【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

392話 強弩砲

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 黄竜月の第3水神日(水曜日)。
 パガヤ王国の王都は、10年に1度の周期で行われる建国祭に向けて、人々へ溢れんばかりに増えていた。
 祭りまで後3日と迫っている中で、空中公国月の庭モーントガルテンが到着した。

「今回は着陸じゃなく、停泊だからね?」

『分かってるわ。水中位精霊シレネッタ、サポートお願い』

 再び建造した王城は、前回崩れた塔型の城を更に幅を太く、そして高く築いた。
 その最上階には、新たに飛行場が設けられている。
 モーントガルテンや飛行戦艦、飛竜や飛行船が停泊できるように作られたのだ。

 操縦を任される風中位精霊シルフィーが最大限に速度を落とし、塔に打つからないようにしている。
 再接近時に、シレネッタが高弾力の水クッションを作り出し、衝撃を上手く分散させた。

 アラヤ達が塔の屋上に降りると、音楽隊が盛大に管楽器と打楽器を鳴らし、隊列していた兵士達は左右に別れ道を作った。
 すると、パガヤ王国女王のセシリアが現れ、自らが出迎えてくれた。

「アラヤ大公、良くお出で下さりました」

「セシリア女王陛下、此度は建国祭にお呼び頂きありがとうございます」

 先月、パガヤ王国から通信が入り、建国520年の建国祭を来月執り行うので、是非来賓としてご参加願いたいと申し出があったのだ。

(アシヤが攻めて来ると宣言したのは、来月の紫竜月(10月)が期日だが、早まる可能性も充分にある。故に今回の参加は見送るべきだったかもしれないが、俺と同じ考え方なら同盟国であるパガヤ王国との衝突は避ける筈だ)

 だが念の為と、風の大精霊エアリエルは今回は参加せずに管制室から周囲を監視している。

「建国祭は、王都で前夜祭を含めた2日間行われる予定です。王都に来れない民等も、祝日として各々の地で祭りを開いてるみたいです」

 セシリアの話を聞きながら、アラヤ達は二階分ほどの階段を降りたところで歓迎会場へと着いた。
 中は既に多くの亜人達が居て、女王とアラヤ達の登場に拍手が湧いた。

「おお、ニイヤ殿!」

 黒玉将軍こと人熊猫ヒューパダのテイテイ大将軍が、主様を見つけて駆け寄ってきた。

「え、俺?あ、そうか。…久しぶりですね、テイテイ将軍」

 主様とニイヤは一瞬戸惑ったが、以前、アラヤがコロシアムに参加する為に名乗っていた名がニイヤだった。
 今の竜人ドラッヘン姿は主様だけなので、間違えられるのは仕方ない。

「ピラー殿は来ていないのかね?」

 そういえば付喪神のピラーも彼等と面識があるんだったな。

「彼は今回は里で祝うらしいよ」

「そりゃあ、残念だ。バーキハカ将軍も後から来るから、3人で話したかったのだが」

 怪腕将軍こと、猩々人オラウーデマンのバーキハカも参加するのか。
 テイテイが戻って行った後、ニイヤが主様に、後で自分も竜人になるから、主様にはピラー役をしてとお願いしていた。
 まぁ、紛らわしいからね。

「女王陛下、将軍達を皆集めたのですか?」

「いえ、テイテイ将軍とバーキハカ将軍には、前夜祭まで参加頂き、翌日には領地へとお帰りになりますわ。代わりに本祭には、ブルータス将軍がご参加頂きます。彼は今、国境警備の任についていまして、テイテイ将軍と入れ替わりでこちらに向かう手筈となっています」

 一度圧勝したとはいえ、やはり魔人国家ソードムとの国境は警戒しているみたいだ。

「ソードムの動きはエアリエルも監視していますので、変化があれば直ぐにお知らせしますよ?」

「それは有難いですね」

 広範囲で人の流れが分かり、即座に連絡できる。戦の情報戦では、明らかにチートだと言える。

「それでは、ご厚意に甘えて、気兼ねなく呑み語り合いましょう」

 もちろん、エアリエルにはちゃんと謝りお願いしている。
 その日は、新たな家族達も紹介などをして、久しぶりに楽しく過ごせた。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇



「さぁ、準備はいいか?」

「「「ハッ‼︎」」」

 魔人国家ソードム領土。北にあるパガヤ王国の国境から1km離れた場所に、魔人達が軍を率いて来ていた。
 その数はおよそ2000人。もちろん、エアリエルは大気感知で、国境を警備しているブルータスは視認で気付いていた。

