7 / 61
第一章 告白
6
しおりを挟むがちゃり。
目の前の車の扉が開く音が、耳に反響する。
「もう、夜が明けそうね」
詩音は大きな欠伸をして、気が抜けそうな程に柔らかい声色で、そう漏らした。雄吾は何も返さず、スマートフォンの電源ボタンを一回押した。画面に時計が表示される。午前四時半。空の黒は若干薄くなったようで、あと一時間もすれば、太陽の光はしっかりと、雄吾達を照らすことになるだろう。
しかし彼の心は、明るいとは程遠かった。
「な、なあ」
「何?」
思わず呼びかけた彼の声に、車に乗り込もうとした詩音は振り返った。首を傾げて、儚げに微笑みを浮かべる。
彼女は、変わらず美しかった。
心が、ざわつく。
何か。
何か話さないと。
もしかするとこれが、二人で話す最後になるかもしれないのに。
しかし言葉は出てこない。どうして。
彼女にかける言葉が見つからない。どうして。
雄吾はカラカラに渇いた口内で無理矢理唾を作り、飲み込むことしかできなかった。
…先程詩音から聞いた話を、頭の中で反芻させる。
彼女は、人を殺した。
それは事実に違いないし、彼女も肯定した。
でも。それでもまだ…
心に残る後悔と、いくつかの疑念。
それらは今も、消えずに燻ったままだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる