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第十一話

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  キースと別れた次の日、ライオネル達は検問所の強化のため、国境へ向かった。

 ベルンハルト国との国境へは、まずデルヴィーニュ公爵領の領都リーランドの西に広がる深い森の中を走る街道を三時間ほど馬車で進む。するとだんだん植生が低くなり、草原が現れる。更に進むとやがて街道の両側は岩がちになる。更に三時間ほど一本道を進むと峡谷に出る。そこには川幅三〇メートルの川が流れていて、その川がベルンハルト国との境となっていた。川には両国を行き来することが出来るように吊り橋がかけられているのだった。

 
 国境の川から三、四〇〇メートルほど離れた街道の開けた所にある検問所に着くと強化のためにライオネル達は忙しく働きはじめた。



 ライオネル達が国境へ着いて数日後、国境の峡谷へ行かせていた偵察部隊の一部の者が戻ってきたのだった。

「ライオネル様!!」

 偵察部隊の副リーダーが息を切らせながらライオネル達の下へと走りこんできたのだった。

 ライオネルが倒れそうになる副リーダーを支えながらたずねた。

「どうしたのだ?」
「ベルンハルト国が、侵入を、開始してきました。私以外の者は、足を止めさせるため、残っております――」

 副リーダーは息も絶え絶えに訴えるのだった。

「いよいよか!! 君は休め」

 ライオネルは副リーダーを一先ず床に座らせた。そして、その場にいる者たちに命じた。

「半分の者、国境へ急げ!! 何としても阻止するぞ!! 残りはここの守りを固めろ!!」

「「「「「「「「オー!!」」」」」」」」

 国境へ向かうものはそれぞれ馬に乗り、700名程が国境へと急いだ。



 岩がちな峡谷を流れる川が二つの国を分かつ国境へライオネル達が辿り着くと、そこには1000人程のベルンハルト国の兵隊がいるのだった。

 相対する形になったライオネル達は国境に架かる橋に目をやる。その吊り橋を落とす間がなく架かったままになっていたのだった。

 橋の手前のフロナディア王国領にベルンハルト国の兵士達が侵入してきていたのだった。ベルンハルト国の兵士達と睨み合いながら、ライオネルとエドモンドは近付き話を始める。

「レオ、橋が架かったままではまずいな」
「エド、早急に落とさねば援軍が送られてくるかもしれないね」

 ベルンハルト軍をにらみながら、エドモンドは決意をした様子でライオネルに話しかける。

「俺が単騎で行こう」

 ライオネルはベルンハルト軍をにらみながら、行動を止めるようにエドモンドの腕を掴む。

「しかし、僕の方が体重が軽いから早くたどり着けるのでは?」

 エドモンドはライオネルに捕まれた腕を離しながら、ライオネルに話しかける。

「お前は団長だろう。指揮するものが行ってどうする。お前ほどではないかもしれんが、俺でもあいつらの後ろに回り込めるだろう」

 話をしている二人にベルンハルト国の司令官が呼び掛けた。

「おい! デルヴィーニュの兵団よ。リリア・デルヴィーニュを知ってるか?」

 ライオネルとエドモンドは顔を見合わせ、行方不明のリリアの事を思い出し苦々しい顔になった。そして、ライオネルが応答する。

「知ってるが、どうしたのだ!」

 ベルンハルト国の司令官が答える。

「こちらにその者の身柄を預かっている。身柄と引き換えにここを通してもらおう」

 その言葉が終わるや否や、リリアがベルンハルト国の兵士に連れられてきた。髪はくしゃくしゃ、顔は涙と汚れでドロドロ、服は所々破れている。体は震えが止まらない。

 ライオネルがその様子に固まる。エドモンドはとうとうやりおったとばかりに一瞬天を仰ぎ見た。

「デルヴィーニュの者、どうする?」
「少し相談をさせてくれ」

 ライオネルとエドモンドは小声で話し始める。

「レオ、あいつの命より国の方が大事だ。見捨てよう」

 躊躇ためらいなく言い切るエドモンドにライオネルはビックリしながらも、首を振った。

「エド、リリアを流石に見捨てるわけには……」
「しかし、あいつを取れば侵入を許すことになる」
「どちらも取りたいが……」

 二人はしばし思案する。しかし、相手はイラついたように怒鳴るのだった。

「デルヴィーニュ家の女を殺してもいいのか!!」

 司令官はリリアに刀を向ける。流石のリリアも声が出せない。

 ライオネルとエドモンドはアイコンタクトを互いに送る。
 そして、ライオネルは司令官に向かって叫ぶ。

「分かった。その代わり先に人質は返してもらおう」
「いや、引き渡すのは通った後だ。嫌なら、殺すまで」

 司令官はリリアの首に剣を当てた。

「!!」

 あまりの事にリリアは声にならない声を上げた。

「卑怯者!」

 それを見たライオネルは声を上げ、司令官を見る。慌てて、ライオネルは司令官に話しかける。

「待て!! 分かった。言う事を聞こう」
「じゃあ、このまま通らせてもらう」

 司令官はリリアを自分の馬に乗せ、刃物を首に当て兵を進め始めた。その兵を避けるようにライオネルとエドモンド達はそれぞれベルンハルト国の兵の両サイドへ移動し始めた。

 リリアを連れた司令官はエドモンドのそばを通り掛かる。その時、ライオネルとエドモンドは再びアイコンタクトをして動き始めた。エドモンドはリリアの方へ、ライオネルは橋の方へ騎馬で動いたのだった。

 デルヴィーニュ家の兵とともに戦いながら、エドモンドはリリアの所へたどり着く。そして、司令官の首に剣の峰を渾身の一撃とばかり当てる。司令官が気を失った所でリリアをエドモンドの馬へと移らせた。そして、司令官は駆けつけてきたデルヴィーニュ家の兵士達によって捕らえられたのだった。


 一方、ライオネルは橋に向かって走っていく。馬の蹄が力強く地面を蹴り、疾風の如く人馬一体となりベルンハルト国の兵士達の横を避けるように駆け抜けていくのだった。

 ライオネルはもう少しで吊り橋をつなぐロープが切れると言うところで敵の歩兵の襲撃を受けたのだった。

 ライオネルの乗る馬の脚が折られ、馬ごとライオネルは転がり落ちた。橋のロープを切るため敵陣へ入り込んだ為に敵に囲まれたライオネルは剣で応戦しようと構えるのだった。
 

 何とか敵の隙を見て、橋のロープを切ったライオネルは川と敵兵に囲まれて逃げ場がない。なんとか応戦するが、団子状態で状況の改善が難しかった。少しずつライオネルは敵を倒していったが、敵の剣によって傷をつけられてもいったのだった。




 両者の力の差は歴然で、少しずつベルンハルト国の兵士が倒されていき、一時間もすると立っているのはほぼデルヴィーニュ家の兵士達だけとなった。

 リリアを連れたエドモンドはあたりを見回す。そして、ライオネルが見当たらないことに気付くのだった。リリアを検問所に連れて行くように兵士に頼んだエドモンドはライオネルを探し始めた。

 私兵団の傷ついた者が無事だった者に助けられている側をエドモンドはライオネルを探し求めて馬で駆けるのだった。

 橋の落とされた川の側まで来てエドモンドは全身傷だらけで倒れているライオネルを見つけたのだった。

「レオ!」

 エドモンドは乗っていた馬から降りて、意識のないライオネルを抱きしめた。そして、ライオネルの顔にある大きな怪我から流れる血を自分の服で拭くのだった。
 そして、ライオネルを横抱きにした状態で自分の馬に乗せて検問所へ戻っていった。

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