青春リフレクション

羽月咲羅

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第8章

知られた病気(1)

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 いつもと同じ家族揃っての朝食。
 自分から積極的に話すことはせず、両親が話しているのを耳に入れるだけ。
 その時間は苦痛ではないけど、多少の居心地の悪さはどうしても拭えない。
 なんでもないふうを装いながらも俺を気遣うような雰囲気や態度は消しきれなくて、仕方ないと思うもののそれが嫌だった。


「……あのさ」

 ほとんど話さずに食べていた俺が口を開くと、二人の視線が向けられる。

「今日、杉野先生のとこに行こうと思うんだけど」

 そう言ったら両親は顔を見合わせ、不思議そうな顔で俺をまっすぐ見てくる。
 それも無理ない。
 今日は定期検診の日でもなく、予約していない日で行くことなんて今までなかったから。

「どうして? 検診じゃないわよね?」
「知りたいんだ」
「なにを?」
「本当に死ぬのか、生きる方法はないのか」

 流奈と出会ってたくさんの時間を共にして、やっとそう思えた。
 諦めることは簡単だ。
 でも、まだなにもしてないのに、やれることをなにひとつしてないのに諦めたくなかった。
 自分のために、流奈のために、生きることを諦めたくなくなった。
 生きられるなら、その方法があるなら、そのためにできることならなんでもしたかった。

 自分だけなら、こんなふうには思わなかった。
 どれだけ家族が想ってくれていても、生きることに前向きにはなれなかった。
 でも、流奈のことを考えた時、生きたいと、生きなきゃいけないと思った。

「なにかあったのか?」

 父さんがそう聞く。
 今まで俺は生きることを諦め、生きる方法がないのか考えたことはなかった。
 別に死んでもいい、というスタンスでいたから、そう聞いてくるのもわかる。
 それは責めているふうではなく、どうしてなのか不思議そうな言い方だった。

「なにもない。ただ生きてみたくなったんだ」

 そう、ただそれだけ。
 流奈が悲しむのを、泣くのを見たくなくて、それが俺が生きることならそうしたい。

「杉野先生に言われたんだ。生きる理由を誰かの中に探しなさい、って」
「誰かの中に?」
「俺はまだその意味がよくわからない。でも、俺がいなくなったら悲しむヤツがいる。俺はアイツを悲しませたくない」

 生きたい――そう思う理由なんてそれで十分だ。
 自分のためだけに生きるのは限度があっても、そこに〝誰か〟が加わるだけで前向きになれたりする。
 俺にとって、それが流奈だった。
 俺の体のことを知っているにもかかわらず、はっきりしたことは言わず同情もせず、そういう彼女だから楽で一緒にいると楽しい。
 急に現れた流奈は、家族だけじゃ埋まらない隙間を埋めようとしてくれている。

「簡単じゃないことはわかってる。つらくて苦しいことも。それでも――生きたい」

 どんな方法でもいい。
 それがカッコ悪くて醜いことだとしても、たった少しでも生きられる可能性があるならそれに賭けてみたい。
 俺が生きる意味があるなら。
 いや、意味があるから生きるんじゃない、そう思うことで生きる意味を見出すんだ。
 ここにいる意味、生まれた意味、出会った意味、そして生きていく意味を。
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