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第8章
知られた病気(8)
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「……なんで、なにも言ってくれなかったんだよ」
少し震えた聖也の声に視線を向けると、睨みつけるような目でこっちを見ていた。
「…っなんで! 黙ってたんだよ! 体のこと!」
聖也と仲良くなれたのはクラスメイトだからというのもあるけど、俺の体のことを知らなかったから。
体や余命のことを知ったら、こんなふうに気兼ねなく話してはくれなかった。
今までがそうだった。
体のことを知っただけでみんなして特別扱い。
簡単なことすらも取り上げられて、俺がどれだけ寂しくて悲しくてつらい想いをしてきたか。
友達と呼べる人なんて、たったの一人もいなかった。
「友達じゃねえのかよ! 俺だけか! 友達だって思ってたのは!」
「……聖也」
「なあ、ずっと一人で苦しんでたのか? 今みたいなこと何度もあったんだろ?」
学校にいる時に発作が起きることは幸いあまりなかったけど、それでも時折苦しくなることはあった。
そのたびになんとか平静を装い、逃げるようにその場から立ち去っていた。
誰かに見られないように、弱い姿を見せたくないがために必死に。
こっそりと薬を飲んで、なんでもないふりをして、バレないように笑って取り繕っていた。
「よくわかんねえけど、蒼月の体のことをわかってたら力になれることがあるかもしんねえだろ」
こんなことを言われるなんて思わなかった。
なにかあったら言って、無理しなくていいから――今まで何度も言われた言葉。
でも、いつも同情や偽善にしか聞こえなくて、心に響くことはなかった。
そう言われるたびに自分は違うんだ、みんなと同じにはなれないんだと思った。
けど聖也は違う、俺や体のことをちゃんとわかろうとしてくれている。
俺が抱えているもの、感じているもの、そういうことを知ろうとする努力が胸に響いた。
どうしてもっと早く出会わなかったんだろうって、もっと早く聖也と友達になりたかったって思うほどに。
「なんでも一人で抱え込むことねえだろ。俺にも蒼月の力にならせろよ」
「……迷惑だろ、んなん」
「アホか! 迷惑くらい掛けろ! そんなんで友達やめるくらいなら最初から友達になってねえよ!」
「………」
「体のことを知ったからってなにも変わらない。蒼月は大事な友達だ」
体のことを知られるのが怖かった。
面倒で厄介で、自分でもそう思うのに、クラスメイトや友達になんて言えなかった。
なのに聖也は、表面的に友達として接してくれていたわけじゃなかったんだ。
壁を作って一線を引いていたのは、周りじゃなくて俺のほうだった。
「頑張れ、なんて言わねえよ。ただ、強がんなよ」
頑張らないといけない、弱音を吐いたらいけない、痛いのも苦しいのも我慢しないといけない。
俺はずっとそう思って、どんなにつらい治療も頑張ってきたつもりだ。
無理やりにでも笑って、心配かけないように取り繕って、表面だけでも強がって。
そうしないと、俺に関わるすべての人達を責めてしまうような気がした。
誰も悪くないのに、なんで、なんてそう思ってしまう自分が醜くて嫌だった。
みんなはあんなに楽しそうなのに、どうして同じことができないんだろうって。
同じふうにできたら、笑えたら、って何度も思って、いつもできないことに絶望した。
「苦しい時やつらい時は言えよ。頼れよ。我慢させてるほうが嫌なんだよ」
「………」
「友達だろ? これからもずっと友達だろ? だから――死ぬなよ」
「……聖也」
「俺、嫌だからな。お前の葬式とか出んの。どんなことでもしてやっから、ずっと友達でいろよ」
肩を掴む聖也の手。
それが小さく震えていたのは、俺の体のことを知ったせいだというのがわかった。
こんなにも想ってくれていることを知らず、所詮は今だけの関係に過ぎないと思っていた。
どれだけ仲良くしていても俺がいなくなれば、会うことがなくなれば忘れるだろうって。
