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最終章
踏み出す未来
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「蒼月、同じクラスだな!」
クラス発表を見ていたら、聖也が明るく声をかけてきて肩を叩いた。
いつもと変わらない無邪気な笑顔を見て、俺も小さく笑いかける。
でも、素直じゃない俺は聖也と同じクラスになった喜びを表に出さない。
「聖也の面倒見なきゃいけないとか、また俺の苦労が増えるじゃん」
「そんなこと言って、俺と一緒で本当は嬉しいくせに。このこの~」
「…うっざ」
「あははっ! まあ今年もよろしくな!」
――流奈がいなくなってから2年、俺は高校3年生になった。
16歳まで生きられないと言われた俺が、今年18歳になろうとしている。
流奈の歳に追いつこうとしているなんて、なんだか不思議な感じだ。
まさか自分が16歳、17歳になれるなんて、手術をするまでは思いもしなかった。
彼女がいない日々はどこか色をなくしたように感じたけれど、そんな中でも俺は生きていく。
どんなにつらくても苦しくても、……そして流奈がいなくても。
そのまま教室へ向かおうとする聖也に、「行くとこがあるから」と告げる。
彼はそのことを追究したりせずに、「わかった」と言うだけ。
きっと、わかってる。
俺が今から行こうとしているところがどこか知らなくても、流奈との思い出の場所だということを。
彼女がいなくなってからも度々なにか理由をつけて行っているのを見れば、それが流奈と関係していることくらい。
あれ以来、彼女のことを口には出していない。
まだ2年――忘れられるわけがないことくらい、聖也はわかってるはずだ。
初恋は特別だと言うけど本当にそうで、流奈はずっと特別な女の子だ。
この先もし他に好きな人ができて付き合う子ができても、きっと。
「先行ってるからなー」
聖也はそれだけを言うと、手をひらひらとさせて軽快な足取りで教室のほうへと向かう。
その後ろ姿を見て、なにも聞いてこない優しさや思いやりに安心を覚えた。
そして俺は、聖也とは逆方向、流奈とよく一緒に過ごした場所へと向かった。
***
空にホースの水を打ち上げる。
綺麗な七色の虹が架かり、それが今も流奈と繋がっているように思えた。
…いや、繋がっていればいいと、そうであってほしいと願った。
どんな形でもいい、どんなふうでもいい、彼女を感じられるならなんだって。
忘れたくないから。
叶わなかった約束も含めて、流奈とのすべてを覚えていたくて。
だから、こんなふうに縋るように流奈との思い出の場所に何度も足を運んでしまう。
――流奈、見てるか?
空を仰げながら、今日も空の上にいるだろう彼女にそう話しかける。
青い空に彼女の笑顔が見えるようで、それだけで自然と口元が緩む。
側にいなくても流奈はいつも俺を笑顔にしてくれる、そんな存在だ。
「わ、虹だっ!」
思いもしない声に驚いて振り向くと、そこには一人の女の子の姿があった。
ふと見えた上靴は青色で、どうやら2年生らしかった。
「あ、すみません! 邪魔しちゃいましたね」
流奈に全然似てないのに、へらっと笑う顔はどこか彼女を思い出させた。
「虹、好きなんですか?」
人懐っこく話しかけてくる後輩は、やっぱりどことなく流奈を思わせる。
彼女もこんなふうに馴れ馴れしく話しかけてきて、人を振り回してばかりだった。
その時のことを思い出して、ふっ、と思わず笑ってしまった。
いつもどんな時でも、流奈との思い出は俺の生きる糧になっていた。
「そうだな、……好きだな」
「私も好きなんです。だって、虹って誰かと繋がってるような気がしません?」
「え」
「ほら、現に私達が今こうしているのも虹が架け橋になってくれたからじゃないですか?」
流奈と同じようなことを言う。
まるで流奈といるような不思議な感覚さえして、無意識に頷いていた。
そのことに自分が驚き、俺は水道の蛇口を捻って水を止めた。
それでも、虹は変わらずに空に架かったままで、薄く跡を残していた。
「あの、ここによく来るんですか?」
そう聞かれて、「たまにね」と答えた。
たまになんてものじゃない、流奈に会いたい時や流奈と話したい時にはここに来てる。
そうすれば、大好きな彼女がここに来てくれるような気がして。
「じゃあ……私も、また来ていいですか?」
勝手にすれば――そう言おうとして、でも言えなかったのは向けてくる瞳が流奈を思わせたから。
なにも知らない、初めて見る後輩の女の子なのに、なにがこんなにも流奈を感じさせるんだろう。
彼女が近づこうとして足を踏み出した途端、なにかにつまずいて転びそうになる。
自然と体が動いて手を伸ばすものの、支えきれずにそのまま倒れてしまった。
初めて会った子とこんな近距離にいることに多少の後ろめたさを感じて、すぐに離れようとする。
……だけど。
とくん、と目の前の彼女の心音を感じて、それがとても懐かしい気がした。
わからないけど、とても心地のいい音のような気がして動けなかった。
「あの、名前なんて言うんですか?」
答える理由なんてないときっといつもならそう思ったはずなのに、なぜか俺の口は気持ちとは反対に名前を奏でていた。
「一条蒼月。……君は?」
「私は――」
触れ合ったところから感じる心音はやっぱり懐かしくて、俺の心を揺らしていた。
