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歳月の流れ編~
59.歳月人を待たず
しおりを挟むあの爆発事故から3年の月日が経った。
爆発で崩壊していた街や領地などは、皆が復興に向けて協力し、最近ようやく以前のような落ち着きを取り戻していた。
私やセリーヌはすでに学園を無事に卒業し、私達の2年後にはレイラも卒業した。
レイラというと、中に入っていた霊魂だけの“さやか”さんは、ラケシス様の元へと帰っていき、何かとラケシス様のフォローをしているようだ。
帰る際に、神界で霊魂を休めてから転生しないのか聞いてみたけど、まだ転生はしたくないとの事だった。
今はラケシス様の元で、この世界を上手く回していくお手伝いをしながら、グレイの甦りも手伝ってくれているらしい。
たまにレイラの身体を通してそう教えてくれていた。
元々のレイラの身体の持ち主、レイラ・アスティ嬢も、“さやか”さんが身体を使っている間の事を見てきていたので、全ての事情を知っている心強い味方となった。
もう義母や義姉に虐められることもなく、卒業後は独り立ちをして、商売を始めている。
どうやら、“さやか”さんの前世の記憶を頼りに、こちらでも役に立ちそうな品物を発明しているそうだ。
それが大当たりして、今はちゃんとした商会を立ち上げているまでに発展した。
かと言って、まだ若すぎる商会はすぐに攻撃されるため、後見人として私の祖父母がついた。
どうやらレイラの作る商品にハマったらしく、私が後見人の話を持っていくと、すぐに了承してくれた。
これにより、若いからと甘く見られることも無く、また、元家族からの横どりも制止する事が出来ている。
セリーヌはというと、あれからセリーヌはマイクとの婚約を、マイク有責で破棄した。
アリアに侍っていた時の横柄な態度は目に余る所であり、エドモント公爵家でもマイクの素養は問題視されていたらしく、セリーヌが親に婚約破棄を願い出るとすぐに手続きをしてくれたそうだ。
もちろん、新たな婚約者候補もすでに公爵家で探していたらしく、マイクとの婚約破棄後、すぐに新たな婚約が整った。
今度の婚約者は3歳年上の穏やかな文官の人だそうだ。
あと半年もすれば結婚し、結婚後にその人は伯爵位を譲位されるそうなので、セリーヌは伯爵夫人となる。
あれから色々変わった。
アリアは国家を揺るがす犯罪者として、あの時から収容施設に入っている。
なまじ力を持っているから、十分な監視下の元で管理しないといけないそうだ。
しかし、それは建前で、アリアはすでに心を壊しているらしい。
どうやら前世の娘の“さやか”さんの死因が栄養失調の上の餓死と知った事が余程のショックだったのだろう。
アリアは出された食事にも一切手を付けず、無理に口に入れても全て吐いてしまうそうだ。
心も閉ざしてしまい、あんなに仲良くしていたアステルやマイク、レスターが会いに行っても全く反応しない。
常に小声で「さやかちゃん……」と呟いており、他は何も見えていないようだとのこと。
彼女なりに自分の娘を、愛していたのだろう。
今更その大切さに気付いても、もう遅いのだけれど……。
聖魔法で何とか体力維持をしているが、本人に生きる気力がないことから、時間の問題らしい。
この事、“さやか”さんに伝えるべきなのか、一度こっそりラケシス様に聞いた事があるが、言わないようにとの事だった。
確かに言っても仕方ない事だ。
“さやか”さんには、前を向いていってほしい。
いつまでも母親に縛られていると、永遠に転生したいと思わなくなる。
アリアは、前世で償えなかった代償を、今世で支払っているのだろうと思うことで割り切る事とした。
アステルは王太子の器ではないと、王位継承権を放棄した。
もちろん私との婚約の話もなしだ。
今後は剣と光魔法を駆使して騎士となるそうだ。
騎士団で、オリバーと共に訓練に励んでいるそうで、以前のような横柄な態度は見られなくなったようだ。
オリバーといえば、宝玉の力で気持ちに迷いが生じた事を恥じていた。
だから、何者にも惑わされない強靭な心と身体を追求するとの目標を掲げ、熱心に訓練に勤しんでいる。
たまにオリバーから私に花束が届くが、返信は出していない。
私がまだグレイを待っている事を知っているからか、オリバーも何も言ってこない。
ちなみにグレイは、隣国に呼ばれて急遽帰国したという設定だ。
私はというと、なんと聖女認定されてしまった。
まぁ、この世界を作ったラケシス様とちょくちょく連絡を取る仲なので、必然的となるか。
それに、それを受けた事にも理由がある。
グレイがこの世界にいた事により、魔物が衰退化していたが、グレイがいなくなったことにより、一気に活性化され、この国にも入ってくるようになった。
なので私は学園卒業後すぐに、魔物が来やすい辺境伯領を転々としながら、魔物討伐を行なっている。
私の魔法を総動員すれば、各辺境伯領の魔物討伐など容易いものだ。
これが聖女の仕事か? と問われると、申し訳なくなるが、ちゃんと国を覆う結界も張っている。
そのうえで、1番危険な辺境伯領の結界付近を彷徨く魔物を討伐している。
聖女は魔物を浄化するのでは?とよく言われる。確かに浄化もする。
でも、それは思い切り魔物を倒した後処理的に行なっている。
魔物に八つ当たりしてる感もあるが、仕方ない。
何かと身体を動かしていないと、グレイが恋しくなってどうしようもなくなるというのが1番の理由だが、案外この生活が気に入っている。
聖女認定された時、急に擦り寄ってきた両親や弟の相手をしないで済むし、同じように態度をあからさまに変えてきた他の貴族達との付き合いもしなくていい。
私って、脳筋だったのかなぁ……なんて思ったりするが、陛下や教皇様も黙認してくれているので、それに甘えている。
もちろん魔物討伐の他にも、各国の治療院に回って治癒魔法も行なっている。
3年前の爆発では、怪我人も多く出たので、必死に回復魔法をしてまわった。
お陰で?治癒魔法の腕も数段に上達したのだ。
たまに、治療院でアストナ先生に偶然出会ったりするが、特に話す事はない。
アストナ先生は何やら言いたげな表情をしているが、アストナ先生の顔を見るとあの頃の色んな感情が思い出されるので、見ないようにしている。
あ、駄目だ。
少し気を抜くとすぐに、グレイが恋しくなる。
グレイ。
待ってるから。
いつもグレイが帰ってくるのを願ってるから。
だから少しでも早く帰って来てね。
そんな事を思いながら、また魔物討伐やら、治療院通いなどで忙しい毎日を送っていた。
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