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第五章 「成り代わり」の終わり

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 雄吾は驚いて目を見開いた。
「じゃあ、永塚さんは部室棟で亡くなったのか?」
「そうよ」詩音は、自分の後頭部を左手の人差し指で指した。「打ちどころが悪かったの。頭が凹むぐらい、ここを打っちゃって。まさか、二階からの階段から落ちたぐらいでそうなるなんてね。もう、駄目だったわ。即死といわなくても、ほぼそうだったんじゃないかな」
 雄吾は言葉を失った。殺害現場が部室棟だったこともそうだが、永塚を殺害した、いわば実行犯は、直樹だったなんて。
「死体はどうしたんだ」
「直樹君の自宅に運んだわ。とりあえずね」
 彼女らは、死体の処理について悩んだという。
「インターネットで調べたんだけどね。どれもミステリー小説やアニメであり得そうなやり方ばかりで。完璧な死体処理法なんて、早々無いってわかったの」
 彼らはやむなく、死体をこの妙義山に遺棄しようと考えた。遭難者が出ると言われている山である。登山道の途中あたりで捨ててしまえば、あとはどうにかなる。そう思っていた。
 しかし。
「これだけ暗いからな。無理だよ」
「そうね」ふう、と詩音は大袈裟に溜息をつく。「それでも、実際に来てみないと分からないじゃない」
「まあ、うん。そうだな」
 雄吾はあたりに視線のみ散らす。結衣とここに来た時に、これほどまでの暗さを実感し、山道に入ることを断念したことを思い返した。
「それで、死体は東京に持って帰ったの。適当に捨ててしまえ、だとまずいってわかったから」
「そのあと、永塚さんの死体はどうしたんだ」
「どうしたって?」
「直樹の自宅に運んでいないだろ」
 最初は驚いて目を丸くさせたが、何かを察したのか口の端に笑みを浮かべた。「まさか、あれも雄吾君だった?」
「あれもって?」
「二日前の真夜中、群馬に行く直前」
 彼女が言っているのは、雄吾が初めて『成り代わり』をした時のことだろう。雄吾は黙って首を縦に振った。
「なるほどね。その時も、そう」ふんふんと、考えるそぶりをした後で、詩音は「直樹君、永塚の死体を見て、驚いたから。自分が殺しておいて、何ビビってんのとか思っちゃった」
 やはり『成り代わり』をしただけでは、当の本人の外見は真似できても、雰囲気や振る舞いまで似せることはできないのだ。。天使に人外の力を与えられても、それは変わらないのだ。

 その後、彼女達は死体を絵美の家に運んだという。
 これは雄吾が思ったとおりだった。
「死体を捨てられなかったことが分かって、私達、絵美さんに事情を話したの。彼女、最初はぽかんとしていたけど、死体を見たら顔色が変わったわ。永塚という男がどういう存在か、知っていたでしょうし。あいつが自分に乱暴しようと画策していたことだって、あり得なくはない。…絵美さんも、そう自分で話していましたよね」
「今は雄吾だよ」
「そうだったね」
 けらけらと笑う詩音。彼女が絵美の家を訪ねた時に、ここに至るまでの顛末てんまつを「絵美のせい」と述べていたのは、間接的にそうであるからだった。
「絵美さんにも仲間になってもらったわ。最初からそうするべきだったと思うけど。こうしてここに一緒に来たのは、彼女も共犯者になることに同意したからよ」
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