【完結】運命の宝玉~悪役令嬢にはなりません~

らんか

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王立学園編~後編

40.魔法大会⑤

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 第四回戦の始まるアナウンスが会場に響く。
 
 
「じゃ、行ってくるね」
 
「エマ! 頑張ってね!」
 
「修行の成果を出せよ」
 
 
 2人に見送られながら、闘技場内の控え室に入る。
 
 そこには昨日勝ち上がってきた人達がすでに揃っていた。
 
 
 私の出番は今日は三組目だ。
 それまでは控え室で他の人の対戦を観ておこう。
 
 控え室からも他の人の対戦が見えるように、モニターが設置されていた。
 
 他の闘技場の対戦モニターまでないのが残念だ。
 
 第四回戦の一組目が始まる。
 
 流石に三回戦を勝ち抜いてきた人達だけあって、武器や魔法の使い方が上手い。
 他の人の戦い方を観ておくのも強くなるコツの1つだと、グレイに言われた事を思い出しながらモニターを見ていた。
 
 一組目は水属性の2年生の女子生徒と、5年生の木属性の男子生徒の対戦だ。
 
 水魔法を使っている女子生徒は、水鉄砲で相手を攻撃している。
 木属性の男子生徒はそれを軽く躱しながら、地面から巨大な木を生やし、枝をムチのようにしならせながら相手を攻撃している。
 
 水属性の子がその木の上に大雨を降らせると、その木が一気に枯れ始めた。
 
「あ、あれ。酸性雨かな? 凄く強い酸のようだ」
「そうだな。相手の服も雨がかかったところが溶け始めてるぞ」
 
 同じようにモニターを観ていた他の人達が驚きながら話している。
 
 木属性の男子生徒は、服が溶かされてほぼ裸状態だ。
 慌てて木を出して葉っぱで隠そうとするが、それもすぐに溶かされてしまい、魔法が追いつかない。
 
 男子生徒は自ら降参を名乗り出て、慌ててその場から走り去っていった。
 
 
 
 2組目は、騎士同士の戦いだ。
 氷属性の女子生徒と、土属性の男子生徒。
 
 氷属性の女子生徒は、自分の周りに吹雪を纏いながら相手に近づいていく。
 その吹雪の勢いで、土属性の男子生徒は足元をぐらつかせるが、巨大な岩を出現させて吹雪をガードした。
 
 ガードは出来たが近づけなければ戦えないのではと思ったが、今度は氷属性の女子生徒の足元の地面の土を、ボコボコと凹凸激しく揺り動かして立てない状態とする。
 思わず倒れた女子生徒にすかさず近づいて、女子生徒の持っていた剣を弾き飛ばし、剣先を女子生徒の首ギリギリに突きつけた。
 
 これにより土属性の男子生徒の勝利が確定した。
 
 
 さて、次は私の番だ。
 
 控え室から出て会場に向かう。
 
 私の対戦相手は、風属性の5年生の男子生徒。
 
 会場にて両者が審判の合図で前に出ると、試合開始の笛が鳴る。
 
 
 
 相手が笛の音と同時に、風の刃を複数同時に私めがけて放って来た。
 
 それに対し、前面にシールドを展開して弾き返す。
 すると相手は3本の矢を放ち、風を利用して矢の速度と軌道を自由に変えながら、私の後方に回り込む。
 
 シールドを私の周囲を囲むように展開し、様子を見る。
 矢の本数は増えない事から、どうやら、あの男子生徒の矢を操る力は3本までのようだ。
 
 
 私は3本の矢を警戒しながら、こちらも光の矢を展開する。
 そして光の矢の軌道を変えながら、あらゆる方向から10本以上の矢を操り、男子生徒に向けて放った。
 
「なっ! この数の矢を!?」
 
 男子生徒は、瞬時に違う風魔法を展開する事が出来ず、光の矢は男子生徒の全身に刺さるギリギリの所で止まった。
 
 
「勝者、エマ・ベルイヤ!」
 
 
 審判の判定により、勝負が決まった。
 
 見学者の歓声が上がり、私はホッと一息つく。
 
 無事に第五回戦に進出出来るようだ。
 次の第五回戦が終了すれば、10位以内は確定で、次は特設闘技場にて、対戦が始まる。
 
 きっと、特設闘技場にはアリアやアステル達が上がってきているだろう。
 
 次は第五回戦だ。
 どんどん戦い慣れた者たちが対戦相手になっていくので、気が抜けない。
 
 
 
