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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

400話 零式と中位精霊

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 月の庭モーントガルテンの管制室から、緊急念話が国民全てに繋げられた。

『緊急連絡、緊急連絡。ただ今、モーントガルテン内にアグリに変装したが侵入しています。非戦闘員である者は、避難訓練に添った行動を行って下さい。5分後に配置ゴーレムが稼働します』

 アヤコの放送が繰り返し伝えられ、子供達と人犬ヒュードクのオレオ夫妻達が来賓館に駆けて行く。
 その様子を建物の影から見ていたアシヤは、気配を消しながら後を追う。

(俺が居る時には、避難訓練なんてしていなかったよな?来賓館にシェルターでも作ったのか?)

 思えば、国内の建物も畑も増えているし、ゴーレム以外に明らかに怪しい置物もある。
 宣戦布告した事で、それなりに対策をしていたようだ。

「さぁ皆さん、こちらへ」

 来賓館の入り口には、アルディスとディニエルが受け入れ態勢で居た。
 やはり来賓館に避難場所があるらしいな。その中に、逃げたハルが居るかが知りたい。

 アシヤは、姿をノアに変えて近付くことにした。
 避難しているみんなに危害を加える気は無いが、どれだけしっかりしているか知りたくなったのだ。

「2人共、みんなの避難済んだ?」

 さりげなく話し掛けてみると、アルディスがニコリと笑顔で頷いた。

「お下がり下さい。貴方様は入れません」

「あ、いや、入らないよ?ただ、避難が終わったかなって…」

「……」

 バタンと笑顔のまま扉を閉められた。
 もしかして、気付かれたのか?それとも、訓練上、ノアには何か役割があったか?

 どちらにせよ、中には入れそうになかった。扉を触ろうとしたら、見えない壁に阻まれたのだ。

「多重結界…。なるほど、来賓館ごとシェルターにしたのか」

 これなら確かに、耐物理、耐魔法共に安全だな。
 そもそも、モーントガルテン内では大精霊の加護で悪意ある魔法は使えない。
 そうなると、物理と魔道具に頼ることになるのだが、それはソードムの今の状況と変わらない。
 まぁ、それを知っているから、今回の計画を立てたのだけど。

「さぁ、出番だよ。アム、イヴ」

 アシヤは【生命の檻】から2体の男女ホムンクルスを呼び出し、赤にカラーリングした魔導機兵アラーニェ【零式】を亜空間収納から取り出した。
 この2体のホムンクルスは、アシヤに選ばれたステータスの高い2人で、アラーニェ零式の戦闘訓練を徹底して鍛え上げた。
 通常のアラーニェと零式の違いは、対勇者に考案された、機関銃、大盾、魔鋼チェーンソー、鞭手パイチェハンドの腕装備の物理特化バージョンだ。
 しかも、魔法全てが即死に繋がるソードムの地上と違い、モーントガルテンでは使用可能な強化バフが掛けられる。

「おっと、守護者ガーディアンのご登場だ。2人共搭乗してくれ」

「「了解ラジャー」」

 来賓館の両サイドから、竜人ドラッヘン姿の搭乗型魔導ゴーレムが達が現れた。

「中身は微精霊だ。思い切り戦って良いぞ」

『ラジャー』

 2人には返事は全てラジャーと言わせている。別に戦隊モノを作ろうとした訳じゃ…ないです。

 いざ戦闘が始まると、その実力差は歴然だった。
 アシヤは精霊力隠蔽服カモフラスーツで再び身を隠して見守る事にした。
 守護者は、主に対人戦を想定して俊敏重視の捕縛タイプだ。
 しかも、操縦する微精霊の実力は、訓練しているとはいえ、ゴーレムの性能に頼っているB級程度の冒険者と変わらない。
 対して、零式は勇者の動きに対抗するべく、バフ無しでも稼働範囲と速度が通常のアラーニェの2倍はある対捕殺戦用機兵だ。

 2人がそれぞれに操作する4本腕が、守護者の動きを止めて両断するというコンビネーションを明確に実践している。
 この力の差だと、ゴーレム量産の危険度も低かったか?

