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第一章
第八話
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マチルダがお礼を言い終わらぬ内に誰かがすごい勢いで走ってくる音が聞こえる。
音のする方を見ると派手ではないが質のいい布地の使われた服を着た40代ぐらいの髪が銀色で紫の目を持つ威厳に満ちた美丈夫がやってきたのだった。
息を切らしながらきた美丈夫はマチルダを目にとらえるとせわしなく尋ねるのだった。
「お前がエリザの娘のマチルダか?」
美丈夫を見て、立ち上がっていたマチルダは慌てて返事を返そうとする。
「初めまして。エリザの娘、マチルダ・スチュアートでございます。」
そう言ってとっさにカーテシーをしようとするマチルダに居てもたってたまらないのか、ドラガニア国王であるアレクサンダー=ドラガニアは力強く抱きしめる。
「他人行儀な挨拶な抜きだ。会いたかった」
そう言って、アレクサンダーは力を緩め、マチルダを見つめるのだった。
マチルダの中にエリザの姿を確認すると思わず、涙ぐみそうになっていた。
「で、こいつと一緒とは、どうしたのだ?」
そう言って、アレクサンダーは紫の竜を見た。
『こいつとは、失礼な!! マチルダがマグナス王国の国境で賊に襲われそうだった所を助けて、せっかくドラガニアまで連れてきてやったものを……』
竜は相手が国王であるにも関わらず、ブツブツと文句を言う。
「助けてくれたのか? 感謝する。が、何故マチルダが屋敷ではなく、国境などにおったのだ? そのような危険な場所に? あの国の王太子の婚約者だろう?」
「それが……」
マチルダは婚約破棄されたこと、国外追放を命じられたこと、そのことによりドラガニアに来ようと思い、辻馬車に乗っていて襲われそうになったことを説明したのだった。
話を聞くアレクサンダーは渋い顔をしている。
「婚約破棄とは……あれほど、我が国の竜騎士の血を渇望しておったと言うのに、しぶしぶエリザを輿入れさせたものを……それにしても、マチルダが無事でよかった。リラよ、感謝しきれん。改めて礼を言う」
そう言ってアレクサンダーは竜に礼をするのだった。竜は礼を受けていた。そして、何か思いついたようで国王に質問するのだった。
『マチルダが無事だったので構わんが、一つ頼みをしてもいいか?』
「礼になんでも聞こう」
アレクサンダーは任せろとばかりに返事をするのだった。
『マチルダは国を追い出されて戻る国もない。だから、わしと一緒にこの国に暮らさせてやってくれないか?』
マチルダは竜と一緒にと言う事に驚く。
「私、竜様に迷惑かけることはできません。一緒に暮らすなんて、恐れ多いです」
マチルダはこの世界で尊い存在である竜と暮らすなんて光栄ではあるが、ありえないことだと思う。
『わしがお前を気に入った。この国のことを知らぬお前を助けてやる』
と言って、リラはグイグイとマチルダに迫る。
迫ると同時に、紫の竜リラは小さく体のサイズを変化させた。
その体の大きさはマチルダの両手に乗るぐらいに小さくなったのだった。
「竜様、そのサイズ……」
「わざわざこの大きさにまで変わると言う事はそれほどお前と一緒に居たいと言う事らしい。マチルダ、こいつに気に入られたな」
アレクサンダーは苦笑いをしている。
喜んでいいのかよくわからないマチルダは取り合えず首を傾げながら返事をするのだった。
「光栄です……」
アレクサンダーはマチルダと竜のリラに向かい合う。
「マチルダとリラには王宮に部屋を用意する。そこでマチルダはこの国の事を学ぶといい」
「ありがとうございます」
マチルダはアレクサンダーに深々と礼をするのだった。
紫の竜リラは嬉しそうにマチルダの周りを飛んでいるのだった。
『マチルダ、一緒に暮らすのだから、竜様では寂しい。何か名前を付けてくれ』
せがむような竜の目線にマチルダは頷く。
「は、はい。何かいい名前はないでしょうか?」
そう言って、マチルダは悩みこむのだった。考えても思いつかないので、見たままの印象で名前を付けようと考える。
「バイオレット? 元々呼ばれているリラは? リラ? やっぱり、リラがいいわ!! リラ!!」
元から名づけられている名前が一番いいのではないかとマチルダは結論付ける。
「よろしくね。リラ」
と言って、マチルダは紫の竜リラに笑いかけた。
その名前を聞いたアレクサンダーは寂しそうに笑う。
「結局、リラか……」
アレクサンダーは寂しそうに物思いにふけた。エリザを思い出しているようだった。
『エリザがわしの事をリラと名付けおったのだ。紫色と言う意味らしい。親子で同じように呼んでもらえるとは、うれしいわい』
