上 下
397 / 418
第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

393話 仲間割れ

しおりを挟む
 部隊を編成し直したブルータスは、開けた荒野に土壁で仮の防壁を作り待ち構えていた。
 防壁を越えて進軍してくる魔人達は、進軍速度は遅くなっている気がする。
 国境防壁からかなり離れた距離に到達した頃、何度か黒い光が見えた。
 何か始める気かもしれないと、ブルータスは魔人軍に向けて先制攻撃となる広範囲魔法を撃ち込んだ。

「全てを焼尽と化せ、フレイムインフェルノ‼︎」

 剣士の姿をしていても、中身は魔法を得意とする悪魔だ。
 一帯を焦土と変える程の複数ね業火の玉は確かに魔人達へと命中した。

「チィッ!防いだか!」

 しかし、そのほとんどが魔導障壁により防がれていた。
 魔法が使えるという事は、【不毛の世界】が無いエリアだと気付かれたのだ。

「我々も技能スキルは解放されている!総員、私に続け!」

 ブルータスは自身に強化魔法を掛けて、先頭に立ち駆け向う。

「うわぁぁぁぁぁっ‼︎」

 敵陣に着いたブルータスは驚いた。

「逃げろ!撤退だぁ‼︎」

 魔人達は既に満身創痍な状態で、半数以上が重傷者だったのだ。

「1人も逃すな!逆らわぬ者は捕まえて捕虜にするのだ!」

 既に助からない者達も多かったが、100人近くの魔人と人工魔人を捕まえた。
 負傷した者達のほとんどが、初撃のインフェルノの被害者ではなく、物理的な負傷だった事が判明した。
 魔導剣士達も、魔導障壁を張った魔人達も魔力が枯渇寸前だった。

「畜生っ!あのホムンクルスどもめっ‼︎」

 両腕を失った魔人が叫んでいる。他の魔人も、亜人にではなくホムンクルスとやらに怒りを吐いているみたいだ。

「将軍、あの、敵の数が少な過ぎるのですが…」

「確かにな…。どうやら、我々が仕掛ける前に同士討ちがあったらしい」

 それも、こちらが攻撃を仕掛ける前の、あの黒い光の見えた僅かな時間で起きたのだろう。
 魔人達すらも混乱している者が多い。とりわけ無事な魔人を選び、拘束した状態で質問をする。

「仲間割れでもあったのか?」

「…顔を近付けるな!獣臭い!」

 優しく話し掛けるブルータスに、魔人の男は嫌悪感たっぷりに唾を吐いた。

「貴様‼︎」

 部下の猫人カッツェパーソンが腹を立て、彼の肩に爪を食い込ませる。

「やめろ。種族間の確執話は後だ。今は無駄な拷問をするつもりは無い」

 肩を掴んでいた手をゆっくり離し、配下を落ち着かせる。

「兵の数もだが、防壁を貫いた強弩砲バリスタも見当たらない。この程度の戦力で勝機があると思われるとは、我々も安く見られたものだな」

「…当然だ。首輪の無い獣を蹴散らすなど、我々の魔導科学があれば容易な事だ。今回も本来なら貴様達を一方的に蹂躙する筈だった」

 多くの部下が牙を見せ威嚇しているが、ブルータスが睨むと大人しくなる。

「…それは、今までに無い圧倒的な力の魔導機兵だった。だが、を作ったのも奴等で、動かしていたのも奴等だった。奴等は突然裏切り、魔導機兵とバリスタを全て奪った。奴等は初めから裏切るつもりだったに違いない。まさか、貴様達のスパイだったのか⁉︎」

「それならば、わざわざ逃げずに共闘しているだろう?その機兵とやらがあるなら、無駄に防壁を破壊する必要が無い」

 まぁ、実物を見ていないからどれだけ強いかは知らないが、【不毛の世界】のエリア内なら大した事はないだろう。

「クソッ!こうなったら、お前達だけでも…‼︎」

 魔人は奥歯をガリッと鳴らした。すると、ボンッと頭が弾け飛んだ。

「自殺か⁉︎」

 辺りを巻き込むには小さ過ぎる爆発。だが、異変は直ぐに現れた。
 首無し遺体から黒い煙が上がり、近くにいた犬人ホンデライタの兵士が激しく苦しみだした。

「毒か‼︎その者を担ぎ出し、遺体から距離を取れ!」

 その煙は地を這うように広がり出した。ただ、煙に触れていないに回りの兵士にも影響が出だす。

「匂い⁉︎ガスみたいなものか⁉︎」

 亜人は誰もが嗅覚が良すぎる。魔人達はあらかじめ捕虜に陥った時の為に用意していたのかもしれない。

「家畜も道連れだぁぁっ‼︎」

 他の魔人も自爆を使い始め、辺り一面にガスが広がった。
 ブルータス隊も煙に包まれ、兵士達がバタバタと倒れていく。

「サクション‼︎」

 辺り一面の煙が見る見るうちに吸い込まれ始める。
 煙が晴れてくると、そこにはアラヤ達が居た。全員がサクションとホーリーレインを使い、目に見えぬガスを全て吸い取った上に仲間達の傷を癒している。

