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歳月の流れ編~

60.彼の過去①

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 何処だか分からない所をフワフワ彷徨っている。
 
 何の目的もない。
 
 ただ彷徨っているだけだ。
 
 俺は誰なんだろう。
 
 記憶の奥底を覗いてみるが、白い膜が張ってあるみたいに、何も見えない。
 
 あぁ。また眠くなってきた。
 
 意識が遠のいていく。
 
 眠いのに、何故か何かを思い出さなければならない衝動に駆られる。
 
 でも、眠気に襲われて意識が保てなくなっていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
『まだまだだわねぇ』
 
『焦りすぎですよ、ラケシスは。
 ちゃんとひとつ残さず回収しないと、別個体になってしまいますよ』
 
「それでは困ります! エマ様がずっと待っていらっしゃるのに!」
 
 
 ここは神界のラケシスの神域。
 
 そこにディオーネ様もやって来て、グレイの霊魂の核集めを行なっていた。
 
 “さやか”さんも2人の女神様を手伝っているが、なかなか進まない事にラケシス様が焦っているのだ。
 
 
『でも、ディオーネ様! 少しは形になってきたんじゃないですか? 
 少しだけど人格も一瞬見えたし』
 
 ラケシス様がそう言って霊魂の核を眺めている。
 
 
『ラケシス。貴女、まだこの霊魂の事で後悔してるのね』
 
 
 ディオーネ様がグレイの霊魂の核を見ながらそう言った。
 
 
『前の世界に続いて、今回も無理させてしまいましたからね……』
 
 
 ラケシス様は、何処か寂しそうにそう言った。
 
「ラケシス様? 前の世界って、なんですか?」
 
 “さやか”の問いに、ラケシス様とディオーネ様が顔を見合わせる。
 
 
『そうね。“さやか”には話してあげようかな。私の使者だしね』
 
 
 ラケシス様はそう言って、何処か遠くを見るように思い出しながら口火を切った。
 
 
 
 
 
 
 
 ラケシスが女神となって初めての世界を作った時の事だった。
 
 その世界には色んな種族が集まって出来た世界だった。
 
 亜人、エルフ、小人族、竜人、妖精、精霊、人間など、それぞれの種族に別れて、領域を犯すことなく穏やかに生きている世界。
 
 そんな穏やかな世界にも、ひとつの種族だけは他種族から忌み嫌われていたのが、魔族だった。
 
 
 魔族は好戦的で、無法者が多い種族で、無秩序に生活をしていた。
 国としては治めるものもおらず、本能のままに生きている種族。
 だから、他の種族の所に行っては、そこでよく問題を起こし、平気で殺人も行なっていた。
 
 他の種族の我慢が限界に達し、魔族 対 他種族との世界戦争が始まろうとする最中、魔族に絶対的存在である魔王が生まれた。
 
 魔王が生まれる事で、本能で自分達の王を悟った魔族達は王に忠誠を近い、魔族国として秩序ある生き方をするようになった。
 
 しかし、他種族から散々恨みを買っていた魔族は、今更態度を改めても和解出来ない程にまで関係性は悪化しており、また、元々の好戦的な性質にて、他種族から少しでも攻撃されると、その相手を嬲り殺すまで止まることはない。
 
 他種族と魔族との緊迫した関係性は、その後何百年も続いていた。
 
 そんな中、魔族をまとめ、他種族との連携を図ろうとしている1人の魔王の側近が居た。
 
 彼は魔王に他種族との橋渡し役を任命され、他種族から拒絶されても何度もその場に赴き、魔族が起こした事件や問題の数々を謝罪し、補償したり解決に向かって翻弄したりと日々、魔王様の期待に応えるように頑張っていた。
 
 彼は魔族にしては保守的で優しく、人を傷つける事を嫌う性格であった事も幸いし、少しづつだあるが他種族から受け入れられつつあった。
 
 しかし、その彼を面白く思わない魔族や、他種族の者も大勢いた。
 
 敵だらけの彼の心の支えは絶対的存在である魔王様。
 その魔王様が他種族との共存を望んでいるならばと、憎まれ役を甘んじて受けていた。
 
 その彼の我慢強さと誠実さが、他種族にも伝わり、魔族との共存を受け入れつつある中、魔王様の提案で、他種族の長達と関係性修復目的のパーティを開こうという事になった。
 
 大勢の他種族達が一斉に魔族国に招待され、魔族国はそれらの人々を歓迎し、もてなした。
 これでようやく世界は安寧秩序が保たれると、世界中で喜ばれることとなったのだ。
 
 
 
 しかし、それは世界中を我がものにしようと画策していた魔王や他の側近達の罠だった。
 
 
 招待を受けたもの達は、軒並み嬲り殺され、同時に他の種族たちの、長のいなくなった国に待機していた魔族達が一気に襲いかかる。
 
 そして他種族の妙齢の女達や少女のみ魔族国に連れ去り、他の者達は虐殺していった。
 
 彼はその残虐なやり方に吃驚して、慌てて魔王様に助けを求めた。
 
 しかし、自分が魔王様に騙されたのだと知り、しかもこの現状を作ってしまったのは自分である事に絶望した。
 
 
 連れ去られてきた女達や少女達は、魔族の男共に蹂躙され、凌辱され続ける。
 そして暴力、暴行されながら殺される者も後を絶たないといった地獄絵図。
 
 
 世界中が魔族に支配され、弱肉強食の生き地獄と化したこの世界を見た彼は、生きる気力を無くしていた。
 
 
 そんな彼に捕虜として連れてこられた1人の人間の少女が、話しかけてきた。
 その少女は、この絶望的な現状にも希望を捨てず、何とか生きて自分の国に戻ろうとする意志を持ち続けていた。
 一緒に連れてこられた母に、少しでも美味しいものを食べてもらいたくて、こっそりと収容されている部屋の窓から抜け出してきたそうだ。
 
 彼は、この少女だけでも助けたくて、この少女を連れて魔族国を出ようとするが、少女は母を置いては行けないと泣き止まない。
 
 仕方なく少女を隠しながら収容所の少女達の居た部屋を目指し、何とか母を連れ出す。
 部屋にはまだ痛めつけられ、心身共にボロボロになっている女達が大勢いたが、今の自分では助ける事は出来ない。
 目を背けて、まずは親子だけを逃がす。
 そう決心して、誤魔化しながらもようやく魔族国の国境付近に辿り着いた時、待ち構えていたように大勢の魔族と、魔王がそこに居た。
 
 
 
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