紫の竜のリラは嬉しそうにしっぽを振りながらマチルダの周りを飛んでいるのだった。
音のする方を見ると派手ではないが質のいい布地の使われた服を着た40代ぐらいの髪が銀色で紫の目を持つ威厳に満ちた美丈夫がやってきたのだった。
息を切らしながらきた美丈夫はマチルダを目にとらえるとせわしなく尋ねるのだった。
「お前がエリザの娘のマチルダか?」
美丈夫を見て、立ち上がっていたマチルダは慌てて返事を返そうとする。
「初めまして。エリザの娘、マチルダ・スチュアートでございます。」
そう言ってとっさにカーテシーをしようとするマチルダに居てもたってたまらないのか、ドラガニア国王であるアレクサンダー=ドラガニアは力強く抱きしめる。
「他人行儀な挨拶な抜きだ。会いたかった」
そう言って、アレクサンダーは力を緩め、マチルダを見つめるのだった。
マチルダの中にエリザの姿を確認すると思わず、涙ぐみそうになっていた。
「で、こいつと一緒とは、どうしたのだ?」
そう言って、アレクサンダーは紫の竜を見た。
『こいつとは、失礼な!! マチルダがマグナス王国の国境で賊に襲われそうだった所を助けて、せっかくドラガニアまで連れてきてやったものを……』
竜は相手が国王であるにも関わらず、ブツブツと文句を言う。
「助けてくれたのか? 感謝する。が、何故マチルダが屋敷ではなく、国境などにおったのだ? そのような危険な場所に? あの国の王太子の婚約者だろう?」
「それが……」
マチルダは婚約破棄されたこと、国外追放を命じられたこと、そのことによりドラガニアに来ようと思い、辻馬車に乗っていて襲われそうになったことを説明したのだった。
話を聞くアレクサンダーは渋い顔をしている。
「婚約破棄とは……あれほど、我が国の竜騎士の血を渇望しておったと言うのに、しぶしぶエリザを輿入れさせたものを……それにしても、マチルダが無事でよかった。リラよ、感謝しきれん。改めて礼を言う」
そう言ってアレクサンダーは竜に礼をするのだった。竜は礼を受けていた。そして、何か思いついたようで国王に質問するのだった。
『マチルダが無事だったので構わんが、一つ頼みをしてもいいか?』
「礼になんでも聞こう」
アレクサンダーは任せろとばかりに返事をするのだった。
『マチルダは国を追い出されて戻る国もない。だから、わしと一緒にこの国に暮らさせてやってくれないか?』
マチルダは竜と一緒にと言う事に驚く。
「私、竜様に迷惑かけることはできません。一緒に暮らすなんて、恐れ多いです」
マチルダはこの世界で尊い存在である竜と暮らすなんて光栄ではあるが、ありえないことだと思う。
『わしがお前を気に入った。この国のことを知らぬお前を助けてやる』
と言って、リラはグイグイとマチルダに迫る。
迫ると同時に、紫の竜リラは小さく体のサイズを変化させた。
その体の大きさはマチルダの両手に乗るぐらいに小さくなったのだった。
「竜様、そのサイズ……」
「わざわざこの大きさにまで変わると言う事はそれほどお前と一緒に居たいと言う事らしい。マチルダ、こいつに気に入られたな」
アレクサンダーは苦笑いをしている。
喜んでいいのかよくわからないマチルダは取り合えず首を傾げながら返事をするのだった。
「光栄です……」
アレクサンダーはマチルダと竜のリラに向かい合う。
「マチルダとリラには王宮に部屋を用意する。そこでマチルダはこの国の事を学ぶといい」
「ありがとうございます」
マチルダはアレクサンダーに深々と礼をするのだった。
紫の竜リラは嬉しそうにマチルダの周りを飛んでいるのだった。
『マチルダ、一緒に暮らすのだから、竜様では寂しい。何か名前を付けてくれ』
せがむような竜の目線にマチルダは頷く。
「は、はい。何かいい名前はないでしょうか?」
そう言って、マチルダは悩みこむのだった。考えても思いつかないので、見たままの印象で名前を付けようと考える。
「バイオレット? 元々呼ばれているリラは? リラ? やっぱり、リラがいいわ!! リラ!!」
元から名づけられている名前が一番いいのではないかとマチルダは結論付ける。
「よろしくね。リラ」
と言って、マチルダは紫の竜リラに笑いかけた。
その名前を聞いたアレクサンダーは寂しそうに笑う。
「結局、リラか……」
アレクサンダーは寂しそうに物思いにふけた。エリザを思い出しているようだった。
『エリザがわしの事をリラと名付けおったのだ。紫色と言う意味らしい。親子で同じように呼んでもらえるとは、うれしいわい』
紫の竜のリラは嬉しそうにしっぽを振りながらマチルダの周りを飛んでいるのだった。
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