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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

399話 隠し球

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「アラヤ、銀狼型が半数壊れた!魔導ゴーレムも後7体だ!」

 小型機兵に搭乗していたホムンクルスを蹴り飛ばしたニイヤは、その魔導機兵の機関銃を使い他の機体を攻撃している。

「バンドウは大丈夫か?」

「ああ、問題無い。勇者相手だろうと戦えてるよ。いざとなったら、バンドウには特殊技能ユニークスキルもあるからな」

 そういえば、バンドウの特殊技能は奪ってなかったからね。
 通常の技能スキルなら大丈夫だけど、魂を食べても特殊技能は覚えられるのかな?

「アグリのおかげで、大型の魔導機兵の攻略が楽になった。あれは、風化って言うより腐食に近い魔法だな。組織崩壊が早過ぎるぞ。しかし、未だにアシヤの姿を見かけないな」

 主様も、クララと魔導機兵アラーニェの機動部である脚を狙い、アグリの放つ魔法を効率良く当たるように動いている。

「まだこの大型は残っている。アレに搭乗していないのなら、気配を消して潜んでいるかもしれないな」

 アシヤ達が着ている精霊力隠蔽服カモフラスーツの力は、魔導感知にも引っ掛からないので難儀だ。

「まだまだ敵の数は多い。オードリー、アヤコさんから念話で、今月の庭モーントガルテンで追加の魔導ゴーレムを生産中らしい。君は一度後退して、ゴーレムの回収に向かってくれ」

「ハッ!」

 オードリーは流石に疲労が見えていたので、ここら辺で休ませるべきだろう。
 帰ったら、アスピダと交代するようにアヤコに念話しておこう。

『こちらアラヤ。アヤコさん、今から…』

『アラヤ君!そこにアグリ君は居ますよね⁉︎』

 何故か食い気味に念話が返ってきた。
 上空を見上げると、アグリは飛竜に乗りながら、機兵の機関砲を躱して魔法を落としている。

「うん、居るよ?どうしたの?」

『それが、風中位精霊シルフィー達が先程、結界内への帰還を許可したらしいんです』

「ん?アグリは戦場ここに居るのに?」

『タイミングは先程の煙幕の直後です。テレポートで飼育場に飛竜と共に来たらしく、チャコに飛竜を預けたようで本人なのかと。ただ、チャコが言うには連れて来た飛竜が幼竜だったらしく変に思ったと。私達も戦場はビジョンの中継で見ていたので、その場にいるアグリ君が本物か分からなくて…』

 確かにあの煙幕が広がった一時の間、視界からアグリは消えた。
 だが、魔導感知により仲間達の場所は把握していたから、何の問題も無かった。

「こっちのアグリは本物だよ。マズイな、アグリの偽物はアシヤかもしれない!直ぐに警戒態勢を!」

『分かりました!直ぐに対処します!』

 アラヤはニイヤ達にも念話を繋ぐ。

『モーントガルテン内にアシヤが侵入したらしい。ここは放棄して、一度撤退しよう!』

『チィッ、こっちは囮かよ!』

『急ぎ戻ろう!』

『仲間のゴーレムはどうされるのですか?』

 クララが言うように、バンドウと魔導ゴーレムがまだ懸命に戦っている。
 置いて帰れば、間違いなく全滅するだろう。
 しかし、アシヤの実力は俺の次に強いと感じている。俺が行かなくては対応は難しい。

『じゃあ、主様とクララが残り、俺達が戻るまで後退しながらでも耐えてくれるか?』

『ああ、問題無い。むしろ、全滅させているかもしれない』

『旦那様と必ずや耐えてみせます!』

 アグリは【風化の雷】をばら撒いて、いち早くモーントガルテンへと帰っていった。
 アラヤとニイヤも、【生命の檻】から飛竜を出すべく後退を始める。

「行かせませんよ」

 2人の背後に、突如としてダフネ司教が現れた。
 羽織っているマントがおそらくカモフラスーツだろう。確かに魔導感知に反応が無い。

「足止めさせて頂きます」

 ダフネは魔道具らしき物を取り出し、2人の前に放り投げた。
 それは、一見するとただのガラス玉だったが、玉が落ち割れると、2人を痛みで動けなくしてしまった。

「ぐっ…、マンドレイクのボイスボムと、ボルモルの胞子か…‼︎」

「アシヤ様の言う通り、効果ありましたね!」

 超聴覚と超嗅覚を使用していた為に、ニイヤは気を失い倒れた。
 アラヤは耐性が強く効果は半減できたが、耳は機能していない上に、胞子の多重デバフの回復が遅い。
 油断か怠慢か、耐性技能スキルの不動使者が反応していなかったようだ。

