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歳月の流れ編~
61.彼の過去②
しおりを挟む魔王は言った。
面白い余興であったと。
彼と親子は魔族達に囲まれ、彼と少女の目の前で、母親は何人もの魔族に凌辱され、その直後に首をはねられて殺された。
少女は発狂するが、母親と同じように凌辱された後、口にするのもおぞましい残虐なやり方で殺された。
その一部始終を、身体の自由を奪われながら目の当たりにした彼は、抑えきれない感情と内なる秘めた力が溢れ出し、辺り一面を焼け野原とした。
彼の力を恐れた魔王は、彼を上手く宥めてまた手中に治めようとしたが、彼の怒りは激しく、魔王をも凌ぐ力を発揮し、とうとう魔王を倒してしまった。
これでようやく、他の種族達と分かり合えると思っていたが、魔王を失った魔族達がまた好き勝手に暴れ、他種族達も魔族への恨みから戦争を始めてしまい、その間の橋渡し役をしていた彼は両方から恨まれ、攻撃を受ける。
何もかも嫌になってしまった彼は、自分の最大限の力を賭けて、この世界を一からやり直そうと考え、生き物全てを滅ぼしていった。
とうとう彼1人がこの世界に残された時、恐ろしい程の虚無感と絶望に苛まれる。
耐えきれなくなった彼は、世界の中枢にある山脈の巨体な噴火口に身を投げ、自らの命も終わらせる事にした。
彼がその噴火口に身を投げた時、彼の持つ巨大な力とマグマがぶつかり合った事により、全ての大地が裂け、その世界の終わりとなった。
『こうして、私の作った前の世界は壊れてしまったの。そして、その世界の幕を閉じた彼が、今集めている霊魂の持ち主ってわけ』
そうラケシス様が語った。
「え! その彼がグレイ様なのですか!?」
『そうですよ。ラケシスはその彼がどうにも不憫に感じて、彼の霊魂を探して心を癒すために手元に置いていたのです』
“さやか”の叫びに、ディオーネ様も説明してくれる。
「なんか、グレイ様……つらい経験をされていたのですね……」
『生きていれば誰しもが辛い事はあるわ。
それは貴女もでしょう?
その分報われないといけないのに、報われない者が圧倒的におおい。
その者達を少しでもいい方向に導いていくのが私たち、世界を作った者の役目よ。
彼の霊魂は深く暗闇を彷徨っていたの。
元々は優しい彼を何とかしてあげたくて。
この世界を作って、エマを送り出した時に、エマの力になってもらうのと同時にエマの傍で、もう一度生きることへの希望を見出してもらいたかったの』
ラケシス様は悲しそうな表情で、そう語った。
「グレイ様はその頃の事、覚えてらっしゃったのでしょうか?
とてもそんな辛い過去を持っているようには見えませんでしたので……」
“さやか”の質問に、ラケシス様が頷く。
『覚えてるわよ。記憶を消してあげようとしたけれど、霊魂に深く刻み込まれた記憶は消せなかった。
転生すれば、消せなくても深層心理の奥底で、辛い記憶を眠り続けさせる事も出来るのに、それも拒んで……。本当に不器用な子だわ』
『あの者はとても楽しく過ごしていたと思いますよ。
恵美やあの世界の者達にも、癒されていたはず。
それこそ、自分の身を投じてもいいと思うくらいにはね』
ディオーネ様がそう言って、ラケシス様を慰めている。
『ディオーネ様、ありがとうございます!
さぁ、また核集めを頑張りますよ~!
ディオーネ様も“さやか”も、お手伝いよろしくお願いしますね!』
ラケシス様は、元気いっぱいに笑顔でそう叫んだ後、また作業を始めた。
空元気だと明らかに分かる姿に、ディオーネ様は苦笑しながらも、手伝い始める。
“さやか”も、ラケシス様の手伝いをもっと頑張って、何としてでもグレイを復活させなければとより一層の決意をした。
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