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第一章 告白

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 がちゃり。
 目の前の車の扉が開く音が、耳に反響する。
「もう、夜が明けそうね」
 詩音は大きな欠伸をして、気が抜けそうな程に柔らかい声色で、そう漏らした。雄吾は何も返さず、スマートフォンの電源ボタンを一回押した。画面に時計が表示される。午前四時半。空の黒は若干薄くなったようで、あと一時間もすれば、太陽の光はしっかりと、雄吾達を照らすことになるだろう。
 しかし彼の心は、明るいとは程遠かった。
「な、なあ」
「何?」
 思わず呼びかけた彼の声に、車に乗り込もうとした詩音は振り返った。首を傾げて、儚げに微笑みを浮かべる。
 彼女は、変わらず美しかった。
 心が、ざわつく。
 何か。
 何か話さないと。
 もしかするとこれが、二人で話す最後になるかもしれないのに。
 しかし言葉は出てこない。どうして。
 彼女にかける言葉が見つからない。どうして。
 雄吾はカラカラに渇いた口内で無理矢理唾を作り、飲み込むことしかできなかった。
 …先程詩音から聞いた話を、頭の中で反芻させる。

 彼女は、人を殺した。

 それは事実に違いないし、彼女も肯定した。
 でも。それでもまだ…
 心に残る後悔と、いくつかの疑念。
 それらは今も、消えずに燻ったままだ。
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