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第十一話

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 次の日の朝早く、マリーが朝食の用意をしているとリリアが起きてきて声をかけるのだった。

「おはよう、マリー」
「おはようございます、リリア様」
「朝食の用意中、悪いんだけれど、昨日の続きをさせてね」

 そういって、台所に入り、発酵させていたものの入った皿の中を確認する。
 中は膨らんでいて、自分の思った通りになっていることに嬉しさが隠せないリリアの顔には自然と微笑みが溢れてくるのだった。
 そこへリリアの朝食の準備のためカトラリーを取りに来たニールが台所へ入ってきた。

 自然な微笑みを称えるリリアと目があったニールは頬を赤くしてしまう。ニールは照れてリリアから目を反らしながら挨拶をするのだった。

「リリア様、おはようございます。いつもと違う笑顔、可愛いですね。いかがされたんですか?」
「おはよう、ニール。そんなにいつもと違うのかしら?パンの焼く準備がうまくいってて嬉しいの」

 嬉しさが抑えられないリリア。いつもは微笑んでも作った顔のようなリリアが心から笑っていることにニールもマリーも嬉しそうに微笑み返すのだった。

 そして、リリアは発酵したものの中に強力粉と水を入れて、嬉しそうに混ぜ混ぜして、平べったい皿で再び蓋をして暖かい所に置いたのだった。

「もう少しでやわらかいパンを作れるわ。次に二倍に膨らんたものを休ませたら完成なのよ。」

 ウキウキと嬉しそうにしてるリリアからニールは目が離せないのか、リリアをじっと見つめている。
 マリーがリリアの作ろうとするパンが気になるのか質問をするのだった。

「そんなに嬉しそうにするほど、やわらかいのですか?」
「ええ、そうよ。王都でも私が思っているよりパンが固かったの。男爵家に養子に入ってから、まさか自分で作れる日が来ると思ってなくて諦めていたのだけれど、嬉しいわ!!」

 自分でパンを作ると言う貴族としてあり得ない言葉にマリーもニールも驚くのだった。

「……自分で作るんですか?」

 マリーが恐る恐るリリアに尋ねるのだった。
 
「(うっかり日本でパンを作っていた感覚だったけれど、貴族は自分でパンを焼かないわよぇ……誤魔化さないと……)――元平民だから、ご飯の用意ぐらいするわよ。男爵家に養子に入るまでしばらく一人だったから」
「一人ですか?ご家族は?」

 気になるのかマリーはぐいぐいリリアに質問してくるのだった。

「母が居たんだけれど、11歳の頃亡くなってしまって……父は物心ついた頃にはいなかったの」

 リリアは寂しそうに答えるのだった。マリーは気になるのか更に質問をしてくるのだった。

「男爵様がお父様では?」

 隠してもしょうがないので、リリアは素直に答えたのだった。

「違うのよ。踊り子だった母のファンだったの。行方不明の母を探してくれたそうなんだけれど、行方が分かった時には母は亡くなってしまっていたの。私を気の毒がって、養子にしてくれたの……」

 それまでぐいぐい聞いてきていたマリーが「しまった!!」と言う顔をする。

「良い方なんですね」

 慌てて取り繕ったマリーを気にもせず、リリアは軽くうなずいた。

「今なら本当にそう思うわ。でも、私、馬鹿だからその時その事に気付いてなかったの」
「今からでも遅くないのでは?」

 リリアは寂しそうに一瞬うつむいて顔を上げる。そして、苦笑いを浮かべるのだった。

「かなり迷惑をかけてしまったの。今更どの面下げてって思うと思うわ」

 マリーはリリアを励ました。

「わざわざ引き取ってるんですもの、大丈夫じゃあないでしょうか?」

 リリアは寂しそうに首を振った。
 
「今更関わろうとしても、また厄介事を持ちこむかもって思われると思うわ。皆には申し訳ないけれど、迷惑かけないように死ぬまでここにいようと思うの。外部とも連絡を取るつもりもないわ」

 リリアの言葉にマリーは驚く。

「いいんですか?」
「いいの、いいの。これ以上男爵家に迷惑かけたくないから」
「リリア様……」

 リリアの固い決意を聞かされたマリーとニールは気の毒そうな顔をする。

「そんな顔をしないで。私のした事を聞いてるでしょ。自業自得なのよ」

 マリーが首を振る。

「でも、若いお嬢様が人生を捨ててるような事を仰るのを聞くのは寂しいです」

 ニールもマリーに続く。

「そうです。リリア様、王都のように楽しい事で満ち溢れているわけじゃあありませんが、ここで僕たち三人と楽しく過ごしましょう」

 リリアはうっすら涙を浮かべた。

「ありがとう。取りあえず、したかったパンを焼くわ!!」

 そういってリリアは嬉しそうに微笑んだのだった。
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