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最終章 スキルが美味しいって教わったよ⁉︎
404話 処罰
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現れた最後の創造神ヌルは、アラヤの前で立ち止まり4つの目で見下ろす。
一見するとダンディなお爺様だが、威圧感のあるその眼力のせいでマフィアのボスという方がしっくりとくる。
『……。…は、初めまして』
「は?」
ボソッとハスキーな小さな声で呟かれ、アラヤは理解できずに何度も瞬きをする。
『あー、ギャップにやっぱり驚くよなぁ?』
子供姿のブラフーマが、ヌルの腰をバシバシと叩いて笑う。
『ヌルはこう見えて、極度の人見知りでねぇ。だからというか、子等に存在感を示さないから創造神として知られてすらいなかった』
まぁ確かに、この世界を創造した神々の中にヌルの名も無い。
それだけでなく、ヌルが創った無属性の大精霊ケイオスすらも、他の大精霊から知られていない程だった。
『故に、彼を崇拝した虚無教団は、彼の初めての愛し子だと言えた』
「…ダクネラ達ですね。ではやはり、ヌル様は彼の教団を潰した私を憎んでおいででしょうか?」
『……初めて子等に力を必要とされた。…其方がした事は…正直…許し難いとも…思う。…だが、ケイオスから仔細を聞いた。…其方が子の命を取らずして、他世界に逃がすよう進言したと』
あの時は、ダクネラを始末したらケイオスが敵対する危険があり、ニイヤ達の判断で他世界転移の案を出したと聞いた。
仮に俺がその場に居たとしても、他に選択肢は浮かばなかっただろうな。
『…それに、其方は我の力も姿も覚えたであろう?今後は、其方も我が存在を…広めて欲しい…と、考えている…』
段々と声が小さくなり距離を取る。本当に苦手みたいだなぁ。
『ああ、アレは俺も予知で視たけど、呼ばれて早々に世界を破壊とか無いわー。ヌルは我々が創ったものも子等も、迷い無く一瞬で消したからなぁー』
『ウム、アレを此奴が未然に防げたのは、我が神託のおかげであるな!』
フレイがドヤ顔になっているが、そもそも勝手について来て潜み見ていたんだよなぁ。
『其方と活躍したバアルゼブルも呼んだのだが、其方とはもう会いたくないと言っていたな』
「バアル…、ああ、あのふくよか熾天使の!それは残念ですね。何で嫌われたのかな…?」
思い当たるふしは無いんだけど。まぁ、別に彼に聞きたいことは少ないからいいけどね。
『それでヌル、お主も手助けは可能なのか?』
『…問題無い』
『良し!ならばアラヤの願いを叶えるとしましょう!』
紅月神フレイアは手をパンと叩くと、創造神達の注目を集める。
『今回の其方の偉業、世界に残る禁呪の除去は、我々が必ず叶えましょう。それと、私と兄の競争も終わりを迎えた事を、崇拝する子等には然るべき時に伝えましょう。今後は、教団同士の争いが無くなることでしょう』
「…ありがとうございます」
アラヤは深々と頭を下げて、創造神達に感謝した。
きっと、今後は強制的な異世界召喚も無くなるだろう。
『暴食王アラヤ、其方の今後も我々は変わらず観るだろう』
『偶に優柔不断でイライラしちゃうけど、不干渉は守るから安心してー?』
『我々の大精霊達とも変わらず仲良くね?』
『いつでも我が祠に来た時は相手してやろう』
『……ふ、布教の件、よ、宜しく頼む…』
『貴方の進む未来に、幸多からん事を』
それぞれの創造神達から言葉を貰い、その笑顔を忘れまいと、記憶にしっかり擦り込んだ。
そして一回の瞬きの後、視界は白い世界から一変していた。
何やら胸が重く、もぞもぞとしている。視線を少し下げて見ると、フサフサ髪の赤子が小さな手を丁度、俺の顎へと伸ばそうとしていた。
「やぁ、ヨウ(サナエの子)。少し重くなったね?」
「気が付いたね!」
どうやら、俺の快楽睡眠を看護していたサナエがヨウを乗せて遊ばせていたらしい。
「おはよう、サナエさん。…何日ぶりかな?」
「えっと、10日くらいかな?」
今回は割と回復が早かった方かな?そもそも快楽睡眠は状態異常判定じゃないから、普通の方法では改善しないからね。
