【完】瓶底メガネの聖女様

らんか

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 オリビアがルードグラノフ伯爵家を出て行ってから早二年。

 伯爵家で唯一の娘となったルイーゼは、天下をとった気持ちで毎日を過ごしていた。

「お母様! 明日、いよいよ王都に向かうのでしょう?
 私、とっても楽しみにしていたの!
 あぁ、王都にある、マーリゼイン王国学園にようやく通えるのよね!
 こんな辺鄙な領から出た事が無いなんて、有り得ないもの!
 きっと私には王都が似合うと思うの!」

 夕食の家族団欒のひととき、ルイーゼは父と母に甘えながら、王都にあるマーリゼイン王国学園への思いを叫んだ。

「ルイーゼ、はしたないぞ。
 それに言葉遣いも気を付けなさい。
 王都には、伯爵家よりも格上の方達がいるんだぞ。
 ちゃんと礼儀を弁えなさい」

 父に窘められて、ルイーゼは口を尖らせる。

「お父様! 何故今まで王都に連れて行ってはくれなかったのです!?
 ずっと行きたいって言っていたでしょう!?」

 ルイーゼの言葉に、伯爵は顔を顰めた。
 その様子を見て、ナタリーが助け舟を出す。

「ほら、ルイーゼ。我儘を言ってお父様を困らせないの。
 ここは王都からだいぶん離れているから、長旅は子供のルイーゼには無理だったのよ。
 でも、ようやく学園に通う歳になったから、お父様も許してくださったの。
 さぁ、お父様にお礼を言って?」

 母の言葉に、渋々ルイーゼは頷く。

「はぁい。
 お父様、ありがとうございます!」

 ルイーゼが感謝の意を唱えた事で、伯爵は気を取り直して、執事を呼んだ。

「おい、あれをルイーゼに渡せ」

 伯爵の言葉で、個包装された箱を持ってきた執事がルイーゼに渡す。

「これはなあに? お父様、開けてもいいですか?」

「ああ」

 ルイーゼは意気揚々と個包装された箱を開ける。

「あ! これ!」

「お前の入園祝いだ。
 前からその店のバッグと髪飾りを欲しがっていただろう。
 王都に買い付けに行った行商人に、頼んでおいたんだ」

「お父様! 大好きよ!」

 箱には、最近王都で流行っているという商会が取り扱っているバッグと、髪飾りが入っていた。
 王都で流行っているその商会は、わざわざ店に品物を見に行ったり、または行商人が各家に品物を持って行く手間を省くため、商会独自の通販雑誌たるものを至る所に配っていた。
 それにより、扱っている商品の数々がその雑誌を見ることで、手に取るように分かると評判になっていた。
 その雑誌は、映写という錬金術で作られた魔道具で、本物そっくりに紙に映し出された品物を見ることが出来る。
 その技術たるや、誰もが驚愕したが、その映写機はまだ非売品にて秘匿扱いなのだそうだ。
 その映写機を使って、王家の方々の姿を新聞で見た時には、誰もが驚いた。
 肖像画よりも鮮明で、まるでそこに居るかのような錯覚に陥る姿を表したもの。
 誰しもがその商会と取り引きをしたいと考えたが、どうやらその商会には大きなバックがついているとの事で、迂闊には手が出せないらしい。
 現状は、その商会が配布する定期的な雑誌をいち早く手に入れ、その中でも最新の物を手に入れる事が、貴族達のステータスとなりつつあった。

 もちろんその情報をルイーゼが耳にした時には、是が非でもと通販雑誌を手に入れ、そこから欲しいものをピックアップして、学園が始まるまでに手に入れたいと父におねだりしていたのだ。
 その願いが叶って、ルイーゼは有頂天になっていた。

「これで王都で田舎者とバカにされずにすむわ!
 本当にありがとう、お父様!」

 娘に満面の笑みでそう言われた伯爵は、言葉遣い……と思わなくもなかったが、娘の嬉しそうな顔に負けて、苦笑いで頷いた。


 あくる日の朝、さっそくプレゼントしてもらった髪飾りを着け、買ってもらったショルダーバッグを肩に下げて、意気揚々とルイーゼは馬車に乗り込んだ。

「きっと最新のバッグと髪飾りに、みんなが振り返って羨ましがるわ!」

 それらを持って学園に通う姿を想像しただけで、ワクワクが止まらないルイーゼは、何日もかけて王都までの道のりを難なく乗り越える。

「ほらぁ! だから王都にもっと早くでも行けたのに!」

 プンプンと可愛らしく怒りながらも、嬉しさが溢れて止まらない。

 ルードグラノフ伯爵家は、王都には滅多に来なかったため、タウンハウスは持っていなかったが、この度、ルイーゼの学園入園を機に親子で住むタウンハウスを購入した。
 これからその新しいタウンハウスに向かう事にも、ルイーゼは高揚が止まらない。
 (お義姉様が居たら、絶対羨ましがるでしょうね。
 自慢する相手が居なくなったのは残念だけど、全てが私のモノになる運命だもの! 今頃お義姉様は死んじゃってるかしら?)

 ふいに家を出ていった義姉を思い出すも、母はもちろん、実の父にまで疎まれていた義姉に未来はない。
 両親の関心は自分だけに向いている事に、改めて満足し、王都についてからは、義姉の存在すらすぐに消し飛んで、周りを物珍しげに見回していた。

 そして都心から、ちょうど貴族街に入った当たりに、白くて豪華な屋敷が見えた。

「あ! あの屋敷、素敵だわ!
 お父様! 私の住むタウンハウスもあの屋敷のようなところがいい!」

 ルイーゼの言葉に、同じ馬車に乗ってウトウトしていた伯爵は、馬車の窓から外を見てため息を吐く。

「ルイーゼ、ここは高位貴族のタウンハウスがある場所だ。
 我々のタウンハウスは、もう少し都心から離れた場所にある」

「……えぇ!? ここじゃないの?」

 あからさまにガッカリしながら、その白い高貴な屋敷を恨めしそうに、いつまでも馬車から見ていた。
 
 
 
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