青春リフレクション

羽月咲羅

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第5章

小さな嫉妬(5)

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「安心して。ただのイトコだから」

 この前も今日も、頻繁にお見舞いに来てるくせに?
 俺が入院していた時、学校のクラスメイトやイトコは一度も来たりしなかった。
 たいして親しくもなかったから、それも普通なのかもしれない。
 だけど、どんな理由でも流奈には会いに行く男がいる――それが胸の奥に鈍く響いた。

「あ、信じてないでしょ?」
「……別にどうでもいいし」
「えぇ? 気になってるでしょ?」
「なってない」
「なんでよ。気にしてよー」

 嘘だ、ほんとはすごく気にしてる。
 俺以外にも親しい男がいる――その事実が、なんだか心を深く抉るようで。
 キリキリと痛む胸を押さえて、なんでもないふうを装うだけだった。

「私はあっくんが他の子と親しくしてたりしたら、すっごく嫌なんだけどなぁ」

 バカ、そう思うなら他の男と仲良くすんなよ。
 俺がどういう気持ちで流奈とその男のことを聞いてると思ってんだよ。

「…あのなぁ、それなら他の男のとこに行かずに俺のことだけ見てればいいだろ」

 そしたらこんなムカつくこともなく、モヤモヤした気持ちを抱えることもない。
 流奈が他の男に会いに行くから、こんなふうに落ち着かない気持ちになるんだ。

 ハッと自分の言葉に気付いたのは数秒後のことで、今さらどうもできない。
 俺だけを見てろ――なんて、まるで俺が流奈のことが好きみたいじゃないか。
 まだ知り合って間もなくて、知らないことのほうが多い彼女のことが。
 誰かを好きになったことなんてなくてわからないけど、彼女を前にすると言いようのない気持ちに包まれる。

「…っ、いや、今の嘘! 冗談!」

 そう言ったところで遅くて、目の前の流奈はというとキラキラした瞳を向けてきた。
 本当に嬉しそうな顔をするから、言いたい言葉はぐっと奥底に押しやられた。

「はい! あっくんだけ見てます!」
「…いや、だからさっきのは――」
「え? あっくんの本音だよね? 嫉妬してくれたんだよね?」
「それは、その……ちょっとだけな!」

 …あぁくそ、なんかムカつく。
 流奈の言動にいちいち振り回されて、一喜一憂してしまう自分が。
 そんな自分を受け入れるしかなくて、もうヤケクソ気味にそう言ってしまった。

「ふ、ふふふっ」

 流奈は口元を手で隠して嬉しそうに笑った。
 なにがそんなに嬉しいんだ、と聞くように怪訝な顔で見つめると、今度はグイッと顔を近づけてくる。
 今にも鼻と鼻がくっつきそうな距離。

「ち、近ぇよ!」

 その至近距離に驚くと同時に恥ずかしくなって、慌てたように声を上げた。
 ふわっと一瞬香った匂いにドキッとして、心臓が速く脈打つのを自覚した。

「あっくんが嫉妬してくれて嬉しいんだもん」
「…嫉妬って、ちょっとだけだから!」
「それでもいいもん! 私のことを想う気持ちがあるからでしょ? だから嬉しい」
「…そ、そうかよ」

 純粋すぎる流奈が眩しくて、そのまっすぐさがいつも胸に突き刺さる。
 俺は自分の中の黒いものとかが知られないように、平静を装うだけだった。

「あっくん、私だけを見ててね? 私もずーっと他の男は見ないから」

 流奈はまた可愛らしく笑う。
 なにを言われてもなにをされても、流奈のすることにいちいち反応するのが嫌だ。
 なんでもないふうにしようと思うのに、どうしてか流奈が相手だとうまく躱すこともできない。
 彼女は人との距離の詰め方が絶妙で、だからこそ余計に些細なことで心を引っ張られるんだ。
 そう、最初から。

「……そんな保証なんかねえだろ」

 流奈は俺とは違う。
 こんな先が短い俺じゃなくても、他に男はたくさんいて、それこそ彼女に相応しい男だって。
 無理に俺といる必要はなくて、彼女のことを想えば一緒にいないほうがいいんじゃないか――そう思わずにはいられなくなる。
 それでも流奈はきっと、誰が決めるでもなく自分で、自分の意思で俺と一緒にいてくれる気がした。

「――あるよ」

 なんの迷いもない声で流奈は言う。
 一寸の揺らぎもないような瞳を向けて、そこに俺だけを映して。
 どうしてだろう、その瞳に見つめられると信じられる気がするのは。

「前にも言ったでしょ。あっくんが嫌だって言っても、私はずっとあっくんの側にいる。絶対に」

 それはなぜ?
 いきなり現れて振り回して、どうして当たり前のように側にいようとする?
 なんで他の男じゃなく、俺なんだ?
 俺のなにが流奈にこう言わせているのか、考えてもわからない。

「私の気持ちを信じてね」

 絶対なんてない。
 永遠なんてない。
 とっくにわかりきっているのに、流奈の言葉はいつもすっと入り込んでくる。
 信じるには勇気が必要なのに、どうして流奈は信じてみたくなるんだろう。
 その先に待っているのが決して明るいだけのものじゃないことくらい、わかっているのに。
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