殺人計画者

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第三章 新出ちづると柳瀬川和彦の場合1

一 ◯新出 ちづる【 — 】

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 私、新出ちづるが西街にあるキャバクラ、愛彩で働き出したことに、これといった理由は無い。単に上京したばかりで金が無く、ただのアルバイトと比較して沢山お金を貰えるからとか、男と話すだけで大金が手に入るからとか。大したことのない理由が発端であった。
 私の実家は石川県の珠洲市にあり、父親は漁業を営んでいた。母親はいわゆる専業主婦で普段は家にいたが、父親の手伝いで早朝から海に出ることもあった。
 幼い頃から両親に「お前は漁業の男の伴侶となるんだ」と言い聞かされていた。もちろん私自身もそれで良いと思っていたし、そうなるものだと考えていた。
 しかし、そんな幼少期に形成された固定観念も、歳をとるにつれて崩れていく。
 五年前の二〇一五年、私が十七歳になった頃だ。それまで群馬県の高崎駅から長野県の軽井沢駅までの区間を走っていた北陸新幹線が、石川県の金沢駅まで区間を拡張した。それまでも小松空港より空路は担保されていたが、費用の面でみれば格安の値段で行き交うことが可能となった。
 当時高校生だった私にとってその変容は、小学校から中学校、中学校から高校へと上がるにつれて、心の中で密かに持っていた「東京に行きたい」という欲求と見事にマッチした。一生を田舎の港町で過ごすことも良いが、やはり一度きりの人生、やれることはやるべきだ。そう感じたのである。
 「東京に行くなんて、認めんぞ!」と、私の上京志望に両親(特に父)は大反対の意思を見せた。何しろ、自分たちの可愛い一人娘が、目の行き届かない場所へと行ってしまう。それに我慢がならなかったそうだ。
 正直な話、私も東京に行って何がしたいのか、掴めていない状態であった。ミュージシャン志望やアイドル志望など、何か目的を持って上京する夢追い人でもない。行けば何かしらやりたいことが見つかるだろう、そんな漠然とした思いがあっただけである。そんな曖昧な思いが、親には見透かされていたのだろう。
 と、いえども。東京への憧れは大きくなるばかりである。高校生の私からすれば、親の気持ちなんて関係ない。ただ私は、東京に行きたい。その気持ちが最も優先される事項であった。
 そして、善は急げという言葉のとおり。ついには内緒で東京の大学を受験し、親の反対を押し切って、半ば無理やりに地元を離れた。
 夢にまで見た都内での生活。ここから新しい私が始まるのだ。そう思うと、期待に胸が膨らむばかりであった。しかし、高校を卒業したばかりで何も知らない田舎者が暮らすには、東京という街は厳し過ぎた。上京して始めの一、二年は喫茶店で働くが、そのうち生活資金に限界を感じ始める。親からの援助は見込めない。かといって、東京で助けを求めることができる者もいない。
 もっと、もっと金が欲しい。そう思っていたその時、偶然目に留まったのが愛彩だったのである。
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