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第一章
第五話
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スチュアート公爵家を出たマチルダは辻馬車に乗り、ドラガニアを目指す。
マグナス王国からドラガニアへは二つ国を挟んでいるため、二か月ほど辻馬車を乗り継ぎ行かねばならなかった。
マチルダは王妃教育の一環としてこの世界の国々については学んでいて知識は十分持ち合わせていた。
しかし、経験がないため、辻馬車に乗るのにも一苦労。辻馬車乗り場へ行き、周りの様子から切符を買い、マグナス王国の隣のカルロッタ国を目指す。
フードを被ったマチルダは周りからは異様な印象を受け、馬車の中では引かれている。
しかし、本人は元から異形と言われ蔑まれたりしていたため大して気にはしていない様子だった。
本人はひたすらカルロッタ国の事を考え、その隣のエルベルト王国へどうやって入国するか思案するのだった。
日は過ぎ、マチルダの馬車の旅が始まって二週間程経った。
マチルダを乗せた馬車はマグナス王国とカルロッタの国境近くへとやってきたのだった。
国境近くまで無事にたどり着いたことにマチルダは何をしても報われないこの国からもうすぐ解放されるのかと思うと喜びを感じるのだった。
マチルダが一人物思いにふけっていると、馬車の斜め後ろから馬が何匹も駆けてくる音が聞こえたと同時に馬車の御者が「逃げろー!!」と叫ぶ声が聞こえたのだった。
馬車の窓の外を見ると賊とおぼしき軍団が馬車を取り囲もうとしている。
この国の治安が良いため馬車に護衛がついていないのが運の尽きであった。
馬車が停車させられ、賊とおぼしき集団によって扉が開けさせられた。そして、一人ずつ馬車を降りてくるように言われ、馬車の乗客はそれに従い一人ずつ降りてくるのだった。
そうして、降りてきた者を賊のリーダーとおぼしき者が顔を見て何か確認をしているのだった。
マチルダ以外の乗客が馬車を降り、残るはマチルダだけとなった。フードで顔を隠している様子にリーダーはニヤッと笑う。マチルダが馬車を降りてくると同時にリーダーは腕を掴んで拘束し、頭からフードを外したのだった。
フードが外れて見えた銀髪に紫の瞳を確認して、リーダーはニヤッとした。
「こいつだ!!見つけたぞ!!依頼主からの指示でお前を殺させてもらう」
他の乗客には興味がないとばかりに賊のリーダーはマチルダの拘束を外そうとはせず、賊の他の者が集まってくるのだった。
マチルダはあまりの怖さに声も出せず、体を震わせるだけだった。
他の乗客は自分たちに賊が興味が無さそうだと分かるとそっとそこから離れようとし始めるのだった。
「悪いな。お前に恨みはないが、命じられているものでな」
そう言ってニヤッと笑ったかと思うと賊のリーダーは自分の剣を抜くのだった。
マチルダは自分がこのまま殺されることを理解したが、恐怖で身がすくんで動くことができなかった。
賊のリーダーの剣が振り下ろされようとした瞬間、マチルダはとっさに目を閉じたのだった。
ドガッ!!
マチルダの耳には何かが当たる音が聞こえたが、一向に剣が自分の体を貫く様子が無かったので、恐る恐る目を開ける。
目の前には、紫の巨大な竜がおり、その竜が賊のリーダーの剣を地面に押し付けているのだった。
マチルダの体に衝撃が無かったので気付かなかったが、どうやらリーダーの剣を持っていた腕は竜の重みで折れているようだった。
「クッソー!!竜なんてこの国にいないはずなのにどういう事だ?」
折れていない方の腕でマチルダを拘束しているリーダーは竜に向かって叫ぶ。
『愚か者!!』
辺りにいる者全員に竜の声のようなものが音ではなく直接脳に伝わってくるのだった。
『この娘を殺そうとすればわれら竜の一族の者はお前の一族郎党を滅ぼすぞ!!』
その言葉にリーダーと賊は焦る様子を見せる。
この世界で、竜は魔獣から人間を助けてくれる尊い存在とされていて、その意に沿わない事をすれば、復讐されると言われているからだ。
マチルダや馬車の乗客は竜の怒っている事が何故怒っているのか分からず不思議そう。リーダーは慌てて竜に話しかける。
「ま、待ってくれ!!一族を滅ぼすなんて……」
『その娘がドラガニアの者と知っての狼藉か』
「いや、知らない!!依頼主からこの娘をマグナス王国から出る前に殺すよう依頼されただけだ」
『だけ??』
「ほら、娘を返す。な、頼む。一族を滅ぼすなんて言わないでな、な、頼む!!」
リーダーは恐怖で体を震わせながら、マチルダを竜の方へと押し出す。
そして、リーダーは竜に向かって土下座をするのだった。他の者も自分たちもリーダーのようになってはたまらないと慌てて土下座をするのだった。
『娘を返してもらっただけでは、許せぬな。依頼主が誰か教えろ!!』
竜はリーダーに歩み寄る。
「ひえぇー!!お許しを。知らないんです。依頼主は仮面姿で依頼に来たもので……」
『本当か?』
「ほ、本当です」
竜は賊たちを睨みつける。
『では、それを信じてやるが、このままここを立ち去れば許してやる』
「わ、わかりました!!」
