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最終章 サンプル

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 観覧車の周回は半分を過ぎた。
 頂上からの景色は見事なものだったが、ゴンドラ内の二人は、絶景を楽しむような雰囲気では無かった。
「あいつ、何の警戒もせずに、私がビタミン剤だと偽った『薬』を飲んだの」
 すると、本当に永塚は彼女の言うとおりになったという。
 雄吾は唖然として、目の前の彼女を見る。何も言わなかった。いや、何も言えなかった。淡々と述べる彼女の話は重く、凄惨なものだったのだから。
「自殺でもさせようと思った。でも、だめだった。天使が言うには、『薬』の力でそれを命じることはできないんだって。雄吾の『成り代わり』も、そうでしょ?」
 天使に叶えてもらった望み、力を使って、命を絶つことはできない。そうだったはずだ。
「自殺もさせられないし、『薬』で言いなりになったあいつを殺すこともできない。まあ、直接手を下したくなんてなかったんだけど。
 そこで、考えたんだ。それだったら、他の誰かが代わりにあいつを殺せば良いんだって。私がそれをしなければ、直接そうしなければ、大丈夫じゃないかって。実際にそうして、今何もお咎めなしってことは、私の考えは間違ってなかったみたい」
「まさかそれで、詩音達を?」
 結衣は肯く。「あの子達があいつをどう殺したのかは、雄吾は聞いた?」
「あ、ああ。部室棟で、直樹が突き落としちゃったって」
 そう話しつつ、雄吾は嫌な予感がした。
「もしかして、あれは…」
「そうだよ」あっけらかんと、彼女は言う。「それだけじゃなくて、ってわけ」
 雄吾は男子会で問い詰めた時の、永塚の様子を想像した。
 あれが、結衣に命令されていた?
 そうは思えない程に、彼の話には私欲があったと思う。今、真実を聞かされた後にあっても、そう感じるくらいである。
 呆然とする雄吾をそのままに、彼女は己で考えた計画を語り始めた。
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