今回は、フレイア様達のおかげかもしれないけど。
「アラヤ君、起きたんですね!」
サナエから念話で聞いたのか、アヤコ達が部屋に押し寄せて来た。
「ごめんね、みんな。心配掛けたね?」
「いいえ、それはいつもの事なので大丈夫です」
「え、あれ?」
「アラヤ君が寝ている間に、かなり仕事が溜まっているんですよ。起きたばかりで早速ですが、書類に目を通して頂きますよ?」
命の心配が無いせいか、快楽睡眠への心配は無いようだ。
むしろ、快楽に浸っているわけだから、公務をサボっていると思われているのかも。
「ええぇぇぇ~っ⁉︎」
大量に積まれた書類は、どれも大公としての判断が必要な案件だった。
大半が、この国の新たな国民になりたいという懇願書だったが、アラヤの許可無く受け入れる事は避けたいと保留にしていたらしい。
他にも、
魔人国家ソードムに起きた怪奇現象。一時的に姿を消した魔人達が、魔力無しとして再び発見されたのだが、体が他人と入れ替わっていたり、性別が変わっている等という者達が3割に上っていた。
アラガキもその1人で、背の低い子供の姿となってしまったらしい。
国王としての魔力も無い事から解任が決まり、生存していた魔力持ちの魔人の貴族が、次の国王に任命された。
ただ、魔力に依存していた国だっただけに、国が成り立たなくなってしまった。
新たな国王は、国の建て直しを図るべく、空中公国月の庭に協力を仰いで来ている。
「ま、まぁ、パガヤ王国やグルケニア帝国とは戦争していたから無理なのは分かるけど…。俺達に頼られてもなぁ…」
その他にも、グルケニア帝国とラエテマ王国との不可侵条約の立会い人の要請。
フレイア大罪教とフレイ美徳教の複合化を図る会議への参加要請。
禁呪の効果が無くなった事で、土の大精霊と闇の大精霊から別々に、歓迎したいとお呼びが掛かっているみたいだ。
海中遺跡のアゲノルからも、完成した新居を見て欲しいと連絡が来たらしい。
「いろいろとして頂くことがありますが、先ずはアシヤ君の処遇の件が先ですね」
「…ああ、彼は今何処に?」
「ニイヤ君の【生命の檻】内に入ってもらってます」
「アラヤ、彼に会う前に話を聞いて欲しいんだけど、彼が何で…」
「分かってるよ、俺の職業レベルを10にする為だよね?」
「えっ、知っていたの⁉︎」
カオリ達はアシヤの本当の目的を知って、彼への処遇を悪くしない様に言いたかったのだろう。
「後から分かったよ。双月神様達も、俺の暴食王がLV10になった事を偉業だと喜んでいたからね」
だけど、アシヤがした事が簡単に許される事かと言ったら、正直分からない。
いくら俺に【弱肉強食】を使用させる為だとはいえ、魔人国家ソードムを巻き込み、モーントガルテンの国民を危険に晒した。
死人は出ていないらしいけど、ホムンクルス達や魔導ゴーレム達は大量に破壊されている。
「先ずは会って話そう」
「どうせなら、全員の処遇を今決めた方が良いだろ?」
ニイヤは、アシヤ1人出すとまだ厳しいと判断して、ベルフェル達も一緒に檻から出した。
「……」
アシヤ、ベルフェル、ダフネ、アム、イヴと、生命の檻から出された彼等は跪いていた。
「アシヤ、君の目論み通り、君を能無しにした俺はLV10となり、双月神様達の争いが終わった。君は今、とても満足かい?」
アラヤの態度に、アヤコ達は戸惑った。彼の表情が、全く納得いってない表情だからだ。
「確かに俺は、ストレートに分身体である君を食べてくれと言われても、絶対に食べはしなかっただろう。家族を食べるなんて、俺の死んでも嫌な事の圧倒的な1位だからね」
明らかに嫌悪感たっぷりな表情だ。アラヤがそう思う事も無理も無い。
アラヤがそうせざるを得ない状況に事を運び、強制的に本人は快楽に溺れるのだから。
それは快楽睡眠だけでなく、食べる事自体もトラウマになる可能性があった。
「…ああ、俺は満足している。例えお前に憎まれ殺されようとも、それが俺のやりたい事だったからな」
「敢えて憎まれ役を買って出たと?」
睨み合う2人に、アヤコ達は口を出せなかった。
アラヤの家族を大事に思う気持ちは嬉しいし、そんな彼を理解しているからこそ行動に出たアシヤにも感謝しているから。
