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最終章 スキルが美味しいって教わったよ⁉︎

407話 トーナメント戦 ②

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 トーナメント戦は次々と進み、シード枠のソルテも圧勝。
 いよいよ、勤勉の勇者クリスチャートとモーントガルテン代表のレオンの試合になった。

「おいおい、子供じゃないか」

 入場してきたレオンを見て、先に待っていたクリスは顔を顰めた。
 見た目は狼人ライカンスロープの幼子。
 体毛は銀色な点で、クリスにも親が誰だかは想像できる。

楽しい試合になっただろうが、その子供かぁ…」

 クリスが明らかな落胆の態度を見せると、レオンは威嚇で喉を鳴らした。

「お前、見掛けで判断するな!」

 レオンは、身長が倍近くあるクリスを睨みつけ牙を剥き出しにする。

「威勢だけは一人前だな。まぁ、俺は大人だから胸を貸してやるよ」

 進行役の開始の合図を待たずに、レオンはいきなり飛び掛かる。

「あの馬鹿!安い挑発に簡単に引っかかって!」

「精神耐性ももっと鍛えるべきでしたね」

 観客席の最上段から見ていた主様とクララは、息子のレオンがいきなり怒りで冷静さを欠いてしまい頭を抱えた。
 よりによって、相手はアラヤも苦戦した勤勉の勇者だ。

 レオンの飛び付きを躱したクリスは、背中の大剣の柄を掴もうとした。

「ん、何だ⁉︎」

 しかしある筈の剣の柄が掴めない。代わりにベッタリとした液体が手に付いてきた。

「何だコレは…?」

 手に付いた液体は、白い煙と悪臭を出しながら手甲の一部を溶かして蒸発した。

「いやぁ、油断してくれて助かったよ、おじさん」

 レオンの牙から、ポタポタと先程の液体が落ちている。

「チッ、溶かす系の技能スキルか」

 大剣の柄の半分が解けてしまい、握るには長さが足りない。
 大会用に、大剣のスペアは後3本用意してある。 だが、1試合が終了するまでは、使用武器の変更はできないルールだ。

「おじさんの試合見たよ。その剣はかなり危険だからね。だから、脆い柄の部分を狙わせてもらったんだ」

「挑発に乗ったのは、油断させる為の演技だったか。大した子供だな?」

「まぁね~。おじさん強いから、これくらいしないと真面目に相手してくれないでしょう?」

 今や冷静な目で短剣を構えるレオンに、クリスは頷いた。
 なるほど、彼は子供ながらに立派な戦士だ。それに比べて、俺はまだまだ未熟な戦士らしい。
 俺の欠点は、毎回油断することらしいな。
 毎試合がどれも不燃焼感に終わるから、どうもエンジンの回転数が足りなかったらしい。

「良し!じゃあ、真面目におじさんと遊ぼうか!」

 クリスは両腕を広げ、掛かって来いとアピールする。
 一見無防備な構えだが、油断すれば一瞬で捕まると理解できる。

「…デソリューションバイト、君が教えたのかな?」

「いいえ、おそらくはご主人様かと…」

 主様とクララは、来賓席のアラヤを見上げる。視線に気付いたアラヤが、軽く手を振っているので間違いないだろう。

「あの子の演技に気付かないとは、我々もまだまだだな」

「それは、バスティアノ様の戦場での駆け引きの指導が優れていた証拠でしょう」

 とりあえず、息子のデビュー戦が無様な事にならずに済んだと、2人の不安が少しは解消されたのだった。


「くっ、武器無しでもその威力って、おじさん人間辞めてない⁉︎」

 ブン、ブンと伸びて来る腕や蹴りは、空を切る音と余波で反撃に出る隙が無い。
 顔の近くをよぎった時には、意識を持っていかれそうになった。
 この威力は、1発でも受けたら終わりだ。

