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第11章
彼女のために(4)
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「俺、そろそろ戻るよ」
渡すものも渡したことだし、あまり遅くなりすぎると心配かけてしまう。
そもそも外出許可をもらうことも苦労したんだ、早く戻らないと。
本音を言えば、せっかく学校に来たんだからもっとゆっくりしたいところだけど、そうもいかない。
先生にバレて面倒なことになる前にここから離れないと、って思うのに、やっぱり名残惜しい。
「……もう行くの…?」
軽く服の裾を掴まれてそう言われると、ドクン、と心臓が跳ねた。
これは発作じゃない、いつも流奈にだけ大きく反応する胸の高鳴りだ。
流奈だから、彼女が特別だから、心を引っ張られてドキドキしてしまうんだ。
「もうちょっとだけ…」
そんな顔でそんな可愛いことを言われたら我慢もできなくて、思いのままに抱きしめた。
華奢な体はすっぽりと腕の中に収まり、愛しくてたまらなくなる。
生きたい――そう強く、願いたくなる。
夢のようなことだとしてもそれに縋ってしまいたくなるくらい、流奈と一緒に生きていきたい。
笑って泣いて怒って、俺だけ時間が止まるんじゃなく、二人で一緒に。
「…ん、俺も本当はもっと一緒にいたいって思ってたんだ」
見上げるように見つめてきた流奈があまりにも可愛くて、軽く額にキスを落とした。
それに物足りなさそうな顔をするから今度は唇に触れると、彼女は嬉しそうに笑った。
前にもキスしたのにやっぱり慣れなくて、触れたぶんだけ気持ちが大きくなるばかりだった。
「……ねえ、あっくん」
「ん?」
「私のこと、どう思ってる?」
そう聞かれて返答に窮して、喉の奥に言葉が詰まったままなにも出てこなかった。
流奈をどう思っているのか。
それは自分の中で確かな形としてあるのに、今はまだ出てきそうにない。
未来が見えない今の俺じゃ、気持ちを伝えることすら儘ならない。
言いたい気持ちはあるのに、未来への不安が言葉にすることを躊躇ってしまう。
「仲良くなったつもりでいるけど、あっくんにとってはただの先輩でしかないのかな?」
そんなわけない、その程度にしか思ってないような人と頻繁に会ったりしないしキスなんてもっての外。
誰にでもそんなことができるほど軽くないし慣れてもなくて、女と親しくなったのもキスをしたのも、なにもかも流奈が初めてだ。
「バカ、特別じゃなかったらキスなんてしねえよ。ただの先輩にするかよ」
「え? それって?」
「………」
「ちょっと! そこで黙るのなし! それって私のことが好きってこと?」
…言えるか。
自分の中にある気持ちがわかっていても、どれだけ伝えたいと思っていても。
「いつか必ず言うから」
「いつ?」
「そうだな……16歳の誕生日を迎えられたら、その時は絶対に言う」
「ほんとに?」
「ん、だから他の男なんか見んなよ」
こんなの言ってるようなものだ。
はっきりとした言葉を言っていなくても、流奈への気持ちが特別だということを。
それでも今はまだ言えなくて、曖昧な関係でいるしかできなかった。
先輩と後輩、友達以上恋人未満――そういう中途半端な関係。
どんなものでも、流奈がいてくれるなら俺にとってそれ以上のことはない。
「私はずっとあっくんしか見てない。あっくんだけが好きだよ」
俺が言わない言葉を流奈が言う。
彼女に先に言わせてしまったことが情けなく思うけど、その気持ちが飛び上がりたいほどに嬉しかった。
「……うん」
流奈にそう言われても俺は気持ちを言うことはなくて、ただ頷いて抱きしめる腕に力を込めるだけ。
代わりに唇をそっと重ね、お互いの温もりを分け合った。
――そして、日本臓器移植ネットワークから電話があったのはその数日後だった。
渡すものも渡したことだし、あまり遅くなりすぎると心配かけてしまう。
そもそも外出許可をもらうことも苦労したんだ、早く戻らないと。
本音を言えば、せっかく学校に来たんだからもっとゆっくりしたいところだけど、そうもいかない。
先生にバレて面倒なことになる前にここから離れないと、って思うのに、やっぱり名残惜しい。
「……もう行くの…?」
軽く服の裾を掴まれてそう言われると、ドクン、と心臓が跳ねた。
これは発作じゃない、いつも流奈にだけ大きく反応する胸の高鳴りだ。
流奈だから、彼女が特別だから、心を引っ張られてドキドキしてしまうんだ。
「もうちょっとだけ…」
そんな顔でそんな可愛いことを言われたら我慢もできなくて、思いのままに抱きしめた。
華奢な体はすっぽりと腕の中に収まり、愛しくてたまらなくなる。
生きたい――そう強く、願いたくなる。
夢のようなことだとしてもそれに縋ってしまいたくなるくらい、流奈と一緒に生きていきたい。
笑って泣いて怒って、俺だけ時間が止まるんじゃなく、二人で一緒に。
「…ん、俺も本当はもっと一緒にいたいって思ってたんだ」
見上げるように見つめてきた流奈があまりにも可愛くて、軽く額にキスを落とした。
それに物足りなさそうな顔をするから今度は唇に触れると、彼女は嬉しそうに笑った。
前にもキスしたのにやっぱり慣れなくて、触れたぶんだけ気持ちが大きくなるばかりだった。
「……ねえ、あっくん」
「ん?」
「私のこと、どう思ってる?」
そう聞かれて返答に窮して、喉の奥に言葉が詰まったままなにも出てこなかった。
流奈をどう思っているのか。
それは自分の中で確かな形としてあるのに、今はまだ出てきそうにない。
未来が見えない今の俺じゃ、気持ちを伝えることすら儘ならない。
言いたい気持ちはあるのに、未来への不安が言葉にすることを躊躇ってしまう。
「仲良くなったつもりでいるけど、あっくんにとってはただの先輩でしかないのかな?」
そんなわけない、その程度にしか思ってないような人と頻繁に会ったりしないしキスなんてもっての外。
誰にでもそんなことができるほど軽くないし慣れてもなくて、女と親しくなったのもキスをしたのも、なにもかも流奈が初めてだ。
「バカ、特別じゃなかったらキスなんてしねえよ。ただの先輩にするかよ」
「え? それって?」
「………」
「ちょっと! そこで黙るのなし! それって私のことが好きってこと?」
…言えるか。
自分の中にある気持ちがわかっていても、どれだけ伝えたいと思っていても。
「いつか必ず言うから」
「いつ?」
「そうだな……16歳の誕生日を迎えられたら、その時は絶対に言う」
「ほんとに?」
「ん、だから他の男なんか見んなよ」
こんなの言ってるようなものだ。
はっきりとした言葉を言っていなくても、流奈への気持ちが特別だということを。
それでも今はまだ言えなくて、曖昧な関係でいるしかできなかった。
先輩と後輩、友達以上恋人未満――そういう中途半端な関係。
どんなものでも、流奈がいてくれるなら俺にとってそれ以上のことはない。
「私はずっとあっくんしか見てない。あっくんだけが好きだよ」
俺が言わない言葉を流奈が言う。
彼女に先に言わせてしまったことが情けなく思うけど、その気持ちが飛び上がりたいほどに嬉しかった。
「……うん」
流奈にそう言われても俺は気持ちを言うことはなくて、ただ頷いて抱きしめる腕に力を込めるだけ。
代わりに唇をそっと重ね、お互いの温もりを分け合った。
――そして、日本臓器移植ネットワークから電話があったのはその数日後だった。
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