【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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最終章 スキルが美味しいって教わったよ⁉︎

410話 決勝戦

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「棄権しろだと?ふざけるな!」

 決勝進出が決まったばかりの勤勉の勇者クリスチャートは、決勝の対戦相手であるアシヤに憤慨していた。

「そう怒る事は無いだろう?君は腕を今治さないと、俺との試合は話にならないからね?」

 アシヤは、クリスチャートの垂れたままの腕を指差す。
 彼の右腕はプラプラしていて、次に強い打撃を受けたら千切れてしまいそうだ。

「ルール上、回復は敗退するまでできないからね。別に治療ができない怪我じゃない。むしろそのまま戦うなら、俺は遠慮なく腕を捥ぐよ?」

「フン、構わないさ。戦わぬまま終わるのは、腕を失うより後悔するからな!」

 クリスチャートは、どうあっても辞退する気はない様だ。
 ならば仕方ない。

「じゃあ、俺が辞退する」

「「「は⁉︎」」」

 アシヤは手を上げて、試合が始まる前に降参を宣言する。

「「「えーーーっ‼︎⁉︎」」」

 観客席からも驚きの声が上がる。その後直ぐに、賭けに乗じていた者達から怒号や罵声も起こり出す。

「鎮まりなさい‼︎」

 セシリア女王の声が響き渡り、観客席もはたと我に返る。

「アシヤ、いかに御主が棄権を願い出ようとも、もはや誰も納得はしないでしょう。ここは戦士が集い戦う場所。例え片腕を無くそうとも、戦う意思がある者にはその機会を与えたいと私は思います」

 主催のセシリア女王の言葉に、参加者のアシヤが反論できるわけもない。

「それが皆の総意ならば、従いましょう。クリスチャート殿、お望み通り手加減は致しませんので、後から苦情は止めて下さいよ?」

「フン、油断すると痛い目を見るぞ?」

 2人は一度退場し、少しの準備休憩の後に再び入場した。
 アシヤは変わらずの装備だが、クリスチャートは大剣から長剣に持ち替えて登場した。
 使えない右腕は、包帯で体に巻き付け固定されている。

「さぁ、いろいろと波乱や問題もありましたが、いよいよ決勝戦です‼︎」

 鷲人アードラーの進行役は闘技場の上空を旋回しながら、観客席に張られている結界が正常に機能しているかをチェックしている。
 羽根に当たる反発する感覚もちゃんとある。結界はまだ機能している様だ。

「さぁ両者、準備は良いか?」

「「おう‼︎」」

 アシヤは低姿勢で槍を構え、開始と同時に特攻する気満々である。

(開始と同時に、奴は俺を抑えに来るはず。そのタイミングで、特殊技能ユニークスキル遭遇の一撃ベゲークヌンクシュラーク】で押し潰してやる!)

 クリスも左手に長剣を持ち、半身の構えでアシヤを睨む。

「異種族混合トーナメント、決勝戦、開始だぁぁっ‼︎」

 開始のドラが鳴ると同時に、槍の【一点突貫】の準備をして距離を一気に詰めるアシヤ。
 それに合わせて振り下ろしたクリスチャートの【遭遇の一撃】が、闘技場の石床を轟音と共に押し潰し破壊した。

「「「うわぁぁぁぁぁっ‼︎⁉︎」」」

 観客達はコロシアムが崩れるかもと悲鳴を上げたが、誰かが闘技場に投げ入れた錫杖が衝撃を吸収した。
 物理無効、飛散禁止、崩落禁止の条件にした、純潔の勇者フローラの特殊技能【不可侵領域】の機転により事なきを得たのだった。

「くっ、失敗か!」

 クリスチャートは思わず嘆いた。
 【遭遇の一撃】の潰す対象が、ではなくになった。
 彼は、直前で瞬歩を使ったバックステップで戻っていた。つまり、予測され躱されたのだ。
 奴はこの技能は初見だった筈だが、狙っていたのがバレていたようだ。

