57 / 61
最終章 サンプル
6
しおりを挟む観覧車の周回は半分を過ぎた。
頂上からの景色は見事なものだったが、ゴンドラ内の二人は、絶景を楽しむような雰囲気では無かった。
「あいつ、何の警戒もせずに、私がビタミン剤だと偽った『薬』を飲んだの」
すると、本当に永塚は彼女の言うとおりになったという。
雄吾は唖然として、目の前の彼女を見る。何も言わなかった。いや、何も言えなかった。淡々と述べる彼女の話は重く、凄惨なものだったのだから。
「自殺でもさせようと思った。でも、だめだった。天使が言うには、『薬』の力でそれを命じることはできないんだって。雄吾の『成り代わり』も、そうでしょ?」
天使に叶えてもらった望み、力を使って、命を絶つことはできない。そうだったはずだ。
「自殺もさせられないし、『薬』で言いなりになったあいつを殺すこともできない。まあ、直接手を下したくなんてなかったんだけど。
そこで、考えたんだ。それだったら、他の誰かが代わりにあいつを殺せば良いんだって。私がそれをしなければ、直接そうしなければ、大丈夫じゃないかって。実際にそうして、今何もお咎めなしってことは、私の考えは間違ってなかったみたい」
「まさかそれで、詩音達を?」
結衣は肯く。「あの子達があいつをどう殺したのかは、雄吾は聞いた?」
「あ、ああ。部室棟で、直樹が突き落としちゃったって」
そう話しつつ、雄吾は嫌な予感がした。
「もしかして、あれは…」
「そうだよ」あっけらかんと、彼女は言う。「それだけじゃなくて、永塚が絵美さんを襲うってやつ。あれも、ぜーんぶ、私の作り話ってわけ」
雄吾は男子会で問い詰めた時の、永塚の様子を想像した。
あれが、結衣に命令されていた?
そうは思えない程に、彼の話には私欲があったと思う。今、真実を聞かされた後にあっても、そう感じるくらいである。
呆然とする雄吾をそのままに、彼女は己で考えた計画を語り始めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる