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王都~学園入学前

18.初めてのお茶会②

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 現在、王妃様には息子がいない。
 姫様はいらっしゃるのだが、まだ幼く、今回のお茶会には不参加のようだ。
 だから側妃様の息子である第1王子が今のところ、王太子候補となっている。
 
 
 このお茶会は、王立学園入学前の令嬢令息が集められていた事から、令息は第1王子の側近候補の選定の為の顔合わせのようなものだ。
 
 そして本来なら、令嬢達は婚約者候補の選定のためとなるが、同い年の聖女候補がすでにいる為、ほぼ決定しているようなもの。
 
 参加している令嬢達も、大半がその事を理解し、第1王子を狙って行動するものはいない。
 いや、行動を起こそうとした者はいたが、聖女候補と第1王子との距離感の近さや、親しげな様子、その様子を温かく見守っている王妃様や側妃様の姿に打ちのめされ、次の行動に移れないのだ。
 
「今日は、第1王子の婚約者のお披露目会も兼ねているみたいね」
 
 セリーヌがそう言った。
 
 本来なら候補に上がるのは、高位貴族の令嬢だ。
 公爵令嬢であるセリーヌは、第一候補であったかも知れない。
 でも実際は、候補に上がっておらず、王子から声すら掛けられない。
 
 この物語は、こんなに早くからヒロインが攻略対象爵者を選び、婚約者候補となるのであろうか?
 
 そう思いながらヒロインを見ていると、不意にヒロインの胸元から虹色に光る何かが見えた。
 
 ヒロインの胸元のペンダント。
 さっきまでは小ぶりの赤い石の付いたペンダントに見えていたが、今はその石が虹色に輝くビー玉のような石に変わっている。
 
「あ……」
 
「どうしたの?」
 
 セリーヌが聞いてきたので、さりげなく聞いてみた。
 
「アリア様がつけているペンダントトップの宝石、とても綺麗に光ってるなぁって思って……」
 
「光って? ああ、確かに日差しが当たって、とても綺麗に反射しているわね。
 宝石のカットの仕方かしら? あら? あの赤い石は魔石のようね」
 
 セリーヌの言葉に、ペンダントトップの色が変わったと思っているのは私だけかも知れないと思った。
 
 虹色に輝くビー玉のようなもの。
 
 宝玉だとして、周りには赤い魔石に見えているのは、何故だろう。
 
 (グレイ)
 
 
 心の中で強くグレイに話しかける。
 
 暫くすると、
『どうした?』
 と、グレイからの念話が届いた。
 
 (近くにいる?)
 
『ああ』
 
 (ヒロインのアリア様、いるでしょう? アリア様のペンダント、あれ宝玉じゃないの?)
 
『あのペンダントか? 赤い魔石のように見えるが……』
 
 どういう事? 私の目がおかしいの?
 グレイにまで赤い魔石としてしか見えてないなんて。
 
 (私には、あの赤い魔石が虹色のビー玉のように見えるの。正確には、今までは赤い魔石にしか見えてなかったのに、突然虹色のビー玉に変わったというか、今もその色のペンダントにしか見えない)
 
『……あれが?』
 
 (うん)
 
 グレイは暫く考えているのか、なかなか返事が来ない。
 返事を待っていると、ようやくグレイからの念話が届いた。
 
『我にはやはり、赤い魔石にしか見えない。ラケシス様に聞いてみることにしよう。暫く傍を離れるぞ』
 
 (分かった)
 
 その後は特に変わったこともなく、お茶会は想像以上に和やかに終了した。
 
 
 帰りの馬車でも母は特に何か言うわけでもなかったが、公爵令嬢と友達になった事には満足しているようだ。
 
 私も思った以上に収穫はあったと思う。
 もし、あの赤い魔石が何らかの形で姿を変えた宝玉なら、家の中に隠し持っている訳ではなく、身に着けて持ち歩いているということだ。
 家の中なら、どうやって探せばいいのかって悩んでいたけど、探す手間が省けそうだ。
 
 それにあのパーティでは、ほぼ攻略対象者が揃っていたのだ。
 グレイに前もって聞いていたので、その情報を元にしっかりと顔を覚えた。
 
 第1王子のアステル・ド・サンタベルグ
 宰相の息子、マイク・アムスワン
 大司教の息子   レスター・ザンテール
 近衛第2騎士団長息子   オリバー・ベオグラード
 聖属性魔法の使い手  ジャック・アストナ
 
 アストナ先生はお茶会には来ていないので、今後どうヒロインに関わってくるのか分からないが、私とはすでに顔合わせ済み。
 オリバーは、このお茶会に来ていて話しかけられたが、こちらに対する態度は今のところ友好的だ。ぜひオリバーとは、このまま友好的に適切な距離を保ちながらの関係でいたい。
 
 残る3名とは、本日は全く関わりを持たずに終わった。
 ぜひとも今後もこのまま関わりを持たずにいたい。
 
 宝玉をラケシス様の元に取り返し、ヒロインや攻略対象者達と関わらずに静かに過ごしていけば、この世界で長生きしながら幸せに生きていけるかも知れない。
 
 そう思いながら、私は屋敷へと帰途に着いた。
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