その程度の関係、友情だと思っていたのに、そうじゃなかったんだ。
少し震えた聖也の声に視線を向けると、睨みつけるような目でこっちを見ていた。
「…っなんで! 黙ってたんだよ! 体のこと!」
聖也と仲良くなれたのはクラスメイトだからというのもあるけど、俺の体のことを知らなかったから。
体や余命のことを知ったら、こんなふうに気兼ねなく話してはくれなかった。
今までがそうだった。
体のことを知っただけでみんなして特別扱い。
簡単なことすらも取り上げられて、俺がどれだけ寂しくて悲しくてつらい想いをしてきたか。
友達と呼べる人なんて、たったの一人もいなかった。
「友達じゃねえのかよ! 俺だけか! 友達だって思ってたのは!」
「……聖也」
「なあ、ずっと一人で苦しんでたのか? 今みたいなこと何度もあったんだろ?」
学校にいる時に発作が起きることは幸いあまりなかったけど、それでも時折苦しくなることはあった。
そのたびになんとか平静を装い、逃げるようにその場から立ち去っていた。
誰かに見られないように、弱い姿を見せたくないがために必死に。
こっそりと薬を飲んで、なんでもないふりをして、バレないように笑って取り繕っていた。
「よくわかんねえけど、蒼月の体のことをわかってたら力になれることがあるかもしんねえだろ」
こんなことを言われるなんて思わなかった。
なにかあったら言って、無理しなくていいから――今まで何度も言われた言葉。
でも、いつも同情や偽善にしか聞こえなくて、心に響くことはなかった。
そう言われるたびに自分は違うんだ、みんなと同じにはなれないんだと思った。
けど聖也は違う、俺や体のことをちゃんとわかろうとしてくれている。
俺が抱えているもの、感じているもの、そういうことを知ろうとする努力が胸に響いた。
どうしてもっと早く出会わなかったんだろうって、もっと早く聖也と友達になりたかったって思うほどに。
「なんでも一人で抱え込むことねえだろ。俺にも蒼月の力にならせろよ」
「……迷惑だろ、んなん」
「アホか! 迷惑くらい掛けろ! そんなんで友達やめるくらいなら最初から友達になってねえよ!」
「………」
「体のことを知ったからってなにも変わらない。蒼月は大事な友達だ」
体のことを知られるのが怖かった。
面倒で厄介で、自分でもそう思うのに、クラスメイトや友達になんて言えなかった。
なのに聖也は、表面的に友達として接してくれていたわけじゃなかったんだ。
壁を作って一線を引いていたのは、周りじゃなくて俺のほうだった。
「頑張れ、なんて言わねえよ。ただ、強がんなよ」
頑張らないといけない、弱音を吐いたらいけない、痛いのも苦しいのも我慢しないといけない。
俺はずっとそう思って、どんなにつらい治療も頑張ってきたつもりだ。
無理やりにでも笑って、心配かけないように取り繕って、表面だけでも強がって。
そうしないと、俺に関わるすべての人達を責めてしまうような気がした。
誰も悪くないのに、なんで、なんてそう思ってしまう自分が醜くて嫌だった。
みんなはあんなに楽しそうなのに、どうして同じことができないんだろうって。
同じふうにできたら、笑えたら、って何度も思って、いつもできないことに絶望した。
「苦しい時やつらい時は言えよ。頼れよ。我慢させてるほうが嫌なんだよ」
「………」
「友達だろ? これからもずっと友達だろ? だから――死ぬなよ」
「……聖也」
「俺、嫌だからな。お前の葬式とか出んの。どんなことでもしてやっから、ずっと友達でいろよ」
肩を掴む聖也の手。
それが小さく震えていたのは、俺の体のことを知ったせいだというのがわかった。
こんなにも想ってくれていることを知らず、所詮は今だけの関係に過ぎないと思っていた。
どれだけ仲良くしていても俺がいなくなれば、会うことがなくなれば忘れるだろうって。
その程度の関係、友情だと思っていたのに、そうじゃなかったんだ。
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