上 下
411 / 418
最終章 スキルが美味しいって教わったよ⁉︎

407話 トーナメント戦 ②

しおりを挟む
 トーナメント戦は次々と進み、シード枠のソルテも圧勝。
 いよいよ、勤勉の勇者クリスチャートとモーントガルテン代表のレオンの試合になった。

「おいおい、子供じゃないか」

 入場してきたレオンを見て、先に待っていたクリスは顔を顰めた。
 見た目は狼人ライカンスロープの幼子。
 体毛は銀色な点で、クリスにも親が誰だかは想像できる。

楽しい試合になっただろうが、その子供かぁ…」

 クリスが明らかな落胆の態度を見せると、レオンは威嚇で喉を鳴らした。

「お前、見掛けで判断するな!」

 レオンは、身長が倍近くあるクリスを睨みつけ牙を剥き出しにする。

「威勢だけは一人前だな。まぁ、俺は大人だから胸を貸してやるよ」

 進行役の開始の合図を待たずに、レオンはいきなり飛び掛かる。

「あの馬鹿!安い挑発に簡単に引っかかって!」

「精神耐性ももっと鍛えるべきでしたね」

 観客席の最上段から見ていた主様とクララは、息子のレオンがいきなり怒りで冷静さを欠いてしまい頭を抱えた。
 よりによって、相手はアラヤも苦戦した勤勉の勇者だ。

 レオンの飛び付きを躱したクリスは、背中の大剣の柄を掴もうとした。

「ん、何だ⁉︎」

 しかしある筈の剣の柄が掴めない。代わりにベッタリとした液体が手に付いてきた。

「何だコレは…?」

 手に付いた液体は、白い煙と悪臭を出しながら手甲の一部を溶かして蒸発した。

「いやぁ、油断してくれて助かったよ、おじさん」

 レオンの牙から、ポタポタと先程の液体が落ちている。

「チッ、溶かす系の技能スキルか」

 大剣の柄の半分が解けてしまい、握るには長さが足りない。
 大会用に、大剣のスペアは後3本用意してある。 だが、1試合が終了するまでは、使用武器の変更はできないルールだ。

「おじさんの試合見たよ。その剣はかなり危険だからね。だから、脆い柄の部分を狙わせてもらったんだ」

「挑発に乗ったのは、油断させる為の演技だったか。大した子供だな?」

「まぁね~。おじさん強いから、これくらいしないと真面目に相手してくれないでしょう?」

 今や冷静な目で短剣を構えるレオンに、クリスは頷いた。
 なるほど、彼は子供ながらに立派な戦士だ。それに比べて、俺はまだまだ未熟な戦士らしい。
 俺の欠点は、毎回油断することらしいな。
 毎試合がどれも不燃焼感に終わるから、どうもエンジンの回転数が足りなかったらしい。

「良し!じゃあ、真面目におじさんと遊ぼうか!」

 クリスは両腕を広げ、掛かって来いとアピールする。
 一見無防備な構えだが、油断すれば一瞬で捕まると理解できる。

「…デソリューションバイト、君が教えたのかな?」

「いいえ、おそらくはご主人様かと…」

 主様とクララは、来賓席のアラヤを見上げる。視線に気付いたアラヤが、軽く手を振っているので間違いないだろう。

「あの子の演技に気付かないとは、我々もまだまだだな」

「それは、バスティアノ様の戦場での駆け引きの指導が優れていた証拠でしょう」

 とりあえず、息子のデビュー戦が無様な事にならずに済んだと、2人の不安が少しは解消されたのだった。


「くっ、武器無しでもその威力って、おじさん人間辞めてない⁉︎」

 ブン、ブンと伸びて来る腕や蹴りは、空を切る音と余波で反撃に出る隙が無い。
 顔の近くをよぎった時には、意識を持っていかれそうになった。
 この威力は、1発でも受けたら終わりだ。

