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6.隣国の友人
しおりを挟むロットマイン医師はその後、診察結果を父に説明し、薬は後で公爵家に届けさせる事を約束してくれた。
ロットマイン医師の診断結果に、父は考え込み、ロットマイン医師にお礼を伝えてから、我が家のお抱え医師を呼んでいた。
あのお抱え医師は、多分解雇になるだろうと私は踏んでいる。
祖父とロットマイン医師親子は、本日から王都にあるファブリック辺境伯のタウンハウスに泊まるそうだ。
今は辺境伯の地位を、お母様のお兄様、つまり伯父様が継いでおり、王都のタウンハウスは誰も使っていなかったらしい。
「ロットマイン先生、本当にありがとうございました。
母が適切な治療が受けられるようになった事、とても感謝しております」
私は、ロットマイン医師やケイン様を連れてタウンハウスに戻られる祖父と挨拶を交わした後、改めて御礼を伝えた。
「こちらこそ、ケインにいい経験を積ませる事が出来て感謝してるよ。
後で薬を届けさせるから、母上殿に服用させてあげてね」
「はい。ありがとうこざいます。
ロットマイン伯爵令息様も、本当にありがとうこざいました」
ロットマイン医師のあと、ケイン様にも御礼を伝えると、ケイン様は困ったような、それでいて笑顔で私に応えてくれる。
「こちらこそ、貴重な体験をさせてもらったこと、とても感謝しています。
王都にいる間は、父の代わりに様子を見に来させてもらってもいいですか?」
「もちろんです。よろしくお願い致します」
ケイン様は13歳だというのに、とても落ち着いており、父上に習って医学の知識も豊富なのだそうだ。
待っている間に、祖父からそう聞いていた私は、安心してお願いした。
「では、これで失礼致します」
ロットマイン医師が父にそう伝え、祖父は私の頭を撫でた後、父に
「娘を頼みましたぞ」
と言ってから、ロットマイン親子と共にタウンハウスに帰って行った。
「お父様、お母様のご病気が治りそうで、本当に良かったですよね」
私が父にそう言うと、
「そうだな」
と言って、執務室に戻っていく。
その表情は穏やかで、母を嫌っているのではないのだと感じた。
さっそく次の日、ロットマイン医師が処方してくれた薬を持って、ケイン様が訪問してくれた。
「お待ちしておりました。ロットマイン伯爵令息様」
「こんにちは、ルーシー公爵令嬢。公爵夫人のお薬を持ってきました。服用方法など説明したいので、少しお邪魔させて頂きますね」
ケイン様を母の部屋に案内し、母と共に服用方法の説明を受ける。
ケイン様は分かりやすいように、丁寧に説明してくれ、母の状態を確認後、ロットマイン医師に報告するため、すぐに帰って行った。
その後も、数日おきにケイン様は訪問してくれて、色々と母の状態を気遣ってくれる。
薬も母に効果があったようで、母も息苦しさが軽減し、少しずつベッドから出て散歩が出来るようになって来た頃、ケイン様と私はお互いを名前で呼び合う仲になっていた。
「ケイン様、本当にいつもありがとう。おかげで母が日毎に元気になっているわ。最近は息苦しさも減ってきているみたい」
「とんでもない。きちんと薬を飲んで、治そうとする意思がルーシーの母上様にあったからこそだよ。もちろん、それにはルーシーや父君や、周りの方のご協力のおかげだと思うしね」
ケイン様は大人で謙虚で、しかも凄く優しい。
前の人生では、ライアン様しか見ていなかったから、こんな穏やかな男性がいるなんて気づきもしなかったわ。
改めてケイン様を尊敬の目でみながら、お礼を伝えると、彼は照れくさそうに笑った。
「あ、そうだ。明日は父と共に王宮の夜会に呼ばれているから、明日は来れそうにないんだ。
でも、ルーシーがちゃんと公爵夫人のお世話をしてくれているから、安心して任せられるね」
そう言って、私の頭に、ポンポンと軽く手を置く。
「もぅ! 子供扱いしないで!」
これでも中身は18歳なのよ。
13歳の少年に頭ポンポンって、恥ずかしいじゃないの!
私が不満を口にすると、ケイン様は可笑しそうに笑っていた。
もともとケイン様は、医学博士であるロットマイン伯爵様と共に、隣国からこの国に招待されてやって来ていたのだ。
父君である伯爵は、来日してすぐに案内役の祖父の依頼で母を診てくれたが、本来はとてもお忙しい。
事実、あの日以降は伯爵様は予定が詰まっており、ケイン様のみが家に様子を見に来てくれていた。
案内役の祖父も、伯爵様に付き添って忙しくしており、なかなか母に会いに来れていない。
隣国は医学の発展が、この国よりも何倍も進んでおり、今回は少しでもこの国に利のある知識を教えてもらう為に、招待したらしたい。
国には自分の患者さんも多く抱えていらっしゃるそうで、短期間の訪問だと聞いた。
当然、伯爵様に付いて来ていたケイン様も、こちらに居られる時間は限られている。
「分かったわ。楽しんできてね」
7歳の自分では、ケイン様の参加する夜会には行けない。
もうすぐお別れである事を感じ取ってしまい、寂しい気持ちでケイン様を見送った。
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