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第二十二話

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 それから、二週間後、別荘に再びキースがやってきたのだった。

 今度は先ぶれがあったため、リリアは普段の質素な服ではなく、ちゃんと公爵家の者が着るようなドレスで出迎えるのだった。

「キース様、ようこそおいでくださいました。何か急な御用でしょうか?」

 来るとしか聞いていなかったリリアは前回の訪問から間を開けずやってきたキースに尋ねるのだった。

「ああ。この間のパンの事で……」

 キースは味を思い出したのか嬉しそうに答えるのだった。間を開けずにキースが別荘にやってきたので急ぎの用事かと思っていたリリアはパンの事だと聞いてキースの目的が予想外であったので驚くのだった。

「パ、パンですか?」
「ああそうだ」

 キースは当然の事とばかりにうなづく。リリアからしたら間を開けずにパンの事でキースがやってきたため何かあったのか心配になるのだった。

「パンに何かありましたか?」
「ライオネルとエドモンドに食べさせたんだ。そしたら、二人ともあまりの美味しさにまた食べたいと言ってな。勝手なことを言うが、時々作ってもらえないだろうか。誰か使いの者に取りに来させるので」

 よほどライオネルとエドモンドのパンの評判が良かったようで、忙しいはずのキースが時間を作り、急いでパンを頼むために別荘にやってきたのだとわかってリリアはホッとするのだった。

「喜んでいただけたなら良かったです。もちろん作らせていただきますが、私の作ったものでよろしいのでしょうか?」

 デルヴィーニュ家の嫡男であり、デルヴィーニュ家の私兵団の団長でもあるライオネルにいろいろやらかした自分の作ったものを定期的に食べさせて大丈夫なのかリリアは心配になるのだった。

 キースは心配そうに聞くリリアに心配を払拭しようと思いっきり首を縦に振るのだった。

「もちろん、いい!!むしろライオネルはリリアの事を何も知らなかったのを後悔していたよ。『僕、リリアの事を知っているつもりで何も知っていなかった』と言ってた。ライオネルが一緒にいた時の事を思い出して、申し訳ないと言っていた」

 ライオネルが申し訳なく思っている事を知らされたリリアは首を横に振るのだった。

「それは、私もライオネル様の事をわかっていなかったんだと今なら思うのでお互い様だと思います。お気になさらないようお伝えください」

 そう言ってキースに頭を下げたリリアにキースは力強く返事をするのだった。

「わかった。伝えよう」
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