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幸福の黄昏石

幸福の黄昏石 

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「おお、今日も元気だねぃ。ほい。じゃぁ今月分ね。」
とある街の噴水広場のベンチに腰掛けた白髪の老人は
真っ黒のセーラー服姿の女性二人に茶封筒を手渡している。


「いつもありがとうございます。」
「うぃ。あんがと。」
二人は茶封筒の中に入ったお金を確認しお礼を言った。杖をついた老人の名前はマツバ。

傍から見れば誤解を招きかねない光景ではあるが、
実はこのマツバという老人は、ちょっとした富豪であり、ちょっとした名誉会長であり
ちょっとした世界の顔利きであり。江戸っぽい喋りが印象的なちょっとした有名人である。


この街に彼女達のような「図書館」が存在する為、
それはそれは街としても体のいい宣伝になっている。
というのと、彼女ら二人とマツバはアカデミーの卒業生とその元教師という関係でもある。



「……どうしたの?」
リンが顔をしかめっ面を浮かべているので、ミナギは不思議に思った。

「おかしい。いつもより小遣いに色がついている。」
「普通に誤差じゃない?」
「いやいや、これは変だよ。何かいい事でもあったのか、若しくはじぃじ、もうじき次のステージにでも昇華すんの?」
「コラコラ!縁起でもない!」
「あぁ、だからあれ程少しはお酒自重しなさいって言ったのに!だけど安心して、私遺書を書く手伝いはするよ。介錯は任せなさい!
武器は……『スーパーとちおとめちゃん』とバイトのトンカチしかないけど、なんとかなるでしょ!?」
「落ち着きなさい。」
ミナギのツッコミは追いつかず、リンの思考がドンドン、アクセルを踏み込んでいた!!



「そんな簡単に神様はアタシを受け入れちゃくれないよ。
自分の寿命くらい自分で決めるさ。」
底が深く、器の大きい老人・マツバはそんなリンの暴走を微笑ましく諭す。


「いや、驚かして悪かったね。今日はちょいとアンタ達に頼み事があったんだよ。」
依頼の話だよ。と付け足す。
「先生が直接依頼って珍しいですね。」
「珍しいだろぅ?」
マツバは得意気に胸を張る。


「わざわざ私達に頼まなくても部下の人とかに依頼してもよかったのでは?」
「今日はアンタ達に頼もうと思って用意してたのさ。」
ミナギの疑問に「単なる年寄りの酔狂だ。」と言う。


「じぃじの依頼だっていうならいいじゃん?だけど報酬は別で貰うけどね!」
「知ってるよ。『愉快な話』をしろって事だろう?」
「っそ!」
既に前払いのようにしてお小遣いを貰っているのに、その図太さは流石だ。と言いたいのを
ミナギはぐっと呑み込んだ。



「じゃぁ、語ろうかねぃ」
そう語りだす老人・マツバ。

二人はマツバの座るベンチに、彼を挟むように同じように座る。



「アタシが抱える企業の話だけども。もうじき百二十周年の記念日を迎えるんだよ。
あぁ、とは言ってもそこまで大きなもんじゃない。ただ長いだけの老舗ってだけ。アタシと同しだね。
そこの若いの…ちょうどアンタ達と同しくらいで、アタシが世話を焼いてる男と女の軟弱者二人なんだがね、
めでたいことに。一緒になるんだってさ嬉しいじゃないか。
そうだねミナギ、アンタの言う通り百二十周年記念と同しだから二っつの意味でめでたい事だよ。
リン、お前さんよくわかんないって顔してるけど、アタシの計算が間違いじゃなければアンタもそういう年なんだから浮ついた話の一個二個
あっても不思議じゃねぇんだからね。……すまないね話が逸れたね。
まぁ、だからあの子達の婚礼の儀にちょいといい酒でもこさえてやろうって事さね。」

少し長くなってしまったね。と頭を下げながらマツバは言う。
「へぇ、またじぃじは良い恰好しいなんだから。」
ムフフと笑いながら、リンはマツバの横っ面をつつく。
「アンタ達と同しさね。アタシにとっちゃあの子達もアタシの可愛い生徒と言って差し支えないからね。」

「その、いいお酒ってのはどんなのがいいんですか?
私もリンもお酒に詳しいわけじゃないので…。」
二人とも酒が嫌いとかそういうわけではない。
普段から色んな顔見知りだったり、部屋の中でたまに飲んでいる事だってある。
愛好家ってわけではなく、趣味で飲んでいるというのではなく。
そう、飲まれる為だけに飲んでいるので、詳しいはずなどなかった。



精々、「酒の名前って必殺技みたいでカッコいい」くらいの浅い知識だった。




「アタシの古い友人にその辺に詳しいのがいるんだよ。もう何年もあってないんだけどね。
くたばってなければ東方の山奥に酒屋を構えてるはずだ。」
「山奥か…お客さん来ないんじゃないの?」
「偏屈なやつだろ?」
「じぃじと一緒じゃん。」
そう言うと、マツバは高らかに笑って「類友ってやつだねぇ。」と言った。
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