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叶えるモノは、万人の語り手
6話
しおりを挟む用事を終えたベルはタウンを訪れた。
チームメンバーの持ち込みで庭も室内も少しずつ様変わりしていて、
収拾がつかないような有様で、なんだかおもちゃ箱をひっくり返したような光景だった。
クリスマスシーズンだからと、先取してクリスマスツリーを室内に設置し、
他のプレイヤーが周りを囲っていた。
どうやらメンバー数人で設えをしているらしかった。
「ここにソファを置いて、みんなで暖炉にあたるようにしよう。」
「え、ボク、炬燵持ってきたんだけど…。あとミカン。家族で団欒を過ごす感じにしたいんだよなぁ。」
「それだとクリスマスツリーと映えないじゃん。それはどっちかというと正月じゃない?」
「そんな事ないと思うけど…それにボクのうちだと炬燵だから、暖炉なんて無いし。」
「暖炉ある日本の家って存在すんの?」
「あるところはあるんじゃない?」
「ファンタジーなんだから良いじゃない。」
というように口々に、ああでもないこうでもない、あれでもないこれでもないと
議論百出に繰り広げられていた。
「…まだその帽子は気が早いんじゃない?」
ベルは、皆の輪の中にソファに腰掛けてニコニコと話を聞いているウタの姿を認めると
隣に腰掛けた。
普段のセーラー服は相変わらずに、しかしその上から赤いカーディガンを羽織って、頭にはラメ入りの
パーティキャップを被っていた。
「楽し気でいいじゃないですか。ベルさんも一緒にどうですか?」
「ボクはいいよ。この装備が気に入ってるから。」
「そうですか。」
ベルが断ると、ウタは肩を竦めてそう言う。
「そういえば、なんか新しいクエスト実装されてたよね。もうやった?」
体の小さな女の子が机の上を行儀悪く飛んだり跳ねたりして駆け寄ってきた。
彼女もまたウタと同じくパーティキャップを被り、それに加えて付け髭の顔アクセサリーをつけていた。
まるで、出来損ないのサンタクロースのようだった。
「いえ、まだですよ。」とウタは彼女を人形でも抱えるように優しく机から降ろす。
「実は私もまだなんだよ。みんなもまだみたいで、これから参加しようかなって話してたところなんだけどどうかな。
よくわからないけど、変わったボスモンスターも出てくるらしいからウズウズしてたところなんだよね!」
「よくわからないモンスター…。それってどんなの?告知には載ってなかったの?それ。」
ベルがそう訊くと、小さな彼女は「うーん。風の噂で聴いただけだから。」
ということだ。
ベルもそうだが、小さな彼女もまたあまり告知をしっかり読むタイプではない。
メンテナンスが行われる事も忘れてログインして「なんで入れないの!?聞いてないんだけど!」と
ひとりでゲーム画面で大騒ぎしているのだ。
「どんなモンスターなんでしょうね。」
とウタ。
「細いドラゴンみたいなのって聞いたよ。風の噂で。」
「ドラゴンは細いものじゃないですか?恰幅のいいドラゴンでもたまにはいいかもしれませんけどね。」
「あ、でも魚みたいなやつって言ってる人も居たかも!手足の生えた魚!風の噂できいた。」
「違うところからの風の噂だね。サハギンみたいなのかな。」
ベルも思考を凝らせる。
「触覚があるとか…なんか自信なくなってきちゃった。」
「全部合わせたら、なんかキメラみたいになっちゃうな。」
ファンタジーの世界。架空の生物なんだから当たり前かな。とベルはそう感じた。そう思っているところへウタは言う。
「ジャバウォックですね。」
聞いたことはある…と二人は思った。
「ジャバウォック…鏡の国のアリスに出てくる。いえ、作中には出てきていないんですが、その中で描かれるモンスターですよ。
細長いドラゴンで、だけど頭が魚で、全身を鱗で覆われていて、そう口の中に鋭い門歯があります。みんながみんな違う事を言うので
その意見が混ざってしまったんですね。」
「なるほど…。」
二人はそう教えられ、納得する。
体の小さな女の子のアンバーは自分をリーダーにベルとウタをパーティに招待する。
「よくわかんないけど、まぁ、なんかでっかいボスモンスターが出るよってはなしだよ!」
因みに、前回チームイベントで人の話を聞かずに先走って悲鳴を上げるだけ上げていたのは
彼女、僧侶を務めるアンバーである。
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