【完結】白い結婚が成立した女神の愛し子は、隣国で狼に狙われる

らんか

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8.新しい人生

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 バルス魔法大国では、最近小さな商会の話で持ちきりだった。
 その商会の名前は『プロビデンスの瞳』
 鑑定スキルを持つミラに因んでつけた名前だ。
 
 ミラはグランブスト伯爵家を出たあと、実家の協力を得て、すぐにバルス魔法大国に向かった。
 実家からは幼い頃よりそばにいてくれたメイドのサニーと、信頼に値する2人の従者もついて来てくれた。
 バルス魔法大国に来てから、ミラは地道な努力と、サニーらの協力を得て、ようやく立ち上げたのが『プロビデンスの瞳』と名付けた商会。
 その商会を立ち上げるまでに、すでに一年が経過していた。

 そこで扱う商品は、良い品を何処よりも低価格で扱っていると評判となり、売れ行きも上々だ。

 また、この国ではミラの髪や目の色が目立つことはない。バルス魔法大国では、色んな色の髪や目の色の人で溢れかえり、初めて見た時は度肝を抜かされた程だった。
 なので、ここでは変身グッズは使用せず、本来の姿で商売をしていた。
 しかし、本来の姿のミラは、大変美しく、別の意味では目立っており、異性からの熱い視線を送られる事もしばしば。
 まだ若いミラに何かあっては大変と、心配してくれた魔法大国の商会組合の組合長の勧めで、用心棒を雇い、ミラ自身も髪を結い上げ、伊達メガネをかけて過ごすことになったが、それでも偽りのない自分で居られることが、ミラにとってはたまらなく嬉しい事だった。
 
「ミラ様、本日は新しく取り引きをしたいと申し出てこられた方との面談予定が入っております」

 ミラの秘書代わりをしてくれているのは、実家から付いて来てくれたサニーだ。

「ありがとう、サニー。それはどちらの方かしら?」

「ハルマス王国の美術商の商会長様です」

 サニーの言葉にミラはビックリする。

「まぁ! もしかして、ヨゼス様かしら?」

「はい。ヨゼス・アーベル様とお聞きしております」

 ミラはその名前を聞いて、とても嬉しくなった。
 もう二度とお会いする事はないと思っていた大手の商会長様だ。
 いつも紳士的で、まだミラが商談に慣れていない頃から、何かと助言してくれた、優しくて尊敬に値する人。
 年齢不詳だが、ミラとそう変わらないような若々しさがあり、眼鏡を掛けているが、その下にはとても鋭く、それでいてとても綺麗な瞳が隠されている事も知っている。
 まさかバルス魔法大国に来てまで、ヨゼス様とお会い出来るとは夢にも思っていなかったミラは、いつも以上に緊張しながら、それでいて早く会いたいような、落ち着かない状態となってしまっていた。


「ミラ様、ハルマス王国の商会長様がお越しになりました」

 サニーの知らせに、慌てて出迎えに行く。

 久しぶりに会うヨゼス様は、何だか前よりも若々しくて、魅力が増したように思えた。

「お久しぶりでございます。ようこそ、我が商会へ。またお会い出来たことをとても嬉しく思いますわ」

 出迎えた私がそう言うと、ヨゼス様はとてもいい笑顔で私を見る。

「ミラ様、本当にお会いしたかった。随分と探しましたよ」

「え? わたくしを?」

「はい。貴女を。ようやく会えました」

 とても嬉しそうにそう言ったヨゼス様に、胸がドキドキし始める。
 このまま店先で話すのもという事で、すぐに応接室に案内し、改めて話をする事にした。
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