「失礼な事を言うな、俺は人間だ。この力は努力の結果に過ぎない」

 クリスは石床を踏み破り、その破片を掴み投げた。
 レオンがその破片を躱した先に、クリスは突進していた。

「ヤバっ‼︎」

 レオンは両肩を掴まれて、そのまま床に押し倒された。

「マウントされた‼︎」

 決めの一手となるハンマーパンチが振り下ろされたが、石床が砕けただけでそこにレオンの頭は無い。

「ぬっ⁉︎」

 レオンが狼人から銀狼に姿を変え、防具の脇に噛み付いていた。

「くっ‼︎」

 噛み付きを振り払う為に出したクリスのフックパンチが、レオンの横顔にクリーンヒットした。

「ガハッ、ぐっ、うぅ…」

 横に飛ばされたレオンは、左頬が凹み牙が抜け落ちている。
 頭がクラクラして、焦点が定まらない。ただ、歩み寄る足音だけが聞こえ、最大級の身の危険を感じる。

「ま、参りました…」

 レオンが負けを認めた直後、クリスは振り上げていた拳を下げて離れた。

 勝敗が決して直ぐに、主様とクララが闘技場に降り立ち、クリスに一礼した後、直ぐにレオンを担ぎ姿を消した。
 レオンの顔の治療と心のケアをするのだろう。
 相手が勇者の時点で勝敗は分かっていたとはいえ、トラウマにならない事を願う。

「良いのを貰ってしまったな…」

 クリスは痛む脇腹を抑えて退場した。控室で鎧を脱ぐと、僅かな噛み跡がつき血が滲んでいる。
 鎧の一部は溶けてしまったが、皮膚は表面だけ爛れた程度で済み、筋肉繊維に影響は無さそうだ。
 まだレオンが幼かったおかげで、牙の長さが短かったからだろう。

「良い経験値にもなった。次に会う時が楽しみだな」

 クリスは、レオンのこれからの成長が楽しみだと1人で高笑いしていた。


「さぁ、大変な事態になってまいりました!モーントガルテンからの使者の2名が、既に敗退してしまった!」

 優勝候補として、必ず上がるだろうと予想されていたモーントガルテンの代表が倒れたとあって、観客席は異様な熱気が生まれていた。

「とんだ番狂わせじゃないか!」

「あの人間達が異常なのだ!」

「奴等のオッズはどんだけだよ⁉︎」

 賭け事に手を出していた一部の観客達が、予想が大きく外れたショックで騒いでいるのだ。

「ここ10年で、モーントガルテンの強さも落ちて来ているんじゃないか?」

「それを言ったら、亜人達もじゃないか?」

「どっちにしろ、大損だよ‼︎」

 あまりに騒いでいるので、警備隊が出動する事態になった。

 試合は騒ぎで中断時間となったが、観客席が大人しくなってしばらくすると、再び試合が再開された。
 3回戦の残る試合は、ソルテと獅子人レーヴェマンの戦士だ。
 この試合で勝った方が、クリスと当たることとなる。

「うーん、勝てば勇者と対戦で、負ければモーントガルテンの代表全滅かぁ…。ハァ…、変なプレッシャー出てきたなぁ」

 ソルテは、気楽に戦いたかったのに、余計な感情が出てきて面倒になっていた。

「貴方も武人なら、今は邪念は捨てて、目の前の敵と真剣に向き合わられよ!」

 獅子人の戦士は長剣を構え、ソルテが構えるのを待っている。

「…確かに失礼だったね」

 ソルテも武器を取り出して構える。ソルテの装備武器は、モーニングスターと呼ばれる鎖付きメイスだ。
 その使い方は鎖鎌に似ている。先端のメイス部分には魔鉱石スロットがあるが、当然今回は使用禁止になっている。

「じゃあ、楽しもうか!」

 それは一方的な展開から始まった。ソルテの中距離からの攻撃を、獅子人がバックラーで受け流して耐える。
 ソルテは、敢えて隙を作っては反撃をさせて、仮にも強さが拮抗しているかの演出を見せている。
 やはり、この獅子人の実力では、ソルテの相手にはならなかったみたいだ。
 鎖で彼の長剣を絡め取り、腹部へ防具破壊込みの正拳突きを叩き込んだ。

「ごめんね、やっぱり負けてあげられないや」

 パガヤ王国を立ててあげたかったが、亜人の質が今年は悪いようだ。
 わざと負けるにしても、せめて4大将軍級の強い亜人が良い。

「勇者が出張って来なけりゃ、もうちょい楽だったのになぁ」

 歓声に手を振りながら、ソルテは獅子人を背に担いで退場した。

 ソルテが勝ち進んだことにより、準決勝は分別の勇者ウィリアム、【双月旅団】アシヤ、勤勉の勇者クリスチャート、モーントガルテン代表ソルテとなったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...