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第九話

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 そんなある日、特にすることもなく、一人、部屋のソファに座り、窓の外の雲が流れるのをただ見ていたリリアの元へマリーがお茶を持って入ってきた。マリーがテーブルセッティングするのを眺めていたリリアは話しかけるのだった。

「マリー、することもなくてボーっとしているのも辛いから出来る事なら、自分の事は自分でしたいわ」
「え?自分でですか?何か至らぬ事がありましたか?」

 熱を出してからおとなしくなっていたリリアの唐突な申し出にマリーは焦るのだった。リリアはマリーの様子に慌てて否定した。

「違うの。あまりにもすることが無さすぎて、時間がなかなか過ぎないのよ。元男爵令嬢だけれど、実は養子なの。養子に入る前は平民だったし、自分の事は自分でできるの。自分自身の為にも自分の事は自分でさせてくれないかしら。」

 マリーは困った様子を浮かべた。

「でも……私の仕事が……」
「心配ならキース様に許可をもらえるか聞いてくれる?」

 リリアは自分の事がどうしても自分でしたい様で説得しようとキースの名前を出した。マリーは渋々うなずいた。

「そこまでおっしゃるのなら、わかりました。一応キース様に訪ねてみます」
「ごめんなさいね。お願いするわ」

 退出するマリーを見送り、お茶を飲むリリア。耳を澄ませるとマリーとニール、マイケルの話し声が庭から聞こえてくるのだった。

「リリア様、自分の事は自分でしたいって仰ってるのよ」
「いいじゃあないですか。部屋でボーっとしているのも暇なんだろうし」
「おいおい、それじゃあマリーの仕事無くなっちまうぞ」
「私はキース様さえ良ければいいんだよ。他に掃除も洗濯も料理もあるから助かるけれど」
「マリーさん、いろいろと大変ですよね。手伝いますよ」
「マリー、大丈夫か?俺たちにも仕事振ってくれたらいいんだぞ」
「ありがとう。でも、男の人に頼んだら仕事が雑だからねぇ。自分で納得いくようにしたいんだよ」
「「なるほど!!」」

 ニールとマイケルは納得してうなずいているようだ。マイケルが話し出す。

「それにしても、俺、思うんだけどさぁ、リリア様ってライオネル様を公爵家の跡継ぎ失格の烙印を押させた張本人って聞いていたんだけれど、最初の頃はともかく、性格おとなしくねぇ?もう少し悪女かと思っていたわ」
「まぁ、玉の輿に乗ったと思ったら、実は乗り損なってしまってて、それで最初荒れてイライラしてたんじゃあないかしらねぇ」
「でも、玉の輿に乗って上に行きたがるのは人として当たり前だと思いますよ。お金はあるに越したこと無いから」
「確かに、金があるに越したことないわなぁ」
「でも、リリア様、ここに来てから物が欲しいって言ったこと一度もないわねぇ」
「確かに。キース様から不自由ないようにと言付かっているから言えばある程度の物は買ってもらえるのに」
「それなのに、最初に言った希望が自分で自分の世話したいって変わってんなぁ」

 うんうんとマリーとニールはうなづいている。

 話を聞いてしまったリリアはお茶を飲みながら思わず苦笑いをするのだった。

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