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王立学園編~前編

24.エマの力①

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「おはよう、エマ」
 
 教室に入ると、セリーヌが私に笑顔で声を掛けてくれる。
 グレイもすでに教室に着いていたようで、チラっとこちらを見る。

 学園内で色々な悪評を立てられている私だが、グレイはもちろんセリーヌも今まで通りに傍に居てくれるため、孤立せずに普通に過ごせている。
 2人には感謝しかない。
 
 
 
「おはよう、セリーヌ、グレイ」
 
 私も挨拶をして席に着いた。
 
 私の席はセリーヌの後ろで、左隣がグレイだ。
 
 席は特に決まりはなく自由なのだが、いつも同じ場所に座るグレイは、教室の窓際の後ろがすでにグレイの定位置となっている為、自然と私達もその近くに座るようになった。
 
 たまにグレイより早く来た人が、グレイの定位置に座った事があったが、その時のグレイの不機嫌さは半端なく、その席に座った人はグレイから威圧され続け、午後には調子を崩して早退してしまった。
 
 そんな事があってから、その席はグレイの席として、誰も遠慮して座らなくなったのだ。
 
 
「変なところに拘るんだから。全然その気持ちが分からない」
 
 
 私がそう言うと、セリーヌもうんうんと頷く。
 
 グレイは少し顔を顰めながら、
「この席が1番落ち着くんだよ」
 と、そこで窓の方を向きながら言った。
 
「それに……ここから見えていたぞ。また周りから色々言われていたな。今日は助っ人が現れたようだが」
 
 グレイは窓の方を向きながらそう話す。
 セリーヌがその話に、興味津々といった様子で
「まぁ、なんなのです? 助っ人とは? 誰がエマを助けて下さいましたの?」
 と、聞いてきた。
 
「ベオグラード侯爵令息よ」
 
 私がそう答えると、セリーヌは意外そうに首を傾げる。
 
「ベオグラード侯爵令息? アリア様の取り巻きの一人ですわよね? 大丈夫なんですの? 何か企むとかないですの?」
 
「まさか。普通にいい人よ」
 
 
 小説の中では、確かオリバーはアリアに恋していたようだ。だから、アリアを虐めるエマが大嫌いだったはず。
 
 でも実際のオリバーは、入園前に出会った時から私に対する態度は全く変わらない。
 
「オリバー様には、変わらず真っ直ぐな性格のままでいてほしいわ……」
 
 私の呟きにセリーヌは、何か勘違いをしているようなニヤけた顔で頷いていた。
 
 
 
 
 
 
 
 今日は魔法学の日だ。
 聖属性は少ない為、各学年合わせての授業になる。
 私の学年からはもちろんアリアと私が聖属性だ。学年によってはいない年もあるので、まぁまぁ多いほうだと言える。
 
「さぁ、みんな。始めようか」
 
 アストナ先生の号令と共に授業が始まった。
 
 本日の授業は治癒魔法の発動速度を上げる練習だ。
 自分自身に治癒魔法をかけながら、発動速度を調整していく。
 
「「「ヒール」」」
 
 みんな一斉に発動条件である詠唱を唱えていく。
 
「もっと速く。戦いのさなかに少しでも早く味方にヒールを掛けられるように。イメージを大事に」
 
 アストナ先生の指導が飛ぶ中、やはり1番早く発動出来るのはアリアだった。
 
「アリア・マリーネット。その調子だ」
 
「はい!」
 
 アストナ先生に褒められて、アリアはとてもいい笑顔を見せる。
 その隣りで私もヒールを発動するが、今まで無詠唱で発動していた為、みんなに合わせて詠唱を唱えてから発動すると、どうしても発動は遅くなってしまう。
 
 アストナ先生は、私が無詠唱でも発動出来ることを知っているが何も言わないので、詠唱をした方がいいのだろう。必死で詠唱を唱えてから発動する。
 
 
「みて。エマ様、全然アリア様より発動が遅い。よくあれでアリア様を敵視出来るわよね」
「なんだ、大した事ないじゃないか。アリア嬢のほうがやはり圧倒的な凄さだな」
 
 
 周りの見学していた人達がアリアと比べながら私を蔑んでいるのが聞こえてきた。
 
 これがヒロインと悪役令嬢の差なのだろうか。
 何をしても比較され、こき下ろされる。
 
 私自身、アリアと張り合っているつもりは無いけど、周りの雰囲気がそれを許さず、気が付けばいつもアリアの行動と比較されていた。
 
 
「エマ・ベルイヤ」
 
 アストナ先生が私の名前を呼ぶ。
 
「はい」
 
「周りは気にしなくていい。自分のやり易いようにすればいいんだ」
 
 アストナ先生のその言葉に、詠唱をしなくてもいいのかと不安になる。
 
「……いいんだよ。自分のスタイルで」
 
 
 先生の言葉に私は頷き、無詠唱でヒールをかける。
 
 無詠唱のヒールは、本来の私のヒールだ。
 何度も無詠唱のまま自分にヒールをかけ続ける。
 
 素早く何度もキラキラと輝きを放つ光とともに掛けられたヒールを見て、それまで私を馬鹿にしていた周りの人達が唖然としていた。
 
 
「え? 無詠唱?」
「いきなり発動速度が増してないか?」
「この輝きはなんだ? 他のやつは白い光なのに、エマ嬢のヒールは黄金色だ」
「エマ様自体が光ってるみたい。綺麗……」
 
 
 エマは普段は悪評にて、良いように見られないが、元々容姿が整っている。
 ラベンダーピンクの緩やかな髪と、アメジスト色の切れ長の大きな目は珍しい色でとても人目を惹く。
 スタイルも成長するにつれて、令嬢にしてはやや高めだが、ほっそりとして白くて長い手足にくびれた腰、胸もそこそこにある。
 そのエマに、キラキラと黄金色に輝く光がエマを包むように舞っているのだ。
 
 そこに居た人達は、惚けるようにその光景を見ていた。
 それに加えての無詠唱に発動速度の加速。
 
 もはや、この場にいる誰もがエマの事を悪く言う人はいない。

 
 ただ1人を除いて……。
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