「アラヤ殿、アシヤ殿に此度の提案をしたのは私でございます。大罪教教皇様より、貴方が次の昇華で暴食王の最大熟練度に達すると聞き、私が持ち掛けたのです」
ベルフェル司教が2人の間に出て平伏する。確かに教皇であれば、鑑定レベルも高くアラヤの現在レベルを見る事ができただろう。
『アラヤ、もう止めよう。もう示しはついた。それ以上、無理に怒る必要は無いだろう?』
風の大精霊が現れ、アラヤの肩にそっと触れる。
アラヤは深い溜め息を吐き、表情を崩す。
「エアリエル、ああもう、台無しじゃないか」
「「「「え?」」」」
『アラヤはとうに許している。ただ単に、王としての立場を示そうとしただけだ』
アヤコ達は顔を見合わせて、プッと吹き出して笑いだした。
「ちょっと、笑うのはおかしくない?一応、内乱罪に当たるから、厳しくしないといけないと頑張って演じたのに」
「ごめんなさい、安心したら思わず笑いが込み上げちゃって…」
「似合わない事するからよ~」
「うん、まぁ、確かに国王だから必要な事か。じゃあ、アシヤは無罪放免か」
ニイヤが喜びアシヤの肩を叩く。
「あ、それは無理かな。言ったろ?仮にも内乱罪だって。被害は無くとも罪は罪だ。国民に示さないといけない」
「え、そんな…」
「アシヤ、君には50年間、国外追放に処する。あと、モーントガルテンに関わる品も一切、購入及び使用を禁ずる」
「国外追放⁉︎」
「そう。モーントガルテンに戻る事を禁じる。この機会に、ゆっくり世界を見て回ると良い」
「…謹んでお受けします」
アシヤは深々と頭を下げて従った。ハッキリ言って、内乱罪とは釣り合わない全然軽い処罰だと言える。
辛いのは、モーントガルテンに関わる品に手出しできない事。
技能が無くなったアシヤには、生産能力は無い。だから、これが彼にとって唯一の辛い処罰だろう。
「アシヤ殿に、私もお供したく思います」
ベルフェルとダフネ、ホムンクルスのアムとイヴも付いていくことを許し、5人には虚無教ではなく創造神ヌルの存在を伝え歩く任務を与えた。
翌日、モーントガルテンの持ち物を一切持たない手ぶら状態の5人は、みんなに見送られながら永い流浪の旅へと出発したのだった。
一見するとダンディなお爺様だが、威圧感のあるその眼力のせいでマフィアのボスという方がしっくりとくる。
『……。…は、初めまして』
「は?」
ボソッとハスキーな小さな声で呟かれ、アラヤは理解できずに何度も瞬きをする。
『あー、ギャップにやっぱり驚くよなぁ?』
子供姿のブラフーマが、ヌルの腰をバシバシと叩いて笑う。
『ヌルはこう見えて、極度の人見知りでねぇ。だからというか、子等に存在感を示さないから創造神として知られてすらいなかった』
まぁ確かに、この世界を創造した神々の中にヌルの名も無い。
それだけでなく、ヌルが創った無属性の大精霊ケイオスすらも、他の大精霊から知られていない程だった。
『故に、彼を崇拝した虚無教団は、彼の初めての愛し子だと言えた』
「…ダクネラ達ですね。ではやはり、ヌル様は彼の教団を潰した私を憎んでおいででしょうか?」
『……初めて子等に力を必要とされた。…其方がした事は…正直…許し難いとも…思う。…だが、ケイオスから仔細を聞いた。…其方が子の命を取らずして、他世界に逃がすよう進言したと』
あの時は、ダクネラを始末したらケイオスが敵対する危険があり、ニイヤ達の判断で他世界転移の案を出したと聞いた。
仮に俺がその場に居たとしても、他に選択肢は浮かばなかっただろうな。
『…それに、其方は我の力も姿も覚えたであろう?今後は、其方も我が存在を…広めて欲しい…と、考えている…』
段々と声が小さくなり距離を取る。本当に苦手みたいだなぁ。
『ああ、アレは俺も予知で視たけど、呼ばれて早々に世界を破壊とか無いわー。ヌルは我々が創ったものも子等も、迷い無く一瞬で消したからなぁー』
『ウム、アレを此奴が未然に防げたのは、我が神託のおかげであるな!』
フレイがドヤ顔になっているが、そもそも勝手について来て潜み見ていたんだよなぁ。
『其方と活躍したバアルゼブルも呼んだのだが、其方とはもう会いたくないと言っていたな』
