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第14章
大切な思い出(3)
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「でも、なんで俺が16歳まで生きられないってことも知ってたの?」
初めて会ったあの時、心臓が悪いんだと言った記憶は微かにある。
だけどそれだけで、あの時の俺は病気は治るものだと信じて疑わなかった。
それに余命宣告をされたのは高校入学の少し前だったから、流奈が知っているはずがない。
「あっくんのことならなーんでもわかるんだよ」
って、おい。
答えになってねえよ。
「私は誰よりもあっくんを想ってるんだから、知らないなんてことあるわけないでしょう? 私があっくんの前に現れたのも、それが理由」
「えっ?」
「あっくんは生きることを諦めて、死ぬことを受け入れようとしてた。無理やりに笑う姿がとても痛々しくて、そんなあっくんを見るのが嫌だったの」
「………」
「私はあっくんに救われた。あっくんの言葉や前向きな姿に勇気をもらった。だから今度は私があっくんを救う番だって思ったの。私があっくんの笑顔を取り戻したいって」
今まで流奈がしたことすべては、俺を想うからこその行動だったんだ。
「けど、救われているのは私のほう。いつも頑張るあっくんに勇気をもらってる」
俺は別に頑張ってなんかない。
本当は誰よりも臆病で、つらくて苦しいことから逃げたいって思っていた。
注射をしても薬を飲んでもどうせ死ぬんだろ、ってそういう諦めを持っていた。
これ以上つらいのが嫌だったから、そう思うことで楽になろうとしていた。
だから、もうすぐ死ぬ運命が変わるなんて思ってもみなかったんだ。
「7年前もそうだし今だって。手術を受けるのもきっとすごく怖かったはずなのに、頑張ってくれた」
…違う、一人だったら無理だった。
臓器提供者が現れてもきっと手術を受けようなんて思わなかったし、もっともな理由を並べ立てて生きることから逃げようとしていた。
いっそのこと死んでしまったほうが楽になれるんじゃないかって、そんなことを思ったはずだ。
そういう想いを奥底に押しやって、そして頑張れたのは流奈がいたから。
自分のためだけじゃない、俺を想ってくれる人達のためにも頑張らないといけないとそう思ったから。
そう思わせてくれたのは――流奈、だ。
「違う、流奈がいたから頑張れたんだ」
他の誰かじゃ無理で、それこそ両親でも聖也でも、なんの意味も成さなかった。
それは流奈だからこそできたことで、彼女の存在そのものが俺の生きる原動力となっていた。
「君がいたから、君とまた出会えたから俺は生きたいって思えたんだ」
前にも伝えた言葉をもう一度伝える。
俺が流奈を大事に想ってることがちゃんと伝わるように、迷いもなくまっすぐ見つめて。
その気持ちに嘘も偽りも誤魔化しもない、――本当の気持ちだってわかってほしくて。
「最初は変なヤツだって思ってたよ。勝手に現れて振り回してなんなんだよって。けど、いつだって流奈は側にいてくれた。それがとても大事なことだったんだよ」
「えっ?」
「流奈の笑顔が、流奈との時間が俺を変えたんだ。……いや、流奈と初めて会ったあの頃に戻してくれたんだ」
まっすぐに見つめたままそう言うと、彼女の瞳からまた涙が溢れた。
その滴を指先で拭ってあげるものの、彼女の涙は止まらない。
泣いてる流奈の手を取ると、それを自分の胸にそっと当てた。
そこには移植された心臓が確かな音を奏で、ちゃんと役目を果たしている。
最初は本当に臓器移植をしていいのかと悩み、たくさん迷った。
それでも今こうして自分の中で動き、俺と一緒に生き続けられる誰かがいる。
生きることを諦めかけていた俺にとって、それだけで生きる意味が増えた気がした。
「こうやって他人の心臓が俺の中でちゃんと動いてる――流奈の言葉が俺に力を与えて、命のリレーを繋いでくれたんだ」
「……命の、リレー」
「俺は移植してくれた人の命も背負ってるんだ。もう絶対に、死にたいなんて思わない」
「…っ、あっくん」
「全部、流奈のおかげだ。ありがとう」
照れくさくてずっと言えなかった言葉を伝えると、彼女がまた抱き着いてきた。
ポロポロと涙を流し、何度も小さく頷きながら。
