歌を唄う死神の話

ちぇしゃ

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勇者の成り方

5話

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PVPイベント。
今回のそのイベントは、森林、渓谷、砂漠、雪原と様々な地形が滅茶苦茶に
無理やりに繋ぎ合わされたフィールドで行われるサバイバルのようなバトルだ。

パーティで行動して他のパーティを殲滅するという
単純な勝ち抜き戦。
もう一度いうと、最大4人で1パーティとはいえ、
ソロでの参加をはじめ人数の少ないパーティは【加護】というバフが適応される。
まぁ、ちょっと戦力が割り増しになったり。スコアが割り増しになるのだとか、そういう事だ。

今回、俺達は3人でのパーティなので件のバフは薄味のものとなるらしい。




「迷惑じゃなかった?」
「何がですか?」
俺が訊くと彼女は仮面に付けられた鈴の音を鳴らした。
「イベント。俺達に誘われてさ。アイツって強引だし口が達者だからさ。」
「嫌でしたら、ちゃんと断ってましたよ。友達が困っていて、力を貸してほしい。と言われましたので
だから、ちゃんと綺麗にして返していただけるのなら構いませんよ。と引き受けさせていただいただけです。」
街中でピンっときたから。とジキルは声を掛けたらしいが、なんだかそれだけ聞くと
ナンパみたいだった。
「困っている人をほっとけない。という彼の心意気にも
心が打たれましたしね。」
「そうなんだ…。」
そんな口八丁を言っているのを想像し実に嘘くさいと思った。

困っている人をほっとけない…。

いやいや、ある意味あってるのか…。
アイツにとっての暇つぶしみたいで、
困ってる人をおちょくるのがやめられないとかいう意味でな。





「じゃぁ、いっちょ優勝狙っちゃいますかねぇ。二人とも頑張りましょうや。」
ジキルは一人だけ気合十分で、着物を着た先生は表情こそ伺えないものの
「そうですね。」とにこやかな声色で返事をする。
「ちょっとちょっと、ハルトくんも!テンション上げて!勝てる戦いも勝てないよ!
いつものキミみたいにカッコよく雄たけびをあげていこうじゃないの!」
「雄たけびなんて上げた事ないだろ。」
「えー。そうかなあ。」
おどけるジキル。
正直、やはり腑に落ちていない。
だからテンションなんて上がるわけないし、出したこともない雄たけびだって
挙げられるわけない。

「…はぁ。」溜息をひとつ。
空気を引き裂くような音を立て、俺は真っ黒な刃を抜き、目の前に見えてる一群を
キッと睨み…

「カッコよく勝てばいいんだろ!」
地面を盛大に蹴り、最初の一人目をひと薙ぎ!
屈強な大男の体躯をまるで大根でも斬るように両断する。

先生も飛び掛かってきた格闘家の女の子を携えた大鎌で容赦なく縦斬りにする。
「そんなぁ」とか「バカなぁ」とか悲しみの断末魔だけがその場に遺る。

「ひゅー!」と背中からジキルが口笛を吹く。
「二人とも、つっよーい!ボクも頑張っちゃおうかなぁ。」
そう言いながら、飛んだり跳ねたりと最初の四人パーティを切り伏せた。





生い茂る緑だらけのエリアで、目いっぱい森林浴をしたあとは、
雪原エリアで追いかけっこしながら他のパーティと剣を交えた。
賢者、魔物使い、大剣士の俺達と同じ三人構成だった。

顔が見えない程ガチガチに鎧を着込んだ剣士がジキルの手によって
切り裂かれる。
とても楽しそうに止めを刺すので「お前って本当、悪魔みたいだな。」と思った。
イジメっ子のようで。
「ハルトくん、ひっどいなあ。ボクだって勇者なのに。」
「言う割にはお前の衣装って悪役っぽいのばっかりじゃん。」
見るからに正義の味方的な恰好とは程遠く、
ジキルはいつも盗賊とか詐欺師のような陰気な感じの見た目ばかりだ。

「カハハハ!それ言うならダークヒーローでしょハルトくん!
ハルトくんだって、黒い恰好じゃん。」
「別にいいだろ。落ち着くんだよ。」
「私はいいと思いますよ。ダークヒーロー。嫌いじゃないです。」
「流石先生!!わかってるぅ!!」
思えば、このパーティは皆真っ黒い恰好していて悪の組織って感じだ。
中二病軍団とか思われたりしてたらなんか恥ずかしいな。
「かっこよければ良いんだよハルトくん!全くお利巧ちゃんだなぁハルトきゅんは。」
ここへきてジキルのウザさが限界突破をした。



「ところで、今ので勝ち抜いたんじゃないか?」
という疑問が浮上してくる。
話し込んでいて気付かなかった。
「勝ち抜いたんだから、本当なら画面上に『試合終了!』ってのが表示されるんだけど…。」
その通知が来ない。
バグだろうか…。と思った。

「カハ…!」
笑う。

「本当…本当…ホンットーに能天気だなぁ。ハルトくぅん。」
いつもの特徴的な笑い声を漏らしながらジキルは言う。

カハハハハ!!!


「残念でしたぁあああ!!!」
横薙ぎで巨大な刃が俺の首を、寝首を掻こうと迫ってきていた。

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