歌を唄う死神の話

ちぇしゃ

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願い事は雪の列車と共に…。

7話

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「こんなところに居ては風邪をひいてしましますよ?いえ、ひいているから暗い顔をしているのでしょうか?」
顔を覗き込まれる。
女の子からは勿論、他人からそんな風に心配そうな言葉を貰った事なんて
親とかから以外、聞いたことなかったから
「そんな顔してない!」と慌てて仰け反る。
「だいたい、ゲームの中なんだから、雪が寒いだの砂漠で暑いだの関係ないでしょ。」
「気分です。」そうらしい。

「友達と喧嘩でもしたんでしょうか?」
「ボクに友達が居ない事、知ってて言ってるでしょ。」
「私はカストルさんの友達のつもりですよ。友達なんだから、困った事は相談してください。」
立ち話もなんだから、とウタはそこに倒れた木に腰かけた。
真っ白い手で木に積もった雪を払い、自分の吐息で「はぁ。」と両手を温める。
先程言った通り、気分の問題なのだそうだ。

「周りに、置いてきぼりにされている気がしてさ。」
「仲間外れですか?」
「……そうだね。」
慣れているので傷つくようなセリフではなかった。


「やよい…ポルックスの事を皆が『そんな人知らない』って言うんだ。
友達とか先生とかどころか、母さんまでさ。アイツが悪い事して、だからそんな態度をしているとか
そういう感じじゃなくて、本当に知らないみたいな口調でさ。」
まるで、ボクの方が可笑しいみたいな風に言うのだ。

「ポルックス…さん、ですか…。」
考えこむようにウタはその名前を復唱した。
「すみません。」
「私もその名前には聞き覚えはありませんね。」
キミもそんな風に言うのか…。お腹の辺りが熱くなってしまいそうになった。
なんでわかんないんだよ。と、アイツが何かしたのか?それともボクが悪いのか?
そんな風に声を荒げて叫びたい気分だった。
「まるでボクだけの妄想であるみたいじゃないか。」
「ポルックスさんも私の友達であったと言うなら、それはとてもさみしいですね。
もし本当にカストルさんの妄想であったとしても、私が皆さんと同じで忘れているんだとしても。
世界五分前仮説のようにそんな記憶を作られているにしても。友達が友達を忘れるなんてあってはならない事です。
そんな私は、友達として落第ですね。」

落第、失格である。
私は友達ではない。そんな悲しい言葉をウタはまるで自分に言い聞かせるように言った。
「貴方は忘れちゃダメですよ。妄想だとしても…」
「………。」

正直、ウタは他のプレイヤーとは異なる雰囲気を持っていて、だから実は期待していた。
彼女ならきっとボクの言っている事を理解してくれる。
ポルックスの事を覚えていてくれる。そんな気がしていた。
「もちろん覚えていますよ。」なんてにこやかに答えてくれると期待していた。
だけど、それが裏切られてしまい苦虫を噛み潰すような思いをしてしまった。

「お詫びです」と言って小さな紙切れのようなアイテムを手渡され、
ウタは勢いを増す雪の中に姿を消していった。
「お詫びってなんだよ…」受け取った紙切れを握りしめポケットに捻じ込んだ。



……妄想だったのか…。

ボクが可笑しかったのか…。

ボクも忘れてしまうのだろうか…。

あんな騒がしい妹の存在を?あんな厄介な片割れの存在を…?

雪が溶けてしまうように、記憶から消えてしまうのだろうか…?



そんなの嫌だ…。


ゴゴゴゴゴゴ…
吹雪の音に交じり、暗い夜空の方から重く風を切る音が聞こえた。

黒く光る鉄の塊が雪を吹き飛ばしながら、ゆっくりとこちらへやってくる。

琥珀色のランプで照らし、魔物の唸り声のような汽笛をあげて白銀の道を駆け抜けてきた。


ボクの目の前に停まる巨大な機関車はあちこちが煤けていてボロっちくなっていた。
客車の扉も機関車本体も塗装が剥げていて、なんだか古めかしさを感じた。

「なん…だ、これ…?」
客席の扉が目の前で開き、唖然としていると急かすように汽笛が鳴り響いた。
まるで、早く乗れと言われているような、そんな気さえした。

列車の中は、外とは違い掃除が行き届いている様子で埃一つない。
壁は金色の塗装が施され、どこかの国の文字なのか古代文字なのか、ただの何かの模様なのかが
描かれて刻まれていた。


「やぁ…」
奥に座る彼女は、似合いもしない微笑んだ顔をしていた。
「来るのが遅いんじゃない?まったく、愛が足りないんだから。」
やよいは、そう言うとまた悪戯っぽく笑ってみせた。



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