「バアル…、ああ、あのふくよか熾天使の!それは残念ですね。何で嫌われたのかな…?」
思い当たるふしは無いんだけど。まぁ、別に彼に聞きたいことは少ないからいいけどね。
『それでヌル、お主も手助けは可能なのか?』
『…問題無い』
『良し!ならばアラヤの願いを叶えるとしましょう!』
紅月神フレイアは手をパンと叩くと、創造神達の注目を集める。
『今回の其方の偉業、世界に残る禁呪の除去は、我々が必ず叶えましょう。それと、私と兄の競争も終わりを迎えた事を、崇拝する子等には然るべき時に伝えましょう。今後は、教団同士の争いが無くなることでしょう』
「…ありがとうございます」
アラヤは深々と頭を下げて、創造神達に感謝した。
きっと、今後は強制的な異世界召喚も無くなるだろう。
『暴食王アラヤ、其方の今後も我々は変わらず観るだろう』
『偶に優柔不断でイライラしちゃうけど、不干渉は守るから安心してー?』
『我々の大精霊達とも変わらず仲良くね?』
『いつでも我が祠に来た時は相手してやろう』
『……ふ、布教の件、よ、宜しく頼む…』
『貴方の進む未来に、幸多からん事を』
それぞれの創造神達から言葉を貰い、その笑顔を忘れまいと、記憶にしっかり擦り込んだ。
そして一回の瞬きの後、視界は白い世界から一変していた。
何やら胸が重く、もぞもぞとしている。視線を少し下げて見ると、フサフサ髪の赤子が小さな手を丁度、俺の顎へと伸ばそうとしていた。
「やぁ、ヨウ(サナエの子)。少し重くなったね?」
「気が付いたね!」
どうやら、俺の快楽睡眠を看護していたサナエがヨウを乗せて遊ばせていたらしい。
「おはよう、サナエさん。…何日ぶりかな?」
「えっと、10日くらいかな?」
今回は割と回復が早かった方かな?そもそも快楽睡眠は状態異常判定じゃないから、普通の方法では改善しないからね。
今回は、フレイア様達のおかげかもしれないけど。
「アラヤ君、起きたんですね!」
サナエから念話で聞いたのか、アヤコ達が部屋に押し寄せて来た。
「ごめんね、みんな。心配掛けたね?」
「いいえ、それはいつもの事なので大丈夫です」
「え、あれ?」
「アラヤ君が寝ている間に、かなり仕事が溜まっているんですよ。起きたばかりで早速ですが、書類に目を通して頂きますよ?」
命の心配が無いせいか、快楽睡眠への心配は無いようだ。
むしろ、快楽に浸っているわけだから、公務をサボっていると思われているのかも。
「ええぇぇぇ~っ⁉︎」
大量に積まれた書類は、どれも大公としての判断が必要な案件だった。
大半が、この国の新たな国民になりたいという懇願書だったが、アラヤの許可無く受け入れる事は避けたいと保留にしていたらしい。
他にも、
魔人国家ソードムに起きた怪奇現象。一時的に姿を消した魔人達が、魔力無しとして再び発見されたのだが、体が他人と入れ替わっていたり、性別が変わっている等という者達が3割に上っていた。
アラガキもその1人で、背の低い子供の姿となってしまったらしい。
国王としての魔力も無い事から解任が決まり、生存していた魔力持ちの魔人の貴族が、次の国王に任命された。
ただ、魔力に依存していた国だっただけに、国が成り立たなくなってしまった。
新たな国王は、国の建て直しを図るべく、空中公国月の庭に協力を仰いで来ている。
「ま、まぁ、パガヤ王国やグルケニア帝国とは戦争していたから無理なのは分かるけど…。俺達に頼られてもなぁ…」
その他にも、グルケニア帝国とラエテマ王国との不可侵条約の立会い人の要請。
フレイア大罪教とフレイ美徳教の複合化を図る会議への参加要請。
禁呪の効果が無くなった事で、土の大精霊と闇の大精霊から別々に、歓迎したいとお呼びが掛かっているみたいだ。
海中遺跡のアゲノルからも、完成した新居を見て欲しいと連絡が来たらしい。
「いろいろとして頂くことがありますが、先ずはアシヤ君の処遇の件が先ですね」
「…ああ、彼は今何処に?」
「ニイヤ君の【生命の檻】内に入ってもらってます」
「アラヤ、彼に会う前に話を聞いて欲しいんだけど、彼が何で…」
「分かってるよ、俺の職業レベルを10にする為だよね?」
「えっ、知っていたの⁉︎」