『あーっ!6体目もやられたーっ‼︎』

 悔しそうな声を上げる風中位精霊シルフィーが現れた。
 どうやらこの辺りのガーディアンの管轄は彼女らしい。

『直接、やっちゃえ~!』

 俺達には使用制限ある攻撃魔法も、精霊達は関係無しに使えるからたまったものじゃない。
 シルフィーのエアカッターの猛襲が始まると、零式は防戦一方になり身動きが取れなくなった。
 ただ、対策として魔法障壁機能もある零式の大盾と装甲のおかげで、擦り傷程度で済んでいる。

『あー、もう面倒くさい‼︎それっ‼︎』

 切断が難しいと考えたシルフィーは、零式を丸ごと上空へ飛ばした。

『いきなりモーントガルテンから退場させる気かよ⁉︎』

 流石の零式も、モーントガルテンがいる高さから落ちたら助からない。
 アシヤが素早く零式内部にテレポートして、来賓館前へとまたテレポートで戻る。

『テレポートしたって事は、アシヤが乗っているのね?』

 何故かニヤリと笑うシルフィーに、アシヤは背筋に悪寒が走った。
 そもそも、契約者パートナーであるアシヤに、シルフィーは攻撃を仕掛けられない筈である。

水中位精霊シレネッタ、アシヤが居たよー』

 シルフィーの呼びかけで、庭の噴水からシレネッタが現れた。

『発見!あの中に居るんだね?』

 現れて早々に、シレネッタは大量の水を零式へと浴びせる。
 盾で受け逸らし振り払おうとするも、零式を丸々と包む球体となった。

「まさか中に⁉︎」

 操縦席内へと、隙間から水が浸水してきた。
 これはマズイ。精霊達が連携を取ってきている。
 このまま水で満たして溺れさせる事が狙いではないだろう。あり得るのは、光中位精霊キュアリーの感電か?それとも無契約精霊スカルゴの水圧拍か?

『アム、イヴ、精霊達をまともに相手する必要は無い。零式を放棄してテレポートで脱出する』

 アシヤが2人の肩に手を乗せようとすると、アムが拒んだ。

『…アシヤ様、ここはアムが残り抵抗を示したいと進言します。少しでも時間を稼ぐべきかと』

『…分かった』

 アムの決意にイヴも頷いている。まぁ、生後間もないこのホムンクルス達は、死への恐怖感情は持っていない。
 囮による緊急離脱が、彼等の考えうる最適解なのだろう。
 アシヤは水が溜まる前に、テレポートで大食堂前へと脱出する。
 アシヤ達が着いて直ぐに、来賓館方面から閃光が見えた。どうやら感電が選ばれたらしいな。
 だがおかげで、3属性の中位精霊が向こうに居る。

「イヴ、この藁人形を渡しておく。視界を共有するから、次に中位精霊クラスが来たら狙い当てろ」

「ラジャー」

 この藁人形は、以前にサタンの分身体が使用した魔道具だ。
 この魔道具は、精霊体を捕獲する事ができる特殊な物で、シルフィー、シレネッタ、土中位精霊ノームは捕獲された経験がある。
 生産元がソードムだったらしく、研究所にも数個あったので拝借したのだ。

「やっと見つけたよ、アシヤ」

 そこに現れたのは、地上に降りていた筈のアグリと、闇中位精霊エキドナだった。
 エキドナの合図で、大食堂に設置されていたゴーレム達も動き出す。

「大人しく捕まってくれよ」

『…みんな、直ぐに来るよ?』

 未だに俺を説得するつもりでいるらしい。まだまだが甘い様だ。

「勘違いしているようだが…」

 アシヤは、立場を理解させる為に見せる事にした。
 アシヤの体から、小さなアシヤが分離を始める。

「分離分身⁉︎まさか⁉︎」

 アラヤが出せた分離分身体の上限は9体。アラヤから別れたアシヤに、それ以上に出せる筈は無い。

「そう、コイツはノアだよ」

 分け出された分身体は、直ぐに体をノアの姿へと変化させた。

「俺が融合したんだ。この意味が分かるよな?俺の狙いは、お前達も含まれてるんだ。大人しく捕まれ?言った筈だぞ、戦争だと」

「…アグリ、逃げるんだ。では俺達に勝てないよ」

 新たな分身体として生まれ変わったノアは、性格と記憶はそのままだが、ステータスはアシヤと同等になった上に、アシヤの感情を理解していた。
 アシヤに従う強制力は無いにも関わらず、ノアは彼に協力する事を選んだのだ。

「諦めるものか!エキドナ、みんなが集まるまで、彼等を留めるぞ‼︎」

『…うん、分かった!』

 戦いは避けられず、両者は激しく激突した。

「これは…」

 アラヤ達が大食堂に到着した時、そこには壊されたゴーレムの上で停止したホムンクルスと、一つの藁人形だけが残されていただけだった。
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