「初めまして、ブルータス大将軍。ギリギリ間に合ったかな?」

 見上げると上空には、巨大な島が浮いている。確か彼等は、今日は王都に居た筈だ。
 だが、何故かこの事態に気付き、駆け付けてくれたようだ。

「こ、これは空中公国月の庭モーントガルテンの方々。御助力ありがとう申し上げます」

 御礼を言いつつもやや視線を逸らすブルータスに、アラヤは首を傾げる。
 以前、ブルータスと会った時は、竜人ドラッヘン姿だったから、人間の姿では初対面の筈なんだけど。

(何だ、このおびただしい加護持ちの化け物は⁉︎私はもう見つかる訳にはいかぬというのに‼︎)

 アラヤから感じる精霊力に、サタンが入っているブルータスは冷や汗をダラダラとかいていた。

「それにしても、敵の数は2000人程と聞いていたんですが、焼き殺したんですか?」

 アラヤは、地面が焼けた跡があるので、魔人達を焼いたのかと思っていた。

「い、いや、それが、仲間割れがあったようでして、我等が仕掛けた時には既に大半が満身創痍だったのです」

「仲間割れ?それは気になりますね。ちょっと調べて見ましょう」

「…調べる?」

 アラヤは、黒い光を見たという地点へと移動して、痕跡視認を使用してみた。

「これは…」

 見た目がゴーレムより人間っぽいホムンクルスと呼ばれる者達によって、一瞬で魔導剣士の魔人達が制圧されていく。
 驚きなのは、大きなロボットや小さいが重火器を装備した小型ロボットが、次々と消えていく現象だ。
 まるで、亜空間収納に収めるが如く、次々と消えていく。
 そして黒い光が起こると、その光の中にホムンクルス達が移動していく。
 光の中へと最後に入ろうとした男が振り返ると、まるでこちらを見ているように、ニヤリと笑った。

「ああ、そういう事か…」

 その男は、顔に張り付いていた火傷のメイクを剥がして見せた。

「アシヤ…」

 アシヤが黒い光へと消えた後、まだ動ける魔人達が慌てて魔導障壁を張っている映像が見え、痕跡視認は終わった。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇



「アラガキ様‼︎大変でございます‼︎」

 崩れた防壁の近くに張った大きなテントで、女の膝枕でゆっくりと休んでいたアラガキは、身なりを正し仮の玉座に座り直した。

「騒々しいな、何事だ?」

「も、申し上げます!パガヤ領土に進軍していたアシヤ総指揮官からの通信が途絶えました‼︎副指揮官とも繋がりません‼︎」

「何⁉︎カメラ通信もダメか⁉︎」

「はい、全て繋がらない状態です!」

 報告する兵の表情を見るに、ただの通信ミスやカメラの故障とは思えない。

偵察機ドローンは飛ばせないのか⁉︎」

「や、やってみます!」

 ドローンから映し出される映像を、アラガキも食い入るように見る。
 本来なら超える事のできなかった防壁を、今や簡単に通過できる。

「む、アレは?」

 ドローンが映した映像は、見るも無惨な状態となった魔人達だった。

「おいっ!今の映像に機兵の姿はあったか⁉︎」

 ドローンの向きを変えさせて戻ろうとした瞬間、ボンと画像が揺れて映像が途切れた。

「チィッ、壊されたか!」

 魔導機兵の存在は確認できなかった。分かっているのは、2000人居た軍隊が敗れたという事実だけだ。

「いかが致しますか?」

「…どのみち、今の戦力では話にならない。一度要塞へと戻り、部隊を再編成する‼︎」

(クソが‼︎何で俺の回りにはこうも使える奴が居ないんだ⁉︎結局は、俺が動くしか無いのかよ‼︎)

 冷静な判断をしているよう見せているが、内心ではかなりの苛立ちが彼には溜まっていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

処理中です...