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2.お見合い

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 王宮入りした私と父は、そのまま謁見の間に案内された。
 
「こちらでしばらくお待ちください」
 
 案内係の人がそう言って席を外し、そう間も空かない内に、陛下と第一王子のお越しが告げられる。
 
 
 
「よく参った。ヘルツェビナ公爵。そして、横に控えている娘がそなたの娘だな?」
 
 
「ルーデンベングを照らす太陽である国王陛下、ならびに小さき太陽である第一王子に置かれましては、ますますのご健勝のこととお慶び申し上げます。
 横におりますのが、我が娘ルーシーでございます」
 
 王に声を掛けられて父が挨拶をし、私に振られた為、慌てて挨拶の言葉を口にする。
 
 
「ルーデンベングの太陽である国王陛下、ならびに小さき太陽である第一王子殿下に置かれましては、お初にお目にかかれました事、恐悦至極に存じます。ルーシー・ヘルツェビナと申します」
 
 この時の為に死ぬほど練習させられたカーテシーを披露しながら、挨拶をする。
 
 
「ほぅ。7歳と聞いていたが、しっかりとした挨拶が出来ておる。公爵の教育がよく行き届いておるのだろう。
 お前もそう思うだろう? ライアンよ」
 
 
 陛下の言葉を受け、ライアン第一王子がキッと挑戦的に私を見た。
 
 
「ライアン・ルーデンベングだ」
 
 
 その一言だけ言って、そっぽ向いてしまう。
 その様子に苦笑しながら陛下が私を見た。
 
 
「すまないな。婚約者候補との顔合わせで照れているのであろう。
 ライアン、ルーシー嬢をバラの庭園に案内してやりなさい。今、色んな種類が咲いておるので、とても見応えがあるぞ」
 
 
「……はい」
 
 
 陛下に言われて、ライアン第一王子は渋々私に声を掛ける。
 
 
「行くぞ」
 
 
 そう言うと、振り向きもせずに早々に一人、謁見の間を、出ていこうするので、慌てて後を着いて行った。
 
 
 ……そうだ。
 前もこんな感じの出会いだった。
 
 ライアン様は、親に決められた婚約が気に入らなく、数人居た婚約者候補の令嬢みんなに冷たく接していたんだ。
 
 
 そして、最終的に婚約者として私が残り、ライアン様に気に入られたくて必死で歩み寄る努力をした。
 それによって、少しずつライアン様もお心を許してくださるようになって、ようやく婚約者と認めて頂けたんだった。
 
 
 ……でも、結局はわたくしには、お心を許しきってはくれなくて、義妹のマリーナとはすぐに仲良くなっていたわよね。
 
 前は、母が今から1年後に亡くなっており、私がライアン様の婚約者となった事で、公爵家の立て直しが出来た2年後には、父は再婚する。
 
 その連れ子がマリーナだ。
 マリーナは私より1歳年下で、確か子爵家の子供だったはず。
 夫である子爵に先立たれ、子爵家を追い出された夫人とマリーナを、子爵の友人だった父が引き取るのだ。
 
 
 このまま同じ事をしていれば、また婚約者となって、いずれはみんなに裏切られて死ぬ運命になる?
 
 
 そこまで考えて私はゾッとした。
 自然とライアン様を追いかけていた足が止まる。
 
 私が歩みを止めてもライアン様は振り向きもしないで、どんどん自分だけバラの庭園に向かって歩いていく。
 
 
 そうだ。
 この人はいつもそうだった。
 私が必死で追いかけるばかりで、この人が私に合わせてくれた事なんて一度もなかった。
 
 もっと早く気付いていれば良かったんだ。
 
 この人のそばに、私の居場所は初めからなかったことを。
 
 
 
 いまだに振り向かずに行ってしまうライアン様の背中を見つめながら私は決心した。
 
 
 何故また7歳に戻っているのかは分からない。
 だけど、自分の行動次第で今回の人生は変えられるのではないか?
 
 なら、するべき事は1つだ。
 
 
 
 私は踵を返し、謁見の間に戻る事にした。
 
 そして誰かいる場所まで来てから、子供の特権を活かして、泣き始める。
 
「お嬢ちゃん、どうしたの? 見かけない娘さんだけど、一人なのかい?」
 
 
 近くにいた騎士様が声を掛けてくれたので、私は事情を説明し、第一王子殿下とはぐれて迷子になったことを明かした。
 
「父がまだ謁見の間にいます。父のところに戻りたいのです」
 
 泣きながらそう訴える私に騎士様は同情的だ。
 そして、その状況は他の人達も見ている。
 
 
「分かりました。謁見の間までご案内しますよ。ヘルツェビナ公爵令嬢」
 
 
 こうして、私は騎士様に連れられて謁見の間に戻った。
 
 
 
 謁見の間では陛下と父がまだ話を続けていた。
 
 
「ん? どうしたのだ? ライアンとバラの庭園に行ったのではないのか?」
 
 陛下の問いかけに、私は涙声で返答する。
 
「も、申し訳ございません。必死で第一王子殿下の後を付いて行ったのですが、わたくしの歩みが遅かったのか、第一王子殿下のお姿を見失ってしまいました。
 自分が何処にいるのか分からず、泣いていた時に、通りすがりの騎士様にこちらまで案内してもらいました」
 
 
「なんと……ライアンはそなたをちゃんとエスコートしなかったのか」
 
 陛下は渋い顔をして、そう言った。
 
 
「第一王子殿下の歩みに追いつけなかったわたくしが悪いのです。本当に申し訳ございませんでした」
 
 涙声のまま、肩を震わせてそう告げる私の姿に、陛下も同情的だ。
 
「いや……ライアンが悪い。ルーシー嬢、すまなかったね。
 ヘルツェビナ公爵、今日はルーシー嬢も疲れたであろう。話はまた後日という事で、本日はもう下がってよい。
 早くルーシー嬢を家に連れて帰って、休ませてあげるがよい」
 
 陛下の言葉に、父はやや苦々しく了承した。
 
 
 帰りの馬車では、父は不機嫌そうにしながらも特に何か言って来る事はなかった。
 
 
 まずは、ライアン様との初対面の日の行動を変えた。
 もしかしたら、今回は婚約者にならなくてすむかもしれない。
 
 
 この先の運命が変わるかもしれない事にドキドキしながら、私は屋敷に戻った。



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