「失礼な事を言うな、俺は人間だ。この力は努力の結果に過ぎない」

 クリスは石床を踏み破り、その破片を掴み投げた。
 レオンがその破片を躱した先に、クリスは突進していた。

「ヤバっ‼︎」

 レオンは両肩を掴まれて、そのまま床に押し倒された。

「マウントされた‼︎」

 決めの一手となるハンマーパンチが振り下ろされたが、石床が砕けただけでそこにレオンの頭は無い。

「ぬっ⁉︎」

 レオンが狼人から銀狼に姿を変え、防具の脇に噛み付いていた。

「くっ‼︎」

 噛み付きを振り払う為に出したクリスのフックパンチが、レオンの横顔にクリーンヒットした。

「ガハッ、ぐっ、うぅ…」

 横に飛ばされたレオンは、左頬が凹み牙が抜け落ちている。
 頭がクラクラして、焦点が定まらない。ただ、歩み寄る足音だけが聞こえ、最大級の身の危険を感じる。

「ま、参りました…」

 レオンが負けを認めた直後、クリスは振り上げていた拳を下げて離れた。

 勝敗が決して直ぐに、主様とクララが闘技場に降り立ち、クリスに一礼した後、直ぐにレオンを担ぎ姿を消した。
 レオンの顔の治療と心のケアをするのだろう。
 相手が勇者の時点で勝敗は分かっていたとはいえ、トラウマにならない事を願う。

「良いのを貰ってしまったな…」

 クリスは痛む脇腹を抑えて退場した。控室で鎧を脱ぐと、僅かな噛み跡がつき血が滲んでいる。
 鎧の一部は溶けてしまったが、皮膚は表面だけ爛れた程度で済み、筋肉繊維に影響は無さそうだ。
 まだレオンが幼かったおかげで、牙の長さが短かったからだろう。

「良い経験値にもなった。次に会う時が楽しみだな」

 クリスは、レオンのこれからの成長が楽しみだと1人で高笑いしていた。


「さぁ、大変な事態になってまいりました!モーントガルテンからの使者の2名が、既に敗退してしまった!」

 優勝候補として、必ず上がるだろうと予想されていたモーントガルテンの代表が倒れたとあって、観客席は異様な熱気が生まれていた。

「とんだ番狂わせじゃないか!」

「あの人間達が異常なのだ!」

「奴等のオッズはどんだけだよ⁉︎」

 賭け事に手を出していた一部の観客達が、予想が大きく外れたショックで騒いでいるのだ。

「ここ10年で、モーントガルテンの強さも落ちて来ているんじゃないか?」

「それを言ったら、亜人達もじゃないか?」

「どっちにしろ、大損だよ‼︎」

 あまりに騒いでいるので、警備隊が出動する事態になった。

 試合は騒ぎで中断時間となったが、観客席が大人しくなってしばらくすると、再び試合が再開された。
 3回戦の残る試合は、ソルテと獅子人レーヴェマンの戦士だ。
 この試合で勝った方が、クリスと当たることとなる。

「うーん、勝てば勇者と対戦で、負ければモーントガルテンの代表全滅かぁ…。ハァ…、変なプレッシャー出てきたなぁ」

 ソルテは、気楽に戦いたかったのに、余計な感情が出てきて面倒になっていた。

「貴方も武人なら、今は邪念は捨てて、目の前の敵と真剣に向き合わられよ!」

 獅子人の戦士は長剣を構え、ソルテが構えるのを待っている。

「…確かに失礼だったね」

 ソルテも武器を取り出して構える。ソルテの装備武器は、モーニングスターと呼ばれる鎖付きメイスだ。
 その使い方は鎖鎌に似ている。先端のメイス部分には魔鉱石スロットがあるが、当然今回は使用禁止になっている。

「じゃあ、楽しもうか!」

 それは一方的な展開から始まった。ソルテの中距離からの攻撃を、獅子人がバックラーで受け流して耐える。
 ソルテは、敢えて隙を作っては反撃をさせて、仮にも強さが拮抗しているかの演出を見せている。
 やはり、この獅子人の実力では、ソルテの相手にはならなかったみたいだ。
 鎖で彼の長剣を絡め取り、腹部へ防具破壊込みの正拳突きを叩き込んだ。

「ごめんね、やっぱり負けてあげられないや」

 パガヤ王国を立ててあげたかったが、亜人の質が今年は悪いようだ。
 わざと負けるにしても、せめて4大将軍級の強い亜人が良い。

「勇者が出張って来なけりゃ、もうちょい楽だったのになぁ」

 歓声に手を振りながら、ソルテは獅子人を背に担いで退場した。

 ソルテが勝ち進んだことにより、準決勝は分別の勇者ウィリアム、【双月旅団】アシヤ、勤勉の勇者クリスチャート、モーントガルテン代表ソルテとなったのだった。
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