そう言ったかと思うと賊たちはマチルダの方を見ることもなく、そこら辺にいた自分たちの馬に乗って脱兎のごとく逃げて行ったのだった。
マグナス王国からドラガニアへは二つ国を挟んでいるため、二か月ほど辻馬車を乗り継ぎ行かねばならなかった。
マチルダは王妃教育の一環としてこの世界の国々については学んでいて知識は十分持ち合わせていた。
しかし、経験がないため、辻馬車に乗るのにも一苦労。辻馬車乗り場へ行き、周りの様子から切符を買い、マグナス王国の隣のカルロッタ国を目指す。
フードを被ったマチルダは周りからは異様な印象を受け、馬車の中では引かれている。
しかし、本人は元から異形と言われ蔑まれたりしていたため大して気にはしていない様子だった。
本人はひたすらカルロッタ国の事を考え、その隣のエルベルト王国へどうやって入国するか思案するのだった。
日は過ぎ、マチルダの馬車の旅が始まって二週間程経った。
マチルダを乗せた馬車はマグナス王国とカルロッタの国境近くへとやってきたのだった。
国境近くまで無事にたどり着いたことにマチルダは何をしても報われないこの国からもうすぐ解放されるのかと思うと喜びを感じるのだった。
マチルダが一人物思いにふけっていると、馬車の斜め後ろから馬が何匹も駆けてくる音が聞こえたと同時に馬車の御者が「逃げろー!!」と叫ぶ声が聞こえたのだった。
馬車の窓の外を見ると賊とおぼしき軍団が馬車を取り囲もうとしている。
この国の治安が良いため馬車に護衛がついていないのが運の尽きであった。
馬車が停車させられ、賊とおぼしき集団によって扉が開けさせられた。そして、一人ずつ馬車を降りてくるように言われ、馬車の乗客はそれに従い一人ずつ降りてくるのだった。
そうして、降りてきた者を賊のリーダーとおぼしき者が顔を見て何か確認をしているのだった。
マチルダ以外の乗客が馬車を降り、残るはマチルダだけとなった。フードで顔を隠している様子にリーダーはニヤッと笑う。マチルダが馬車を降りてくると同時にリーダーは腕を掴んで拘束し、頭からフードを外したのだった。
フードが外れて見えた銀髪に紫の瞳を確認して、リーダーはニヤッとした。
「こいつだ!!見つけたぞ!!依頼主からの指示でお前を殺させてもらう」
他の乗客には興味がないとばかりに賊のリーダーはマチルダの拘束を外そうとはせず、賊の他の者が集まってくるのだった。
マチルダはあまりの怖さに声も出せず、体を震わせるだけだった。
他の乗客は自分たちに賊が興味が無さそうだと分かるとそっとそこから離れようとし始めるのだった。
「悪いな。お前に恨みはないが、命じられているものでな」
そう言ってニヤッと笑ったかと思うと賊のリーダーは自分の剣を抜くのだった。
マチルダは自分がこのまま殺されることを理解したが、恐怖で身がすくんで動くことができなかった。
賊のリーダーの剣が振り下ろされようとした瞬間、マチルダはとっさに目を閉じたのだった。
ドガッ!!
マチルダの耳には何かが当たる音が聞こえたが、一向に剣が自分の体を貫く様子が無かったので、恐る恐る目を開ける。
目の前には、紫の巨大な竜がおり、その竜が賊のリーダーの剣を地面に押し付けているのだった。
マチルダの体に衝撃が無かったので気付かなかったが、どうやらリーダーの剣を持っていた腕は竜の重みで折れているようだった。
「クッソー!!竜なんてこの国にいないはずなのにどういう事だ?」
折れていない方の腕でマチルダを拘束しているリーダーは竜に向かって叫ぶ。
『愚か者!!』
辺りにいる者全員に竜の声のようなものが音ではなく直接脳に伝わってくるのだった。
『この娘を殺そうとすればわれら竜の一族の者はお前の一族郎党を滅ぼすぞ!!』
その言葉にリーダーと賊は焦る様子を見せる。
この世界で、竜は魔獣から人間を助けてくれる尊い存在とされていて、その意に沿わない事をすれば、復讐されると言われているからだ。
マチルダや馬車の乗客は竜の怒っている事が何故怒っているのか分からず不思議そう。リーダーは慌てて竜に話しかける。
「ま、待ってくれ!!一族を滅ぼすなんて……」
『その娘がドラガニアの者と知っての狼藉か』
「いや、知らない!!依頼主からこの娘をマグナス王国から出る前に殺すよう依頼されただけだ」
『だけ??』
「ほら、娘を返す。な、頼む。一族を滅ぼすなんて言わないでな、な、頼む!!」
リーダーは恐怖で体を震わせながら、マチルダを竜の方へと押し出す。
そして、リーダーは竜に向かって土下座をするのだった。他の者も自分たちもリーダーのようになってはたまらないと慌てて土下座をするのだった。
『娘を返してもらっただけでは、許せぬな。依頼主が誰か教えろ!!』
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「ひえぇー!!お許しを。知らないんです。依頼主は仮面姿で依頼に来たもので……」
『本当か?』
「ほ、本当です」
竜は賊たちを睨みつける。
『では、それを信じてやるが、このままここを立ち去れば許してやる』
「わ、わかりました!!」
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