「拘束させて頂きます」

 ダフネが魔力粘糸のロープを取り出して近付く。その前にアラヤの状態異常が全て回復した。

「えっ⁉︎」

 ニイヤが捕まる前に、アラヤが自身の【生命の檻】へと収めた。
 ニイヤが突然姿を消した事にダフネは驚き、平然と動いているアラヤに更に驚愕した。

「悪いけど、もう効かないみたいだ」

 アラヤは一瞬で彼女の懐に入り、加減したボディブローを打ち込み気絶させた。
 そして彼女も檻へと入れておく。

「油断したな。以前の耐性なら2人共捕まるところだった。早く帰らないと、みんなが心配だな」

 こんな隠し球を持っているとは考えてなかった。
 モーントガルテンは、大精霊達の加護で悪意ある魔法も呪いも効かないが、こういった魔道具は防げないかもしれない。
 アラヤは急いで飛竜を出して、モーントガルテンへと帰還を急いだ。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 アラヤ達が気付く少し前。

 アグリの姿をしたアシヤはハルの元へ向かっていた。
 アシヤの最初の狙いは魔導ゴーレムの生産を止める事だ。
 ハルはいつも、鍛冶場用の盛り土場でゴーレムを生産していた。
 細かくなった鉱石や上質な地質が、ゴーレム作りに適していたからだ。

 予想通り、ハルがゴーレムを量産しているのが見えた。
 だがその隣に、ハルのサポートをしているあらや(温厚的なアラヤ。サナエの夫)も居た。

(チッ、簡単には近付けないな…)

 壁に身を寄せて隠れていると、鍛冶場から偶然出てきたノアと鉢合わせた。

「あれ、アグリ…?」

 バッとノアの口に手を当てて黙らせると、直ぐにノアを連れて鍛冶場から離れる。

「ちょっと、何だよアグリ…俺、まだ頼まれ事あるから忙しいんだけど…」

「いや、ちょっと順序が変わる事になってさ…。まぁ、この際それでも良いか」

「ハァ…。用が無いならもう行くけど?」

 彼は何やらブツブツと独り言を言って頷いている。
 ため息を吐きながら、ノアは次の物資を取りに行こうとした。

「悪いな、ノア」

「え?」

 突然、後ろから羽交締めをされて耳元でそう呟いてきた。

「俺と1つになろう」

「えっ?アグリって、ひょっとしてソッチ(BL)系…なの…⁉︎」

 ノアが引いた感じで驚いているが、どうやらまだ、俺がアシヤだと気付いていないらしい。

「…融合!」

「なっ⁉︎」

 ズブリとノアの体にアシヤの腕が入ってくる。
 だが痛みがあるわけではなく、元から自分の腕だった様な感覚、そう、感覚共有と似た感覚だ。

「悪いが、しばらくは俺の力となれ」

 共有する感覚で、彼がアグリではなくアシヤだと気付いたが、既にどうする事もできない。
 残る微かな意識に賭けるべく、ノアはあらやに念話を飛ばした。

『アシヤ…居る…狙い…分し…ハ…ル…』

「えっ⁉︎」

 あらやは辺りを見渡す。首を傾げて見上げるハル以外には、近くには誰も居ない。
 魔導感知にも反応は無い。ただ、鍛冶場に居た筈のノアの反応も消えている。

「ハル、作業は一時中断だ。休憩しに場所を変えよう」

「え、良いんですか?ししょー、戦い終わり?」

「う~ん、ししょーも休憩する筈だよ?お菓子も出すからさ、タオも誘おうよ?」

「うん、誘う~」

 何とかハルを説得して、あらやはその場を直ぐに離れたのだった。
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