 
 
 そんな私の試合を、アリアやアステル達は、こっそりと見に来ていた。
 
「何故あの女は、あんなに術が使えているんだ? あれは全部聖属性の魔法か?」
 
 アステルの疑問にアリアが考え込んでいる。
 
「聖属性の攻撃魔法と光属性の攻撃魔法は、見た目がよく似ていますよね? アステル様は、あれは光魔法だと思いますか?」
 
「聖属性の魔法も光の矢を放つ事が出来るのだろう? だったら、あの女の属性は聖属性だけだから、光属性の魔法は使えないはずだ。
 でも、どうにも、光魔法に見えるんだ」
 
 アステルがそういうと、マイクやレスターも疑問を出す。
 
 
「あの女の魔力は確か38でしたよね? なのに、シールドを張りながら、10本以上の矢を出す事って可能なのでしょうか?」
 
「シールド自体もかなり強固で、前面だけでなく周囲を囲うように瞬時に展開していた。その魔力量で可能なのか?」
 
 
 戦い自体は素晴らしいもので、とても不正が行なわれた様子はない。
 
 それでもあの技法や展開の速さなど、魔力38で戦闘訓練も受けた事がないエマの事を考えると、疑わしい事だらけだ。
 
 
「今回はどんな細工がしてあるのか分からなかったが、実際に目の前でじっくり見れば分かるはず。明日から行われる特設闘技場ではっきりさせようじゃないか」
 
「そうですよね。その為にも皆さん頑張りましよう! さぁ、早く自分たちの闘技場に戻らなくては。お待たせしているかも知れませんわよ」
 
 アステルとアリアがそう言うと、見に来ていたあとの2人も頷く。
 
 
 
 アステル達が戻っていく後ろ姿を見ながら、アリアは思った。
 
 
「オリバー様、見に来なかったわね。
 これはエマに興味を失ったと考えるべき?
 女神様のビー玉は、私のお願いを聞いてくれたのかしら?
 う~ん、よく分からない。
 念の為もう一度、お願いしてみようかなぁ」
 
 
 そう言いながら、ポケットの中にある巾着袋を取り出した。
 
 その中に入っている宝玉を取り出し、アリアは両手に祈るように握りしめる。
 
 
「女神様。お願いします。
 オリバー様が私を慕ってくれますように。
 あ、それと今回の魔法大会はアステル様が優勝しますように。
 優勝して、どうか私と婚約を出来ますように」
 
 アリアはアステルから、優勝した暁にはアリアを婚約者にしてもらうよう願い出るつもりだという事を聞いていた。
 
 そうなれば、物語は一気にクライマックスとなり、アリアに嫉妬した悪役令嬢が事件を起こすだろう。
 そうすればアリアは聖属性の力が一気に増して、皆を助ける力を手に入れられる。
 
 そうなれば聖女にも認定され、アステルは王太子に任命されて、ゆくゆくはアリアは王太子妃、いずれは王妃となり、同時に聖女でもある自分は、末永く皆から崇められ幸せに暮らしていける。
 
 その思いを込めて、宝玉を握りしめている。
 


「アリア? 行くよ?」

同じB闘技場のマイクがそう声をかけてから、アリアの持っている物に気付く。

「アリア、その赤い魔石、いつも持ち歩いてるね。装飾品に加工してもらえるよう頼もうか? そうすればその袋で持ち歩かなくても良くなるよ?」
 
 マイクの言葉に、アリアは慌てる。

「大丈夫! これは凄く大切な物なの。少しでもカットとかして傷つけたくないから、このままでいいの!」

「そう? それより早く闘技場に戻ろう?」

「うん。ごめんね」


 アリアはそう言ってマイクと共に闘技場に戻っていく。


(大切な女神様のビー玉、カットしたくない! 以前ペンダントトップとして土台を作ってもらったけど、合わなくなってるし……。
 本当に願い事をする度に大きくなっているような気がするけど、まさかね)



 今回も宝玉はその思いを吸い取りながら、より一層、深く濁ったほぼ黒に近い色になり、また少し大きくなっていく。
 
 アリアはその様子を不思議に思いながらも、気にせずにマイクと共に闘技場に向かった。
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