【完結】運命の宝玉~悪役令嬢にはなりません~

らんか

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王立学園編~前編

34.胸の高鳴り

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 忍び込み作戦も失敗に終わり、失意の中、その日は家に戻った。
 
 グレイにあの時に見た宝玉の色と大きさを伝えると、考え込むように黙り込んでしまった。
 
 私もそれ以上話す気になれず、家に戻ってからも、想像以上に大きく、濁った色に変化した宝玉を思い出しては、ため息を吐く。
 
 
 これからどうしよう。
 
 焦れば焦る程、何も思いつかない。
 
 あの宝玉はアリアの欲を吸って大きくなっているようだ。
 
 やはり、アリアに宝玉の危険性を知らせて、これ以上願い事をするのをやめてもらわなければならないとは思うが、私の言う事など信じるはずがない。
 
 
 考えが堂々巡りになるばかりで、その日は眠れず、その後もただ時間だけが過ぎていった。
 
 
 
 
 グレイは、私から聞いた宝玉の情報をラケシス様に相談したようだ。
 そして、ラケシス様からの言葉を後日、私に教えてくれた。
 
 
 
 ラケシス様の最初の見通しだった5年以上は安全だといった宝玉は、あのようにアリアが毎回自分の欲をお願いし続けた結果、予想以上に爆発の危険性を早めてしまっていたという事が分かった。
 
 この世界は、私とアリアの魂が入れ替わった事で、元々の運命の記録からは逸脱している。
 
 そして宝玉がこの世界に来た事で、元の運命に添わせようとする強制力とアリアの願いが合致し、より一層の相乗効果を齎す力を発揮した。
 
 その結果、宝玉に多大な負荷が加わり、予想を反する勢いで、負のエネルギーが宝玉に溜め込まれたのではないかというのがラケシス様の見解だと言う事だった。
 
 
 
「これからどうすればいいと思う?」
 
 グレイにそう尋ねると、真剣な眼差しで私を見る。
 
「エマはどうしたい?」
 
 そう尋ねてくるグレイに言葉が詰まる。
 
「もう、何も思いつかないの。どうしたらいいか分からない。爆発の危険性をアリアに伝えられたら一番いいとは思うけど、絶対に信じてくれないだろうし。
 無理やり奪う事も考えたけど、万が一失敗したら、アリアだけじゃなくて他の人からも警戒されて、もう二度と宝玉を取り返すチャンスすらなくなってしまう気がするし……」
 
 そう話す私にグレイは更に問う。
 
「じゃ、もう諦める?
 このまま大人しく流れにのって、最終的には強制力に従って命を落とす? その場合、この世界を見捨てる事も覚悟して?」
 
 
「それは駄目! この世界を見捨てるなんて絶対に出来ない!」
 
 
 この世界にはすでに沢山の大切な人がいる。
 お祖父様、お祖母様。
 セリーヌ。
 乳母のマリーに、その娘のアリー。
 私に優しくしてくれたメイド達。
 今は離れてしまったアストナ先生。
 私に気さくに話してくれるオリバー様。
 ベルイヤ侯爵領の領地の人達など。
 
 もちろん、父母や弟は好きではないが
 死んで欲しいだなんて思ったことはない。
 
 今まで関わってきた人達、皆に死んで欲しくない。
 
 
 グレイは私の叫びに頷いた。
 
 
「じゃ、エマの力を見せつけて、エマ自身の価値を示してアリア嬢に立ち向かってみる?」
 
 
 グレイの目は真剣だ。
 
 
 このまま何もせずにいれば、運命に流され、宝玉を取り返す事も出来ないまま終わりを迎える事になる。
 それは私自身の終わりだけではなく、この世界の終わりを意味するのだ。
 
 あと1年の猶予。
 
 こっそりとアリアから宝玉を取り返すにも限界を感じている今、アリアに宝玉の危険性を伝えて信じてもらう為にも、女神様から受け取った力を示すしかないのかもしれない。
 
 女神様から祝福を受けた、このチート能力を皆に知らしめる。
 
 
 
 宝玉を取り返した後の事は、その時に考えればいい。
 
 最優先事項は、これ以上宝玉が大きくなる前に回収する事だ。
 
 
「立ち向かうわ。能力を隠さずにアリアと対峙する」
 
 
 そう言った私にグレイは強く頷き、ぐしゃぐしゃと私の頭を強く撫でた。
 
 
「よく言った。俺がフォローするから安心して力を発揮しろ」
 
 
 そう言ったグレイは、とても優しく微笑みながら私を見つめてくる。
 
 その微笑みと眼差しに、思わず胸が高なり……
 
 
「もう! だから髪のセットが乱れるって!」
 
 
 私はまた自分の気持ちを誤魔化すようにそう叫んでいた。
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