エスパーチョンカ!

ちぇり

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第三章

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 初めて見る海。
 深い青が世界の果てまで続いているようにチョンカとラブ公には見えていた。
 寄せては返す波に触れてみたり、サイコキネシスで水上スキーをしたり、二人はとにかく海を満喫していた。
 そしてひとしきり遊んだ後に、今度は穏やかな波音を聞いて目を閉じて海を感じることにした。
 優しい日差しと少し強めだが気持ちのいい爽やかな潮風がチョンカのピンク色の髪のおさげを泳がせていた。


「チョンカちゃん! 海ってすごいんだね! 遠くでお空とくっついてるよ!」


 水平線を指差して興奮しているラブ公がはしゃいでいた。
 もちろんチョンカも初めて見る海にラブ公と同じくらい興奮しているのだ。


「うわー! 本当じゃ! 空と海って合体しよるんじゃね……あそこに行ったら一体どうなっとるんじゃろうね……不思議じゃねぇ……」


 二人とも、西京の授業によって知識として海を知っていたが、実際に見ている海との違いを改めて感じていた。
 二人並んで腰に手を当てながら波打ち際で水平線を眺めているところに、少し先を歩いていた西京から声がかかる。


「おーい、二人ともそろそろ行くよ? まだしばらく海は続くからね。歩きながら堪能してくれるかい? 日が暮れてしまうよ?」

「はーい!」


 二人は顔を見合わせ、ニカっと笑いあいながら揃って返事をし、西京の後を追いかけて砂浜を駆けてゆく。


「先生、次はどこに行くのん?」

「ふむ、遠くに山が見えるだろう? あの山の向こうにフェアリーの秘密基地があったわけだけど、東のほうへ行くと小さな村があってね。砂浜を堪能できたらその村の方角へ歩こうと思っているのだけれどね」

「え!! 海おしまい!?」

「えー! 僕もうちょっと海を見ていたいよぉ」

「ふむ、まぁ今日一日は砂浜を歩くことにしようか。どうせ北上はしないといけないし、村へも多分二日以上かかるだろうしね」

「ふぁ!! やった!! せ、先生! あ、あのね……あの、も、も、潜ってみてもいい……?」


 チョンカは上目遣いでモジモジくねくねしながら西京にお願いをしてみた。
 ちなみに隣でラブ公がチョンカを真似て同じくくねくねしていた。


「うーむ……では三十分だけだよ? それと溺れると危険だからね、泳がずに必ずサイコガードをしたまま潜るんだよ?」


 西京の言葉を聞いた途端、チョンカはラブ公を胴上げして喜び、ラブ公も空中で両手両足をバタつかせながら喜びを表現していた。元気のいい返事と共にラブ公をキャッチし、キャイキャイと騒ぎながらそのまま海へ駆けていくチョンカ達を、西京は親のような気持ちになりながら見守っていた。


「まぁ、たまにはこういうのもいいさ」


 チョンカ達は西京の言いつけ通りに、サイコガードを球状に展開していたので泳ぐことは出来ず海底を散歩していた。
 優しく静かな青い世界は、水面から柔らかな日差しを通し砂の絨毯が輝いていた。チョンカ達は魚を追いかけたり、揺れるワカメを見たり、小さな洞穴を発見したり、多くの初体験に時間が過ぎるのを忘れて遊んでいた。


『チョンカ君、ちょっと上がっておいで』


 テレパシーで西京の声がチョンカの頭に響く。西京の言った三十分はとうに過ぎていたはずなので、ハッとしたチョンカはすぐにテレポーテーションを使用し陸にあがった。
 もしかして怒られるかもしれないと思い、海岸線の先を見つめる西京に謝ろうとしていたのだが、思わぬことを告げられる。


「チョンカ君、今周囲を警戒してみたのだけれど、この先にエスパーが一人いるようだよ。クレアボヤンスで確認したのだが完全に一人のようだね」

「え…………あ、ほんまじゃ。鳥のエスパーじゃね。なんじゃろ、海を眺めてぼんやりしとるね」

「えええ! エスパーの人がいるの? だ、大丈夫なの?」


 チョンカはエスパーに怯えるラブ公を見て少し複雑な気持ちになるが、前回のこともあるので仕方がないかと頭を撫でてやる。


「んー、多分大丈夫じゃと思うよ? ほんまにぼーーーーっとしとるようにしか見えんし」

「そうだね、チョンカ君の言うように害はなさそうだね。チョンカ君、どうするね?」


 チョンカは少し悩む。フェアリーやヤマブキのようなエスパーは勿論いるが、ワカメボーイのようなエスパーもいるのだ。立派なエスパーだって多いはずだと、その望みに懸けてみたくなった。


「うち、鳥さんとお話してみたい。変なエスパーも多いけど、ワカメボーイさんみたいな人もいるはずじゃもん!」

「ふむ、では出発しようか。このまま海岸線を歩けば会えるけれど、時間がかかりすぎるからね、近くまでテレポートして歩こう」


 そして急遽、チョンカ達はエスパーの鳥のところまでテレポーテーションを使用し、話しかけてみることにした。




 鳥は海を眺めていた。
 波打ち際に腰を下ろし、両羽を支えに後ろに少しもたれかかりながら静かな時間を過ごしていた。
 あまりにも一人でいい雰囲気を醸し出しているので、チョンカは後ろから声をかけるのを戸惑っていた。


「君たち、エスパーだね……」


 チョンカはラブ公と背中を押し合っていたのだが、突然鳥のほうから話しかけられて完全に意表を突かれてしまう。


「ああ、あ、は、はい! ごめんなさい、突然近づいてしもうて。あの、何をしてるのか気になって……う、うち、チョンカっていいます!」

「私は西京だよ」

「僕、ラブ公っていうの、よろしくね!」


 波が二回、寄せて返した。
 鳥が静かに言葉を口にする。


「うっ……僕はプ……いや、今はもうその呼び名は相応しくない……そう、今はそうだね……波打ち際マンとでも呼んでおくれ……うっ」


 三人はお互いの顔を見合わせた。


「はあ……波打ち……際マン……さん? なんか、呼び辛い名前じゃね」

「今の僕にはとても相応しい名前さ……それで、何をしているのか……だったね……うっ」


 相変わらず海に視線を預けたままだった波打ち際マンは、静かに目を閉じてから続けた。




「      ──海──



     海よ、聞いておくれ

      僕の悲しみを──

     海よ、聞いておくれ

      僕の後悔を──

     取り返しのつかない過ち

       愚かな僕の

       背負った罪を

       どうか海よ

      洗い流しておくれ

       どうか海よ

      母なる海よ──」




「ふ……海に抱かれながら詩を詠んでいたのさ……うっ」


 波の音が辺りに響いた。


「す……す……」


 ラブ公は肩を震わせながらその場で飛び上がった。


「すっっっっごいよぉ!! 波打ち際マンさん、僕感動しちゃったよぉ!」

「え! 今の詩ってやつ、ラブ公分かるん!? うち……あんま分からんかった……しょぼん……」

「耳が腐るかと思ったね」


 ラブ公は感動のあまり波打ち際マンの隣へ駆け出した。


「ねぇねぇ、波打ち際マンさん、どうやったらそんなに素敵な詩が思いつくの? 僕も素敵な詩を作りたい!」

「うっ、ラブ公君といったね……簡単さ、答えは海にある……見つめればいいのさ……必ず答えてくれるさ……うっ」

「うううぅぅぅ悔しいぃぃ! うちも理解したいぃ!!」

「私はもう結構だよ」


 それから波打ち際マンと興奮したラブ公のポエム作りは三十分ほど続いたのであった。
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