青春リフレクション

羽月咲羅

文字の大きさ
上 下
17 / 89
第4章

二人の場所(2)

しおりを挟む
「あ! これ、あげる!」

 虹を思う存分に眺めて水を止めると、流奈はラッピングされた〝それ〟を差し出した。
 それはプラスチックのカップに入ったプリンのようで、ぷるんと微かに揺れる。

「さっき家庭科室で作ったの。うまくできたから、あっくんに食べてほしくて」
「………」
「え、あれ? もしかして、プリン嫌い?」
「……いや、そうじゃないけど」

 嫌いじゃなくて、食べられないだけ。
 糖分の高いものはダメだって、小さい頃からずっと言われてきてそれが普通だったから。
 だから、今までたくさんのものを我慢して、仕方ないと諦めてきた。
 それが普通でごく当たり前で、そのことに慣れたつもりでいたのに。
 だから今回もそうで、自分の体を考えるなら今これを食べたらいけないことはわかっているのに。

「……食って、いいの?」

 ついそんなことを言ってしまったのは、流奈が悲しむのを見たくなかったから。
 せっかく俺のために作ってきてくれたものを無下にはできず、したくなくて。
 ダメだと頭の奥で警鐘が鳴るものの、食べたい――その気持ちのほうが大きかった。

 俺は受け取ったそれを取り出して、中に一緒に入っていたスプーンでそっと掬う。
 大丈夫かと不安が頭を過るのも一瞬で、勢いよく口に入れて目を瞬かせた。

「…え、これ――」

 市販のものと違う、母さんが小さい頃に作ってくれたものとよく似てるプリン。
 カラメルソースはなく、甘さも風味程度の微かなものしか感じない砂糖不使用で作られたものだった。

 普通はこんなプリンを作るはずがない。
 だとしたら、わざわざ?
 流奈には体のことを話してないのに、もしかして彼女は知ってるのか。

「これなら、あっくんも食べられるでしょ?」
「……うん」
「私ね、あっくんにはいろんなものを我慢してほしくないの。好きなことをして、好きなものを食べてほしいって思うの」

 流奈は、…彼女はいったい何者なのか。
 俺のことを最初から知っていて、でも俺には会った記憶なんてない。
 なのに、体のことも知っているなんて、いったいどこで会ったんだろう。

「だからね、やりたいこと言って。私と一緒に叶えようよ」

 やりたいこと――そんなのたくさんあるけど、どれもこれも諦めてきたものばかりだ。
 球技大会に出ることも甘いものを食べることも、ジェットコースターに乗ることも。
 数え出したらキリがないほど、やりたいことは山のように溢れてる。
 それが普通で、やれないことがあってもそれが自分なんだからと無理やり納得させていた。

「あっくんができないことなら、代わりに私が叶えてあげる。あっくんがやりたいことを私がして、どんなだったか教えてあげる」
「……どうして」
「私、あっくんと同じことをして同じことを感じて一緒に笑いたいんだ」
「………」
「これも、私のワガママ。私があっくんと一緒に楽しみたいだけ」

 ここでも流奈は〝俺のため〟とは言わずに〝自分のワガママ〟だと言った。
 そう言われたら俺がなにも言えなくなるって、きっとわかっているから。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

イケメンプロレスの聖者たち

ちひろ
青春
 甲子園を夢に見ていた高校生活から、一転、学生プロレスの道へ。トップ・オブ・学生プロレスをめざし、青春ロードをひた走るイケメンプロレスの闘い最前線に迫る。

青の時間

高宮 摩如(たかみや まこと)
青春
青という事。 それは未熟という事。 知るべき事がまだあるという事。 社会というものをまだ知らないという事。 そして、そういう自覚が無いという事。 そんな青い世代の生き様を登場人物名一切無しという”虚像”の世界観で絵描き出す青春群像劇。

流星の徒花

柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。 明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。 残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。

処理中です...