そんな彼女がどうしようもなく愛しくて、俺はギュッと強く抱き返した。
そして改めて、流奈への気持ちを再確認する。
初めて会ったあの時、心臓が悪いんだと言った記憶は微かにある。
だけどそれだけで、あの時の俺は病気は治るものだと信じて疑わなかった。
それに余命宣告をされたのは高校入学の少し前だったから、流奈が知っているはずがない。
「あっくんのことならなーんでもわかるんだよ」
って、おい。
答えになってねえよ。
「私は誰よりもあっくんを想ってるんだから、知らないなんてことあるわけないでしょう? 私があっくんの前に現れたのも、それが理由」
「えっ?」
「あっくんは生きることを諦めて、死ぬことを受け入れようとしてた。無理やりに笑う姿がとても痛々しくて、そんなあっくんを見るのが嫌だったの」
「………」
「私はあっくんに救われた。あっくんの言葉や前向きな姿に勇気をもらった。だから今度は私があっくんを救う番だって思ったの。私があっくんの笑顔を取り戻したいって」
今まで流奈がしたことすべては、俺を想うからこその行動だったんだ。
「けど、救われているのは私のほう。いつも頑張るあっくんに勇気をもらってる」
俺は別に頑張ってなんかない。
本当は誰よりも臆病で、つらくて苦しいことから逃げたいって思っていた。
注射をしても薬を飲んでもどうせ死ぬんだろ、ってそういう諦めを持っていた。
これ以上つらいのが嫌だったから、そう思うことで楽になろうとしていた。
だから、もうすぐ死ぬ運命が変わるなんて思ってもみなかったんだ。
「7年前もそうだし今だって。手術を受けるのもきっとすごく怖かったはずなのに、頑張ってくれた」
…違う、一人だったら無理だった。
臓器提供者が現れてもきっと手術を受けようなんて思わなかったし、もっともな理由を並べ立てて生きることから逃げようとしていた。
いっそのこと死んでしまったほうが楽になれるんじゃないかって、そんなことを思ったはずだ。
そういう想いを奥底に押しやって、そして頑張れたのは流奈がいたから。
自分のためだけじゃない、俺を想ってくれる人達のためにも頑張らないといけないとそう思ったから。
そう思わせてくれたのは――流奈、だ。
「違う、流奈がいたから頑張れたんだ」
他の誰かじゃ無理で、それこそ両親でも聖也でも、なんの意味も成さなかった。
それは流奈だからこそできたことで、彼女の存在そのものが俺の生きる原動力となっていた。
「君がいたから、君とまた出会えたから俺は生きたいって思えたんだ」
前にも伝えた言葉をもう一度伝える。
俺が流奈を大事に想ってることがちゃんと伝わるように、迷いもなくまっすぐ見つめて。
その気持ちに嘘も偽りも誤魔化しもない、――本当の気持ちだってわかってほしくて。
「最初は変なヤツだって思ってたよ。勝手に現れて振り回してなんなんだよって。けど、いつだって流奈は側にいてくれた。それがとても大事なことだったんだよ」
「えっ?」
「流奈の笑顔が、流奈との時間が俺を変えたんだ。……いや、流奈と初めて会ったあの頃に戻してくれたんだ」
まっすぐに見つめたままそう言うと、彼女の瞳からまた涙が溢れた。
その滴を指先で拭ってあげるものの、彼女の涙は止まらない。
泣いてる流奈の手を取ると、それを自分の胸にそっと当てた。
そこには移植された心臓が確かな音を奏で、ちゃんと役目を果たしている。
最初は本当に臓器移植をしていいのかと悩み、たくさん迷った。
それでも今こうして自分の中で動き、俺と一緒に生き続けられる誰かがいる。
生きることを諦めかけていた俺にとって、それだけで生きる意味が増えた気がした。
「こうやって他人の心臓が俺の中でちゃんと動いてる――流奈の言葉が俺に力を与えて、命のリレーを繋いでくれたんだ」
「……命の、リレー」
「俺は移植してくれた人の命も背負ってるんだ。もう絶対に、死にたいなんて思わない」
「…っ、あっくん」
「全部、流奈のおかげだ。ありがとう」
照れくさくてずっと言えなかった言葉を伝えると、彼女がまた抱き着いてきた。
ポロポロと涙を流し、何度も小さく頷きながら。
そんな彼女がどうしようもなく愛しくて、俺はギュッと強く抱き返した。
そして改めて、流奈への気持ちを再確認する。
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