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第四章 見つかった死体
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しおりを挟むセイムズの部室は、部室棟の五階中央に位置している。
部屋数は三つ。大所帯かつ大学設立後すぐにできた古参なことも関係しているのか、部屋を三つも与えられているというのは、中々の優遇ぶりだ。
雄吾は、部室棟五階のエレベーターから降りた。建物内の電灯は未だ点いておらず、太陽の光は、燦々と窓から朱の筋を作る。夕刻に入り始めても、夏の空はまだ明るい。
目的の部室の扉は、開いていた。
絵美への『成り代わり』は、解除していた。一回目の結衣とのそれが数分で終わっただけに、成り代われる時間はまだ多分にあったし、女子の姿の方が、連中と話を聞くには良いだろう。しかし『成り代わり』を終えた後、彼らと会った記憶を彼女の頭に残したくなかったし、そのせいで彼らが絵美をつけ狙うきっかけになり得る。それは避けたかった。
『成り代わり』を終える前に、雄吾は自分の体を絵美の部屋の外に置いた。
それから、絵美の家の玄関の鍵を閉めた後でキッチンに戻る。その後、指を鳴らした。
タッチー、いつ帰ったの?
『成り代わり』を終え、自分の体に戻ったところで、雄吾は彼女の家を即座に離れた。
再び、彼女と顔を合わせる訳にはいかなかった。絵美の記憶には、詩音と会った記憶が刻まれることになるが、その後も彼女の家に自分がいたとなると、二人が話をしているその間、何をしていたのか。その点について、彼女に詰問される可能性があったからだ。
絵美が雄吾の抜け殻を玄関に運んだという記憶もあるだろうが、「そんなことはなかった」と、言い張った。群馬で結衣とおこなった『成り代わり』のテストによれば、雄吾の『成り代わり』中の記憶は、対象者に遅れてやってくるそうだ。どの程度の間隔かは不明だが、誤魔化すにはその時が狙い目だと思った。
無論、彼女の中に違和感は残るのかもしれない。しかし運ばれた側の人間が、そんな記憶がないというのだ。メッセージ上では納得してもらえたように思えた。
また、それに加えて雄吾は一つ、布石を打った。
私、これからお父さんと会うって電話で言ってた?
そかそか。なんでだっけな。ごめんね。
また今度、きちんと、お茶菓子ご馳走するね。
絵美に成り代わっていた時に、詩音についた嘘。それを事実にするために、雄吾は絵美のスマートフォンを手に取った。溜まった詩音の不在着信やらメッセージを無視して、彼女の父親に電話をした。「今日、会えないか」。そう、伝えた。
彼女の父親は韓国にいる。会えるわけがない。既成事実を作るがためだけの電話だったのだが、「仕事を切り上げる。食事でもしよう」という。どうやら今、本当に日本に来ていたようだ。彼の声は、心なしか弾んでいたようにも思えた。
絵美が父親と会う事実を作ることができれば、詩音にも違和感を抱かせることもない。故にそれを、そのまま絵美に伝えた。
ひとまずはこれで良しと、雄吾は部室へと歩みを進める。近づくにつれ、中からげらげらと笑い声が聞こえてくる。声から察するに、複数人いるようである。自然と、唇を一線に結んでしまう。
大丈夫だ。殺される訳ではない。
それに…
スマートフォンをズボンのポケットにしまいこんで、空いた扉の横に背をつけ、雄吾は一人肯く。
そうしてから、勢いよく部室の中に入った。
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