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第8章
知られた病気(6)
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「えっ? 蒼月…っ!?」
タイミングがいいのか悪いのか、ちょうどそこに通りかかったのは聖也だった。
俺の様子がいつもと違うことに気付いて、駆け寄るようにして近づいてくる。
いつもなんでもないふうに、いかにも健康です、みたいな顔で振る舞っていたから。
見られたくなかった。
知られたくなかった。
俺はみんなと同じなんだって、なにも変わらないんだってそう思われたかった。
サボり魔とか問題児とか、そう思われていたほうが何倍も何十倍もよかった。
だから、病院に行かなきゃいけない時もサボるふりをしてきた。
そういうふうにして〝普通〟を演じることに、いつも必死だった。
「お前、どっか悪いのかよ?」
言えない、言いたくない。
せっかく友達になれたのに、俺の心臓が爆弾を抱えているなんてこと言えるわけがない。
――大丈夫、気にすんな。
そう言いたいのに、そう言えればいいのに、今の俺には言えそうにない。
浅く呼吸をするのに精一杯で、無理やりに笑いかけて平気だと伝えるだけ。
こんなの軽い発作だ、少し休めば楽になる。
今まで何度も経験してるんだから、これですぐに死ぬってことはない。
それでも苦しいものは苦しいし、つらいものはつらい。
発作が起きるたびに、今度こそダメなんじゃないか、って不安と恐怖に襲われる。
すぐに薬を飲まないと、って思うのに、聖也がいるところで飲みたくない。
けど、そういうわけにもいかず。
「…っ…」
俺は鞄から薬を取り出して、すぐにそれを口に放り込んで舌で溶かす。
何度も飲んでいるものだ、溶かさずに飲み込むなんてことはしない。
それを服用してからしばらくして、苦しかった呼吸も少し楽になった。
俺は大きく息を吐き、廊下だというのも気にせずにそのまま座り込む。
「はは、悪い。平気だから」
なんでもないように笑う。
でも聖也は変わらずに心配そうで、先輩は先輩でどうすればいいのか考えあぐねていた。
「……っ平気なわけ、ねえだろ」
今にも泣きそうな顔をする聖也。
なんでお前がそんなつらくて苦しそうな顔をするんだ、高校で知り合ったばかりなのに。
まだ付き合いも浅いし、そこまで気に掛けてくれる理由なんてないのに。
友達だとしても所詮は他人で、俺の病気なんて他人事に過ぎないのに。
なのに聖也は唇を噛みしめ、「すげえ苦しそうだったじゃん」と言った。
それでも俺はなにも言えなくて、大丈夫だと繰り返すしかできない。
「……心臓か」
先輩が呟くように言って、思わず顔を思いきり彼のほうへと向けた。
薬を見たところでなんの薬かわかるはずがないのに、彼はなぜか知っているようだった。
「俺の親父が同じのを飲んでた。……あと、これさっき鞄から落ちた」
それは杉野先生からもらった臓器移植の紙だった。
慌ててそれを奪い取るものの、一度見られてしまった以上は意味がない。
それだけで俺の心臓が良くないことも臓器移植の話があることもわかったはずだ。
そしてきっと、俺の命のタイムリミットが迫っていることも。
「…蒼月がよくサボってた理由って――」
なに言ってんの、たいしたことねえよ、ってそう言えばいいのに言えない。
せめてこの学校では、健康な高校生として過ごしていたかった。
タイミングがいいのか悪いのか、ちょうどそこに通りかかったのは聖也だった。
俺の様子がいつもと違うことに気付いて、駆け寄るようにして近づいてくる。
いつもなんでもないふうに、いかにも健康です、みたいな顔で振る舞っていたから。
見られたくなかった。
知られたくなかった。
俺はみんなと同じなんだって、なにも変わらないんだってそう思われたかった。
サボり魔とか問題児とか、そう思われていたほうが何倍も何十倍もよかった。
だから、病院に行かなきゃいけない時もサボるふりをしてきた。
そういうふうにして〝普通〟を演じることに、いつも必死だった。
「お前、どっか悪いのかよ?」
言えない、言いたくない。
せっかく友達になれたのに、俺の心臓が爆弾を抱えているなんてこと言えるわけがない。
――大丈夫、気にすんな。
そう言いたいのに、そう言えればいいのに、今の俺には言えそうにない。
浅く呼吸をするのに精一杯で、無理やりに笑いかけて平気だと伝えるだけ。
こんなの軽い発作だ、少し休めば楽になる。
今まで何度も経験してるんだから、これですぐに死ぬってことはない。
それでも苦しいものは苦しいし、つらいものはつらい。
発作が起きるたびに、今度こそダメなんじゃないか、って不安と恐怖に襲われる。
すぐに薬を飲まないと、って思うのに、聖也がいるところで飲みたくない。
けど、そういうわけにもいかず。
「…っ…」
俺は鞄から薬を取り出して、すぐにそれを口に放り込んで舌で溶かす。
何度も飲んでいるものだ、溶かさずに飲み込むなんてことはしない。
それを服用してからしばらくして、苦しかった呼吸も少し楽になった。
俺は大きく息を吐き、廊下だというのも気にせずにそのまま座り込む。
「はは、悪い。平気だから」
なんでもないように笑う。
でも聖也は変わらずに心配そうで、先輩は先輩でどうすればいいのか考えあぐねていた。
「……っ平気なわけ、ねえだろ」
今にも泣きそうな顔をする聖也。
なんでお前がそんなつらくて苦しそうな顔をするんだ、高校で知り合ったばかりなのに。
まだ付き合いも浅いし、そこまで気に掛けてくれる理由なんてないのに。
友達だとしても所詮は他人で、俺の病気なんて他人事に過ぎないのに。
なのに聖也は唇を噛みしめ、「すげえ苦しそうだったじゃん」と言った。
それでも俺はなにも言えなくて、大丈夫だと繰り返すしかできない。
「……心臓か」
先輩が呟くように言って、思わず顔を思いきり彼のほうへと向けた。
薬を見たところでなんの薬かわかるはずがないのに、彼はなぜか知っているようだった。
「俺の親父が同じのを飲んでた。……あと、これさっき鞄から落ちた」
それは杉野先生からもらった臓器移植の紙だった。
慌ててそれを奪い取るものの、一度見られてしまった以上は意味がない。
それだけで俺の心臓が良くないことも臓器移植の話があることもわかったはずだ。
そしてきっと、俺の命のタイムリミットが迫っていることも。
「…蒼月がよくサボってた理由って――」
なに言ってんの、たいしたことねえよ、ってそう言えばいいのに言えない。
せめてこの学校では、健康な高校生として過ごしていたかった。
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