カオリ達はアシヤの本当の目的を知って、彼への処遇を悪くしない様に言いたかったのだろう。
「後から分かったよ。双月神様達も、俺の暴食王がLV10になった事を偉業だと喜んでいたからね」
だけど、アシヤがした事が簡単に許される事かと言ったら、正直分からない。
いくら俺に【弱肉強食】を使用させる為だとはいえ、魔人国家ソードムを巻き込み、モーントガルテンの国民を危険に晒した。
死人は出ていないらしいけど、ホムンクルス達や魔導ゴーレム達は大量に破壊されている。
「先ずは会って話そう」
「どうせなら、全員の処遇を今決めた方が良いだろ?」
ニイヤは、アシヤ1人出すとまだ厳しいと判断して、ベルフェル達も一緒に檻から出した。
「……」
アシヤ、ベルフェル、ダフネ、アム、イヴと、生命の檻から出された彼等は跪いていた。
「アシヤ、君の目論み通り、君を能無しにした俺はLV10となり、双月神様達の争いが終わった。君は今、とても満足かい?」
アラヤの態度に、アヤコ達は戸惑った。彼の表情が、全く納得いってない表情だからだ。
「確かに俺は、ストレートに分身体である君を食べてくれと言われても、絶対に食べはしなかっただろう。家族を食べるなんて、俺の死んでも嫌な事の圧倒的な1位だからね」
明らかに嫌悪感たっぷりな表情だ。アラヤがそう思う事も無理も無い。
アラヤがそうせざるを得ない状況に事を運び、強制的に本人は快楽に溺れるのだから。
それは快楽睡眠だけでなく、食べる事自体もトラウマになる可能性があった。
「…ああ、俺は満足している。例えお前に憎まれ殺されようとも、それが俺のやりたい事だったからな」
「敢えて憎まれ役を買って出たと?」
睨み合う2人に、アヤコ達は口を出せなかった。
アラヤの家族を大事に思う気持ちは嬉しいし、そんな彼を理解しているからこそ行動に出たアシヤにも感謝しているから。
「アラヤ殿、アシヤ殿に此度の提案をしたのは私でございます。大罪教教皇様より、貴方が次の昇華で暴食王の最大熟練度に達すると聞き、私が持ち掛けたのです」
ベルフェル司教が2人の間に出て平伏する。確かに教皇であれば、鑑定レベルも高くアラヤの現在レベルを見る事ができただろう。
『アラヤ、もう止めよう。もう示しはついた。それ以上、無理に怒る必要は無いだろう?』
風の大精霊が現れ、アラヤの肩にそっと触れる。
アラヤは深い溜め息を吐き、表情を崩す。
「エアリエル、ああもう、台無しじゃないか」
「「「「え?」」」」
『アラヤはとうに許している。ただ単に、王としての立場を示そうとしただけだ』
アヤコ達は顔を見合わせて、プッと吹き出して笑いだした。
「ちょっと、笑うのはおかしくない?一応、内乱罪に当たるから、厳しくしないといけないと頑張って演じたのに」
「ごめんなさい、安心したら思わず笑いが込み上げちゃって…」
「似合わない事するからよ~」
「うん、まぁ、確かに国王だから必要な事か。じゃあ、アシヤは無罪放免か」
ニイヤが喜びアシヤの肩を叩く。
「あ、それは無理かな。言ったろ?仮にも内乱罪だって。被害は無くとも罪は罪だ。国民に示さないといけない」
「え、そんな…」
「アシヤ、君には50年間、国外追放に処する。あと、モーントガルテンに関わる品も一切、購入及び使用を禁ずる」
「国外追放⁉︎」
「そう。モーントガルテンに戻る事を禁じる。この機会に、ゆっくり世界を見て回ると良い」
「…謹んでお受けします」
アシヤは深々と頭を下げて従った。ハッキリ言って、内乱罪とは釣り合わない全然軽い処罰だと言える。
辛いのは、モーントガルテンに関わる品に手出しできない事。
技能が無くなったアシヤには、生産能力は無い。だから、これが彼にとって唯一の辛い処罰だろう。
「アシヤ殿に、私もお供したく思います」
ベルフェルとダフネ、ホムンクルスのアムとイヴも付いていくことを許し、5人には虚無教ではなく創造神ヌルの存在を伝え歩く任務を与えた。
翌日、モーントガルテンの持ち物を一切持たない手ぶら状態の5人は、みんなに見送られながら永い流浪の旅へと出発したのだった。
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