そして、上に広がる空には今もまだ虹が架かったままで流奈の気配を感じた気がした。
【END】
クラス発表を見ていたら、聖也が明るく声をかけてきて肩を叩いた。
いつもと変わらない無邪気な笑顔を見て、俺も小さく笑いかける。
でも、素直じゃない俺は聖也と同じクラスになった喜びを表に出さない。
「聖也の面倒見なきゃいけないとか、また俺の苦労が増えるじゃん」
「そんなこと言って、俺と一緒で本当は嬉しいくせに。このこの~」
「…うっざ」
「あははっ! まあ今年もよろしくな!」
――流奈がいなくなってから2年、俺は高校3年生になった。
16歳まで生きられないと言われた俺が、今年18歳になろうとしている。
流奈の歳に追いつこうとしているなんて、なんだか不思議な感じだ。
まさか自分が16歳、17歳になれるなんて、手術をするまでは思いもしなかった。
彼女がいない日々はどこか色をなくしたように感じたけれど、そんな中でも俺は生きていく。
どんなにつらくても苦しくても、……そして流奈がいなくても。
そのまま教室へ向かおうとする聖也に、「行くとこがあるから」と告げる。
彼はそのことを追究したりせずに、「わかった」と言うだけ。
きっと、わかってる。
俺が今から行こうとしているところがどこか知らなくても、流奈との思い出の場所だということを。
彼女がいなくなってからも度々なにか理由をつけて行っているのを見れば、それが流奈と関係していることくらい。
あれ以来、彼女のことを口には出していない。
まだ2年――忘れられるわけがないことくらい、聖也はわかってるはずだ。
初恋は特別だと言うけど本当にそうで、流奈はずっと特別な女の子だ。
この先もし他に好きな人ができて付き合う子ができても、きっと。
「先行ってるからなー」
聖也はそれだけを言うと、手をひらひらとさせて軽快な足取りで教室のほうへと向かう。
その後ろ姿を見て、なにも聞いてこない優しさや思いやりに安心を覚えた。
そして俺は、聖也とは逆方向、流奈とよく一緒に過ごした場所へと向かった。
***
空にホースの水を打ち上げる。
綺麗な七色の虹が架かり、それが今も流奈と繋がっているように思えた。
…いや、繋がっていればいいと、そうであってほしいと願った。
どんな形でもいい、どんなふうでもいい、彼女を感じられるならなんだって。
忘れたくないから。
叶わなかった約束も含めて、流奈とのすべてを覚えていたくて。
だから、こんなふうに縋るように流奈との思い出の場所に何度も足を運んでしまう。
――流奈、見てるか?
空を仰げながら、今日も空の上にいるだろう彼女にそう話しかける。
青い空に彼女の笑顔が見えるようで、それだけで自然と口元が緩む。
側にいなくても流奈はいつも俺を笑顔にしてくれる、そんな存在だ。
「わ、虹だっ!」
思いもしない声に驚いて振り向くと、そこには一人の女の子の姿があった。
ふと見えた上靴は青色で、どうやら2年生らしかった。
「あ、すみません! 邪魔しちゃいましたね」
流奈に全然似てないのに、へらっと笑う顔はどこか彼女を思い出させた。
「虹、好きなんですか?」
人懐っこく話しかけてくる後輩は、やっぱりどことなく流奈を思わせる。
彼女もこんなふうに馴れ馴れしく話しかけてきて、人を振り回してばかりだった。
その時のことを思い出して、ふっ、と思わず笑ってしまった。
いつもどんな時でも、流奈との思い出は俺の生きる糧になっていた。
「そうだな、……好きだな」
「私も好きなんです。だって、虹って誰かと繋がってるような気がしません?」
「え」
「ほら、現に私達が今こうしているのも虹が架け橋になってくれたからじゃないですか?」
流奈と同じようなことを言う。
まるで流奈といるような不思議な感覚さえして、無意識に頷いていた。
そのことに自分が驚き、俺は水道の蛇口を捻って水を止めた。
それでも、虹は変わらずに空に架かったままで、薄く跡を残していた。
「あの、ここによく来るんですか?」
そう聞かれて、「たまにね」と答えた。
たまになんてものじゃない、流奈に会いたい時や流奈と話したい時にはここに来てる。
そうすれば、大好きな彼女がここに来てくれるような気がして。
「じゃあ……私も、また来ていいですか?」
勝手にすれば――そう言おうとして、でも言えなかったのは向けてくる瞳が流奈を思わせたから。
なにも知らない、初めて見る後輩の女の子なのに、なにがこんなにも流奈を感じさせるんだろう。
彼女が近づこうとして足を踏み出した途端、なにかにつまずいて転びそうになる。
自然と体が動いて手を伸ばすものの、支えきれずにそのまま倒れてしまった。
初めて会った子とこんな近距離にいることに多少の後ろめたさを感じて、すぐに離れようとする。
……だけど。
とくん、と目の前の彼女の心音を感じて、それがとても懐かしい気がした。
わからないけど、とても心地のいい音のような気がして動けなかった。
「あの、名前なんて言うんですか?」
答える理由なんてないときっといつもならそう思ったはずなのに、なぜか俺の口は気持ちとは反対に名前を奏でていた。
「一条蒼月。……君は?」
「私は――」
触れ合ったところから感じる心音はやっぱり懐かしくて、俺の心を揺らしていた。
そして、上に広がる空には今もまだ虹が架かったままで流奈の気配を感じた気がした。
【END】
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