私が尋ねると、ケイン様は寂しげに笑いながら頷く。
「うん、父の仕事が一区切りついたからね。
もともと短期間の訪問だったから、予定通りに今日帰るんだ。
どうしても帰る前にルーシーに会って行きたかったから、途中で寄ってもらったんだ。
門の近くで今は待機してもらっている。
だから、すぐに戻らないと行けない」
帰る途中で無理に寄ってくれたんだ。
それを聞いた途端、胸が苦しくなって涙が出そうになったが、笑顔で見送りたくて、必死で涙を止めた。
「ケイン様、本当にありがとうございました。
母の事で、どんなにケイン様に慰められたか。
それに、ケイン様とのお話はいつもとても楽しくて、ケイン様の訪問が何よりの楽しみになっていました。
隣国に戻られるのは寂しいですが、ケイン様のこれからのご活躍を楽しみにしたいと思います。
どうか、お身体にお気を付けて、道中無事にお戻りになれるようお祈り申し上げます」
私は渾身のカーテシーをしながら、心を込めて挨拶をした。
ケイン様は、そんな私をとても優しく見守ってくれている。
「ありがとう、ルーシー。
フフッ。
全く7歳児とは思えない程の立派な口上だね。
ルーシーには、いつも何かと驚かされっぱなしだったよ。
でも、僕もとても楽しかった。
ルーシー、僕達は友達だよね?
だから、さよならは言わないよ?
また、いつか何処かで会える事を楽しみにしてる。
それまで元気でいてね。ルーシー」
そう言って、踵を返し帰ろうとするケイン様の後ろ姿を見ると、また涙が出そうになった。
「あ、そうだ」
するとケイン様が何か忘れ物のようで、こちらに振り向いて戻ってくる。
「?」
どうしたのかしらと、首を傾げていると、
「忘れ物」
とケイン様はそう言って……。
チュッ
……ん?
「また再会するっていう約束のしるしね」
そう言って、ケイン様は私のおでこに軽くキスをして、笑顔で帰って行った。
待って。
え、待って?
こ、これはおでこに何された?
いつまでもボーっと突っ立って、なかなか戻ってこない事を不思議に思ったジェシカが、私に近づいてきて、私の顔を見て叫ぶ。
「ど、どうされましたか、お嬢様!?
お顔が真っ赤ですわよ!?
まさか、知恵熱!?」
……なんでこの状態で知恵熱が出るのよ。
でも、あの場面をジェシカに見られていなかった事に、ホッとした。
「何でもない。戻るわよ」
そう言って、あの時の事は、自分だけの大切な秘密として、何事もなかったかのように屋敷に戻った。
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