スワップマリッジ

ふくちろ

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日曜日、8時10分。
仕事の日より3時間遅く起きて寝ぼけた頭でリビングへ向かう。


「翼くん、おはよう。ご飯どうする?」

「おはよう日菜さん。先にシャワー浴びてくる。」

「はーい。行ってらっしゃい。」

「行ってきます。」


一緒に暮らしはじめた当初は、家の中の移動の「行ってらっしゃい」に違和感とむず痒さを感じていたが今ではそれが心地良い。

烏の行水のシャワーを済ませて再びリビングに行くと、日菜さんが雑誌を呼んでいた。


「それ、姉貴出てるやつ?」

「うん。女優さんと対談したやつ。この女優さん、飛鳥ちゃんのファンなんだって。『演技の幅を拡げるバイブル』」


見出しを嬉しそうに読む日菜さんにちょっと意地悪。


「日菜さんって本当に姉貴好きだね。」

「ふふっ。飛鳥ちゃんはメディア露出嫌がるけど、私はもっともっと飛鳥ちゃんすごいでしょーって自慢したいくらいだよ。」


逆に惚気られてしまった。


「ふぅん…。嫌じゃないんだ。」

「嫌?」

「んー、ほら。自分だけの存在でいてほしいみたいな。インディーズバンドがメジャーデビューするみたいな?」


日菜さんは、うーん…と唸り、グラスのルイボスティーを飲む。


「どれだけ人気になっても飛鳥ちゃんは飛鳥ちゃんだし、飛鳥ちゃんの魅力が1人でも多くの人に伝わるなら嬉しいけどなぁ。」

「本妻の余裕だねぇ。」

「あれ、からかわれてる?」

「からかってる。」


日菜さんは楽しそうに笑って立ち上がる。


「トーストでいいよね?スープは作ってあるから…目玉焼きでもする?」

「うん。ありがとー。」


良いお嫁さんだなぁ。なんてしみじみ思ってみる。
俺にはもったいない、と思った事は無いと言ったら嘘になる。
でも、姉貴も俺も、柚流だって日菜さんが居ないと駄目なのだ。
だから、俺達3人のお嫁さん…は日菜さんの負担が大きいか。


「何笑ってるの?」

「え、笑ってた?」

「うん。楽しそう。」


感情が読めない、無表情、等と言われ慣れてる俺からしたら日菜さんは最早エスパー。


「日菜さんは良いお嫁さんだなぁって思ってさ。」

「またからかわれてる?」

「これは本気のやつ。」

「あはは、翼くんに褒められた。」

「俺にはもったいないお嫁さんだけど、俺達3人のお嫁さんなら釣り合うかと思って、でもそれだと日菜さんの負担が大きい事に気付いた。」

「なるほどー。確かに大きな子供が3人いるみたいだもんなぁ。」

「柚流はともかく、俺と姉貴は日菜さんにしか甘えないからね。」

「ん?翼くん、柚流くんに甘えないの?」


話してる間に並べられた朝食はお腹の虫をくすぐる。


「いただきます。」

「はい、どうぞ。」

「……柚流はさ、甘えてほしいの方が強いかな。」

「柚流くんは甘え上手じゃない?」

「だからかなぁ。俺以外に簡単に甘えるし、だからこそ俺には頑固な所もあって…」


肝心な所で、「つーくんには迷惑かけられない。」と言われた時はマジで泣きそうになった。


「ふふっ、うんうん。わかる。柚流くんは翼くん好き過ぎて一歩引いちゃう時あるよね。」

「それで日菜さん達に心配かけた事もありましたね。」

「そうですねー。」


ちょっとバツが悪くてコーヒーをすすりながら顔を背ける。
日菜さんは楽しそうに笑ってる。


「翼くんは翼くんで独占欲の塊だしね。」

「………。」

「柚流くんが他人に甘えてるの見て奥歯ギリギリしてる。」

「そこまではしてない。」

「私にはそう見えるよー。そうなった翼くんを見て楽しそうにしてる飛鳥ちゃんを見るのが好き。」

「日菜さんって良い性格してるね。」

「伊達に飛鳥ちゃんと付き合ってないよ。毒をもって毒を制すってね。」


フォークを握って斜め上を差しながら謎のキメ顔。


「日菜さんは毒を喰らわば皿まで、でしょ。」

「んー?似ているようで結構違うね。」

「なんなら上の言語マニア達に聞いてみる?」

「それは名案!でも残念ながら2人共締め切りに追われてます。」

「そうだった。じゃあまた今度だね。」

「うん。だから今日は翼くんと映画を観ようと思ってます。」

「お、いいね。ホラー?」

「スプラッタホラー。」


俺と日菜さんが好きな映画は姉貴と柚流が苦手なジャンルだから、今日みたいな日にはうってつけだ。
ズラリと並べられた名前も聞いたことのない三流映画達。
これは良い休日を過ごせそうだ。

本当に日菜さんは良いお嫁さん、です。





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