【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

391話 新米研究者

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 晩餐会の数日後。
 ムシハ連邦国のマネーシー国に戻った代表国王のクルゴンは、執務室で頭を抱えていた。

「クルゴン王、早急に成果の程を教え頂きたい!空中公国月の庭モーントガルテンは、連邦国と同盟するに値する国なのですか?」

 彼の前には、代表国王選抜選挙で対抗馬として競っていた6人の国王が、晩餐会でのモーントガルテンの国力を知りたがっていた。

「ま、まぁ、それなりには交渉する価値はあるかな…?」

 同伴した大半のエルフが風の大精霊エアリエルとの会話に夢中で、モーントガルテンの実態調査を全くしていなかったとは言えない。
 最も、グルケニア帝国側は堅い繋がりを持とうと親族を連れて来ていたようだが、戦争好きの大国らしからぬ行動だと笑いたくなった。

「モーントガルテンが得意とする産業は何です?我等の連邦の発展に価値あるものでしょうか?」

「…まぁ、希少な調味料はあれども、外交の特産とするには、あの領地範囲故にあまりない様だったな。秀でているとしたら技術といったところか」

 思い出せる範囲の記憶を頼りに、なんとかそれらしい答えを出した。

「おお、流石は鋭い着眼点で有名なクルゴン王ですね。あの価値を御理解しておられる」

 眩い光と一緒に、執務室へと美徳教団教皇のヨハネスが現れた。

「おお、光の大精霊ミフル様もおいでくださりましたか」

 ヨハネスは、今はムシハ連邦国の一国、イフク国にある美徳教団に本部を構えている。

「私もモーントガルテンには幾度かお世話になりましたからね。あの国との同盟の価値は、暴風竜の圧倒的な軍事力や希少な特産品の取引きだけじゃありません。ソードムにも劣らない魔導化学。生活を助ける魔道具等、スニス大陸では1番の先進国と言えるでしょう」

「「「おお、美徳教皇様がそう仰るのなら、同盟は進めても間違いないですな」」」

 なりたての代表国王より、宗教団体の教皇の方が信憑性が高いらしい。
 もともと、ムシハ連邦国の代表国王にも推薦される程に、連邦でのヨハネスのカリスマ性は高かった。

「私は、フレイ美徳教団を任される身。国を守るのではなく、世界の民を守り導くのが役目です」

 彼はそう言って代表選挙の出馬を断った。その結果、エルフで唯一出馬したクルゴンが長命で長期に渡る政策ができるという理由で当選したのだった。
 故に、国の代表は間違いなくクルゴンだが、民から信頼されているのは俄然ヨハネスだ。

「では、空中公国との同盟案を進めるもので皆様宜しいかな?」

「「「異論は無い」」」

 各国の王達に推されるまま、クルゴンも同意した。

『また、遊びに行きたいものだな』

 ミフルがプカプカと浮遊しながら、モーントガルテンでの集まりを思い出してそう呟いた。

「もう少しの辛抱だよ。あともう少しで、この連邦国の内乱と厄災の悪魔(ベルフェゴール)討伐による被害の修復が終わる。連邦国は比較的に記憶喪失者が少なくて良かった」

 エルフの住むムシハ連邦国では、昔から王家や貴族等には屋敷の一部に結界を張る部屋が設けられてきた。
 いわゆる保管庫だが、それは貴重品だけではなく国の史書も含まれている。
 結果で難を逃れた者達の証言とその史書と照らし合わせて、ヨハネスのヌル虚無教団の悪事と壊滅説が、信憑性があると国民達に早く広まったのだ。
 おかげで、各国の立て直しが早く進んでいるという訳だ。

「それに、タカノブ(節制の勇者)君の性格矯正もあと少しですからね…」

 彼の記憶がリセットされた事で、ヌル虚無教団に加担していた頃の不審な行動は無くなったのだが、彼はどうにも前世界のゲーム感覚とアニメの影響が強いらしい。
 魔王を討ち倒す為に勇者はいるのだ(魔王討伐の為なら勇者には特権をあたえるべき)とか、貴族だけの一夫多妻制は廃止(勇者も多妻制なら許す。むしろ、嫁を用意してくれ)するべきだとか、この世界の国民性、培ってきた伝統や歴史を無視した発言が多い。

『奴のどの辺りが節制の勇者なのか、分からないな…』

「まぁ、これでモーントガルテンは魔人国家ソードム以外の全ての国と同盟関係となる。それが、世界平和の第一歩だと私は思っているよ」

 ヨハネスは窓を開けて空を見上げた。雲一つ無い晴天の彼方に、今日もあの国は浮かび下界を見守っているだろう。

「その内、アラヤ教団ってのもできるかもね?」

『アラヤは神じゃ無いが…、それはそれで面白いかもな?』

 ミフルとヨハネスが冗談で笑いあった7日後。
 ヨハネスの予想通り、ムシハ連邦国もモーントガルテンに同盟案を打診した。
 条約内容は直ぐに話し合いが行われ、空中公国月の庭は、グルケニア帝国とムシハ連邦国とに同盟を締結したのだった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 魔人国家ソードムの首都でもある魔導要塞。
 その国王である傲慢の魔王アラガキは、玉座に座りながら配下が持ってきた資料に目を通していた。