「終わりだ!」

 アシヤの槍がクリスチャートの太腿を難無く貫き、そのまま左顎を蹴り抜かれた。

「ぐうっ‼︎」

 クリスチャートは意識を刈られ、槍に寄りかかるようにして気を失った。

「数ある激闘を制し、総参加者人数1863名の頂点に立ったのは、人間の冒険者【双月旅団】のアシヤだーーー‼︎‼︎」

 鷲人がボロボロになっている石床にゆっくりと降り立ち、アシヤの手を上げさせる。
 大歓声が上がり、アシヤの優勝が決定付けされた。

「とうっ!」

 突然、来賓席からアラヤが飛び出し、闘技場の中央に降り立った。

土の大精霊ゲーブ様、お越し下さい」

 アラヤの呼びかけに、石床からゲーブが浮き出て来た。
 精霊視認の技能を持たない者達には見えないが、持っていた観客は興奮して気絶する者が多かった。

「石床を修復したいので、お手伝いして頂けますか?」

『うむ、良かろう』

 ゲーブが石床に触れると、一瞬で元の闘技場の石床へと戻った。

「「「うぉぉぉっーーー‼︎⁉︎」」」

 突然直った闘技場に、観客席は驚きで包まれる。
 アラヤはアシヤの前に行くと、そのまま手を差し出した。

「優勝、おめでとう」

「…ああ」

 軽く握手を交わすと、直ぐにアラヤは今度はクリスチャートの下に向かう。
 本来なら、いろいろと話したい事があったが、今はゆっくりと話す時間じゃない。

「ああ、顎の骨、粉砕してる…。素直に棄権しとけば良かったものを…」

 クリスチャートの太腿に刺さる槍を引き抜くと、一気に止血と回復を行う。

「とりあえず、治療は応急処置で良いだろう。簡単に治すと、彼は直ぐに暴れそうだからなぁ」

 腕も顎もそのままにして、太腿の止血だけをした後は、来賓席へとゲーブと一緒に移動する。

「セシリア様、勝手に動いてすみません。我が国は今回は功績が無かったので、これくらいの存在感をアピールしたかったんです」

「え、ええ。構いませんよ」

 ゲーブに挨拶しつつ、セシリアは笑顔で頷く。
 大精霊をだしに使うなど、世界を探してもアラヤぐらいだろう。

『ゲーブ様、これが終わったら、久しぶりに月の庭モーントガルテンで食事でもどうですか?』

『おお、良いな。伺うとしよう』

 正直、私も参加したいわという言葉を飲み込み、セシリアは、彼女の言葉を待つ皆の為に気合いを入れて席を立つ。

「先ずは、今大会の優勝者であるアシヤ。其方の功績を讃え、私に可能な範囲で願いを叶えると約束しましょう。貴方が望む願いは何でしょう?」

 いかなる願いが来るか、セシリアは緊張してそう答えを待つ。
 もし、嫁になれと言われたらどうしよう⁉︎

「…畏れながら申し上げます。俺の願いは、パガヤ国民の他国への渡航許可でございます」

「た、他国への渡航?」

「はい。現在、パガヤ王国の国民は、国外へと出る機会がほぼありません。魔人国家ソードムは無くなりましたが、未だに国境を越える事もなく、唯一渡航できるグルケニア帝国へも、廃止されたかつての奴隷制度の遺恨があるために、誰も王国を出ない」

 観客席からはザワザワと不安、困惑が混ざった声が出始める。

「今のパガヤ王国は、他国からの観光客で他種族にも慣れてきています。それなのに、彼等は王国以外の土地を知らない。それは、とても勿体無いと思うのです。私達は、世界を股に掛けて冒険をしています。世界は素晴らしい!是非、貴方達にも世界を知って頂きたい。ですから、ラエテマ王国へと繋がる新たな航路を作って頂きたく思います」

 パガヤ王国の国民は、ラエテマ王国との面識は少ない。
 それは、今までがグルケニア帝国を介してしか、情報が入って来ていないからだ。
 逆に言えば、直接的な遺恨が何も無いと言える。

「ラエテマ王国ですか…私もちゃんとした面識はありませんね…」

「畏れながら、ラエテマ王国への根回しには、空中公国大公様にお願いしたく存じます」

 セシリアは、自分だけでは対処できない話で、困った表情でアラヤを見る。

「…うん、モーントガルテンは構わないよ」

 アラヤ達からしても、別に悪い話ではない。
 ラエテマ王国内でも僅かだが、まだ借金奴隷などで帝国から来た亜人達が居る。
 そんな彼等が、自由になるきっかけにもなるかもしれない。

「…!も、モーントガルテンも、協力すると申し出て頂きました。この件は、必ず実現させると誓いましょう」

「ありがとうございます」

 不安混じりだった観客達の声が、少しずつ興味が芽生えて来たように見える。
 少なからず、見知らぬ大地を見てみたいという渇望は、人種に関係無く誰もが持っていると信じたいものだ。

「それでは陛下、閉会の言葉を頂きたく思います」

 鷲人が、大会をそろそろ締めてほしいと頭を下げている。
 確かに、自身の公務の建国祭の行事もまだまだ後がつかえている。

「コホン。…愛すべき闘技者達よ、此度の建国祭は歴史の節目に相応しい、真に素晴らしいものになりました。というのも、今やパガヤには、他国からの多種族が多く訪れています。今大会で、我々亜人だけが最強ではなく、人間達にも強者がいると理解しました。だが我々も、これ以上負けていられません!次回、次回こそは、パガヤ国民の猛者が頂点に立てる様に頑張って欲しい!今回挙げられたアシヤの願いで、世界を知り、己を知り、更なるパガヤの発展に務めてくれる事を私は願う!今一度言う!愛すべき闘技者達よ!真に素晴らしい戦いでした!彼等を見届けし者達よ、彼等に盛大な拍手を与えたまへ‼︎」

 観客達は次々と立ち上がり、スタンディングオベーションとなった。
 盛大な拍手が響く中、アラヤとアシヤは目を合わせ、互いに笑顔になるのだった。
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