『警備兵の数は500ってとこね。籠城戦だから直ぐに破られることは無いだろうけど、一応アラヤに連絡しておくべきね』

 エアリエルは、直ぐに念話でアラヤに状況を伝えた。

 その一方、金鬣将軍ことブルータス(憤怒の悪魔サタン)は、魔法と技能が使えない領域エリアを作る【不毛の世界】の効果があるので、相手の出方を伺っていた。

「近付いて来ないな。数の少なさから見て、今回は威嚇だけか?」

 前回は、エリア内に入った魔人達は魔法が使えず、身体能力が高い亜人達に成す術無く大敗している。

「奴等、何か出しました」

 望遠鏡持ちの獣人が、魔人達が突然大きな機械を取り出しているのに気付いた。

「何だろう?今まで何もそれらしき物は無かったのに」

「亜空間収納持ちが数名居るのだろう。それで、何を出したか分かるか?」

「えっと……。あ、強弩砲バリスタです!奴等、バリスタを準備してます!」

「バリスタか…。確かに遮蔽物が無いから、射程距離的にここまで届きはするが、この防壁も門も破壊できん。魔法が使えないからと無駄な事を…」

「奴等、撃ちました‼︎」

 10台のバリスタが、一斉に防壁へと矢を放った。
 次の瞬間、

ドゴォォォォォン‼︎‼︎

 ブルータス達は物凄い振動に立っていられず床に伏せた。
 恐る恐る下の防壁を確認すると、防壁に巨大な穴が幾つも空いていた。

「な、何が起こったというのだ⁉︎」

「し、将軍!アレをご覧下さい‼︎」

 兵が指差したのはソードム側ではなく、自国の領土だ。
 そこには、巨大な矢が落ちていた。しかも、バラバラと崩れていく。

「は⁉︎…アレは矢か?あんな物が飛んで来たというのか⁉︎」

 その質量が飛んでくるなど、幾ら大型なバリスタとはいえ、飛ばせないどころか構える事すらできない。

「し、将軍!奴等、第二射を撃ちました‼︎」

「…っ‼︎」

 ブルータスは目撃した。
 確かにバリスタから放たれた矢は真っ直ぐに飛んでくる。
 だが巨大バリスタとはいえ、その矢は槍くらいの大きさでしかない。
 防壁へと当たる刹那、その大きさが先程の巨大な矢と変わったのだ。

「い、意味が分からない⁉︎」

「将軍!ここはもう駄目です‼︎崩れます‼︎」

「た、退避だ!全員退避しろ‼︎一度防壁から離れ立て直す!」

 ブルータス達が防壁から慌てて撤退を始めた頃、進軍側に居たアラガキは高笑いしていた。

「ガハハハハッ‼︎ざまぁねぇな‼︎このまま、防壁を全部?」

 アラガキの笑いに合わせて、配下の魔人兵達も高笑いする。

「良くやったぞ、アシヤ。奴等は訳も分からないだろうなぁ?」

「ありがとうございます。いずれ気付くやもしれませんが、その前に考える余裕を与えないのが得策かと申し上げます」

 バリスタの矢のカラクリは、元々巨大な鉱石矢だった物を、【鍛治】の熟練度が上がると覚える派生技能の【圧縮】用いて、小さくしていた。
 肝心なのは、防壁側のエリアが、魔法・技能無効な状態である事。
 脅威的な速度で放たれた仕掛け矢が、エリア内に入り圧縮が解除され元の形となる。
 巨大な鉱石矢は、壁に直撃し穴を開けた後、鉱石化も解けてただの土へと戻っていく。
 技能と魔法が無効な状態でないと、通用しない作戦だった。

「良し、ならば次だ!【魔導機兵アラーニェ】を出せ!」

 アシヤを初めとした4人亜空間収納持ちが次々と魔導機兵を出していき、その数はアラーニェが100台。小型機兵が400台。

「今回、我々は少数だが、最大火力の精鋭部隊だ!先ずは近くの防壁都市を陥し、パガヤへの足掛かりとする!操縦士は速やかに搭乗し隊列を組め!これより、畜生共を蹴散らしてこい!」

 アラガキの号令により、一斉に魔人達が搭乗した。
 アラーニェには魔人とホムンクルスのペアで200人。
 小型機兵は全てホムンクルスで400人。
 魔導剣士の魔人が400人。
 魔導士の魔人が100人。
 バリスタ操縦兵の人工魔人が50人。
 物資、人材運搬兵が100人。
 残り900人余りが、人工魔人とホムンクルスの歩兵。
 この軍のその大半が、ホムンクルスで編成されていた。

 アシヤの指揮する機兵達が国境へと進軍を開始する中、アラガキは私兵部隊にこの地で駐屯地の設置を開始させた。
 侵攻の成功を信じてやまないアラガキは、自分は休憩すると横になるのだった。

「さぁ、始めようか」

 総指揮官であるアシヤは、何の迷いも無く従う魔人達を見て、思わず笑みをこぼしてしまうのだった。

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