青春リフレクション

羽月咲羅

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第16章

つらい現実(1)

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 気付けば、朝になっていた。
 学校が終わったら来ると言った流奈は、どれだけ待っても来なかった。
 いつもなら遅くなっても来て面会時間ギリギリまで話していくのに、昨日は連絡ひとつなくて。
 スマートフォンでメッセージを送ったり電話をかけたりしたけど、結局繋がらないまま。
 彼女からの返信もないまま、こうして朝を迎えてしまった。

「……なんで、来ないんだよ」

 来るって言ったのに。
 話聞いてねって言ってたくせに。
 来てくれなかったら、どれだけ言いたくても言えねえじゃん。
 メッセージで言うこともできるけど、やっぱり直接顔を見て言いたい。
 流奈がどんな反応をしてどんな顔をするのか、この目でちゃんと見たい。

 俺はもう一度、電話をかけてみる。
 それは数コールで留守番電話に繋がり、無機質なアナウンスの声が流れるだけ。


 言おうと思ってたんだ。
 今までずっと言えずにいたことを今日こそは、って昨日思ったんだ。
 いつ来るのかってそわそわして、病室のドアが開くたびに大袈裟に反応したりして。

 早く来てほしいのに来てほしくない、言いたいのに伝えるのが怖い。
 そんな矛盾した感情に振り回されながら、それでも流奈に会いたかった。

 なのにどうして、昨日来てくれなかった?



「――蒼月」

 声をかけてきたのは母さんで、その顔はいつもと違って頑なだった。
 臓器移植を受けてからというもの、いつもニコニコしていたのに。
 母さんは一人じゃなく、見覚えのない男性を連れて病室に入ってきた。

 ……誰だ?

「君が蒼月くん、……あっくん?」

 いきなりそう呼ばれたことに驚きながらも、俺は小さくひとつ返事をした。
 その男性は「麻井流奈の父です」と言って、ゆっくりと頭を下げた。

「流奈のところに一緒に行ってくれるかな」

 流奈のところ?
 なんだ? 嫌な予感がする。

 嫌だ、逃げたい――その感情をなんとか抑え込み、ベッドから足を下ろした。




***


 流奈の父親に連れていかれたところは――あるひとつの病室、だった。

 そこには流奈の家族だと思われる母親と妹がいて、管に繋がれて寝ている彼女を見ていた。
 思いもしない光景に声が出なくて、俺は思わず流奈に駆け寄った。

 ……なんで流奈が?
 一昨日に会った時は元気だったのに、どうしてこんなところにいるんだ?
 大丈夫なんだろ?

 流奈はいつも無邪気に人を振り回して、子供みたいに笑ってないとダメなんだ。
 こんなところで寝てたらダメで、あっくん、って呼んでくれないと。
 だけど、流奈の目が開くことはなく、かろうじて命を繋いでいるだけだった。

「っどうして、流奈が…!」

 流奈の父親のほうに視線を移すと、涙をたくさん溜めた目で俺を見た。
 そして重たい口をゆっくりと開き、どうしてこんなことになったのかを話してくれた。
 その言葉ひとつひとつを拾い上げながら、それがどこか遠く聞こえた。

 理解したくなくて、できるはずもなくて。
 ただただ、寝ている流奈の姿がいつもの流奈を打ち消してしまうようで怖かった。
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