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王立学園編~前編

31.まさかの展開

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 今日も朝から教室に向かう途中で、アリアを中心とした集団が前を歩いているのが目に入る。
 主に主力メンバーに加えて、アリアのファンや王子達の腰巾着の令息達の集団だ。
 
 ここ数年、毎朝見る光景に今や習慣化して誰も表立って反応する者はいないが、それでもその集団に向ける視線は一様に優しくないものだ。
 特にその取り巻き集団に入っている令息の婚約者は面白くないだろう。
 
「セリーヌが可哀想だわ……」
 
 思わず漏れた独り言に、後ろから声が掛かった。
 
「セリーヌ嬢がどうしたの?」
 
 その声に振り向くと、そこにオリバーが立っていた。
 
「オリバー様。ごきげんよう」
 
 私は挨拶をしてから、オリバーを見て首を傾げる。
 
「で、オリバー様、何故ここに?」
 
「ん? 今、登校してきたんだけど?」
 
「あ、そうなのですね。てっきりあの方達と一緒にいらっしゃるものだとばかり思っておりましたわ」
 
 そう言ってアリアの集団を見る。
 オリバーも視線をあの集団に向けて、「あぁ……」と、頷いた。
 
 
「何もいつも一緒にいる訳ではないよ。第1王子の側近だから一緒に行動してる事が多いだけで、率先してあの輪に入りたい訳じゃないからね」
 
 なるほど。そうなのね。
 
 私がその答えに納得していると、ふいに私の鞄をオリバーが奪う。
 
「え?」
 
 驚く私に、オリバーは笑顔だ。
 
「持ってあげるよ。教室まで一緒に行こう」
 
 そう言って、機嫌よく私の鞄を持って教室に向かって歩き出す。
 
 私も慌てて歩き出した。
 
 
「今日は君のナイトは居ないんだね?」
 
 そう言ったオリバーに首を傾げる。
 
「ナイト?」
 
「ほら。いつも一緒にいる隣国の留学生だよ」
 
 ああ、グレイの事か。
 ナイトだなんて、そんなカッコいいものだったかな?
 
「祖父との繋がりで、昔から知っていたので、それで他の人より話しやすいんですよ」
 
「付き合っている訳では無いの? 婚約者候補とか」
 
「いえいえ、まさか」
 
 私の答えに、一層機嫌よくなったオリバーは、
「じゃ、俺が立候補してもいいかな?」
 と言ってきた。
 
「へ?」
 
 思わず令嬢らしからぬ返答をしてしまった事は許してほしい。
 だってまさかオリバーが私にそんな事を言ってくるとは思わなかったのだ。
 
 
「はい、教室に到着。鞄返すね」
 
 そう言ってオリバーは私に鞄を渡した後、にっこりと笑顔で言った。
 
「今の、本気だから。考えといてね」
 
 そう言って、先に着いていたアステルの元に行く。
 
 
 へ?
 
 
 頭が真っ白だ。
 
 確かにオリバーには婚約者はいない。
 
 でも小説のとおり、オリバーもてっきりアリアに惹かれているとばかり思っていた。
 
 
 
 教室のドアの前から微動だにしない私に、少し後から来たグレイが不機嫌そうに言う。
 
「いつまでも呆けてないで、どけ。
 通行の邪魔だろう」
 
 そう言って私を押し退けて、とっとと自分の席に座る。
 
 うん、あんなのがナイトなわけないよね!
 
 ムカつきながら私も自分の席に着席した。
 
 
 その様子を見ていたセリーヌが、ワクワクしながら話し掛けてくる。
 
「エマ! 貴女と友達になれてとても良かったですわ! 恋愛小説の中の三角関係? っていうのかしら? それが間近で見れるのですもの!」
 
「ちょっと! 他人事だと思って! それに三角関係なんてならないわよ? グレイとはそういうんじゃないんだからねっ」
 
 そう言った私に、セリーヌはうんうんと頷きなから
「分かっておりますわ! 秘密の関係なのですね!」
 と、1人盛り上がっていた。
 
 
 なんかこの性格、何となくラケシス様を彷彿させる。
 似た者同士かも知れない……。
 
 はぁ……っと、私は1人ため息を吐いた。
 
 
 
 
 
 その日の夕方、学園から帰ってくると久しぶりに父から声を掛けられた。
 
「エマ、話がある。執務室に来なさい」
 
 そう言って、父は執務室に向かった。
 
 私も父の後を付いていく。
 
 
 執務室に入ると、さっそく父から話しを切り出される。
 
「突然だが、お前は第1王子の婚約者候補になった」
 
 はっ?
 
 あまりの事に、言葉が出ない。
 何故?
 第1王子はこの事を知っているのか?
 知らないなら、ぜひ第1王子に伝えて断ってほしい。
 
 
「この事は、陛下からの王命であり、第1王子殿下も了承済みだ」
 
 父が淡々と説明する。
 
 私は何とか、言葉にならない声を発した。
 
「あ……あ、の」
 
「何だ」
 
 私の反応に不機嫌そうに父は返答する。
 私はもう一度、頑張って言葉を発した。
 
「候補という事は、他には誰が?」
 
 私の質問に、父はあっさりと答える。
 
「聖女候補のアリア嬢だ。お前とアリア嬢の2人が婚約者候補として上がった」
 
 
 ああ。なんて事。
 
 やはり運命は決められた通りに動いているのか……。
 
「近々王子妃教育が始まる予定だ。そのつもりをしておくように」
 
 父の言葉が頭の中をすり抜けていく。
 
 ボーッと突っ立っている私に向かって父は話しを切り上げた。
 
「要件はそれだけだ。下がっていい」
 
 
「……はい。失礼します」
 
 
 何とかそう言って、執務室を後にする。
 
 自分の部屋に戻った私を見て、私付きのメイドのマリーがびっくりして声をあげた。
 
 
「お嬢様!? 何処か具合でもお悪いのですか!?
 顔色が真っ青になっておりますよ!?
 大変! お医者様をすぐに呼ばないと!」
 
 
 騒ぐマリーに、大丈夫だから暫く1人にして欲しいとお願いして、部屋を出てもらう。
 
 
 1人になった私は、今後の展開を思うとゾッとした。
 
 よりによって、アリアと私だけが婚約者候補だなんて……。
 王命を撤回する事は出来る訳もなく、第1王子も渋々受けた事は容易に想像出来る。
 
 
「私だってあんな王子、願い下げよ!」
 
 
 思わず叫んでベッドにダイブした。
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