「このペースだと、予定していた数量には及ばないな。俺は黄竜月(9月)までに、全機完成させろと命じた筈だ」

 資料の束をその配下へと投げ返す。

「お、畏れながら申し上げます。【魔導機兵アラーニェ】の生産速度は、今が限界であります。騎兵に必要とする資源が補えておりません」

 ソードムは腐敗した大地の為に、領土に鉱脈は少なく既に取り尽くしている。
 魔導科学により、鉄に変わる魔鉄を製造できるのだが、その生産にも大量の魔力と砂鉄等の資源が必要だった。
 どんなに進歩した魔導科学でも、流石に無から物は作り出せないのだ。

「…期限は変わらん。なんとしても間に合わせろ!」

「か、畏まりました」

 配下はそれ以上は何も言えず、大人しく引き下がった。

「訓練兵はどうだ?現状、どれほどの数が使える?」

「ハッ、現在のところ、アラーニェの操者となれる兵士は53名。その動力兵となる人工魔人は40名。小型機兵の操者は200名であります」

 魔力提供の動力源となる人工魔人は、前回の帝国戦との戦いで多くを失っている。
 当時は国民である魔人以下の扱いをしていた為に、気にも止めていなかったが、今や新たに人工魔人となる人間を集めようが無い。
 彼等の代役を魔人が埋めねばならない状況だが、気位が高い魔人達は同等の扱いに必ず反発するだろう。

「…チッ、こっちも間に合わないか。最悪は、機兵無しの銃器兵を用意するか」

 アラガキが狙っているパガヤ王国の亜人達には、通常の銃は通用しない。
 国境を守る亜人の兵士は、身体能力の高い兵士ばかりだ。
 去年から国境は突然、唯一通用していた魔法が、使用できないエリアとなった。
 亜人の対抗手段の為に製作した機兵だが、予定の7割というのが現状だ。

 黄竜月には、10年に1度のパガヤ王国の建国祭がある。
 これに合わせて、国境付近の領主達も式典に参加する為に兵が分散する事が分かっている。
 アラガキはそのタイミングで侵攻を開始しようと計画していた。
 科学力はあれども資源が無いソードムは、これ以上の発展もない上に、人口減少に歯止めが効かない難題を抱えている。
 それを打破する為に、パガヤ王国へと侵攻するのだ。

「お困りのようですね?」

「…‼︎何者だ⁉︎」

 突如、アラガキの前にローブ姿の男が現れた。
 声を掛けられる直前まで、誰もその男の存在に気付かなかった。

「何者だ貴様…」

 アラガキは自身の気配感知にも、要塞のセンサーにも引っ掛からずに侵入した男を睨みつける。

「私の名はグラトニー。魔導科学技術班の研究者です」

 男は顔に火傷を負った醜い容姿で見るからに怪しい。
 だが確かに、胸元には身分証明のICカードが見える。
 それに外部の人間で無いなら、センサーに反応しないのは納得できる。

「技術班の一員?そんな奴が何故、断りもなく俺の前に居る?」

 配下の魔人達が慌ててグラトニーを引き退らせに来る。だが、彼は引き退らなかった。

「陛下、失礼を承知で申し上げます。兵士補充の件、私なら解決できるのですが…」

「何だと?どういう事だ?」

「…陛下、ホムンクルスです。足りない人員はホムンクルスで賄えます」

「おい、そんな技術があるのか⁉︎俺は聞いた事も無いし、資料にも記載されてなかったぞ!」

 すごい剣幕で総指揮者である配下に問い詰めると、彼は怯えながらも弁明した。

「い、いえ、ホムンクルスは不確定要素が多い魔導科学とは離れた実験であり、熟練の錬金術師が居ない事から長年封印されていましたので…」

「私は錬金術を使えますし、魔導科学を用いたゴーレムを利用したホムンクルスの実験に成功しております」

 グラトニーがパチンと指を鳴らすと、3体の裸の人間が突如現れ床に倒れた。

「これらが、魔導ホムンクルスでございます」

 3体はゆっくりと立ち上がり、グラトニーに頭を下げた後、アラガキと向き合い平伏した。
 その姿は、胸の中央に拳大の魔石がある以外は、人間と全く変わらない容姿の男女だった。

「それぞれが、人工魔人に劣らぬ魔力量も充分に持っています」

「…。悪くないな」

 実物を見せられ、アラガキは使い捨ての駒が増えるなら申し分ないと考えた。

「私に指揮をお任せ頂けるなら、期日までに兵数を揃えてみせます」

「良いだろう。我が国は実力主義だ。貴様には魔導機兵の開発の総指揮も任せる。錬金術とやらでこちらも上手く解決してみせろ」

「ハッ!必ずやご期待に応えてみせます!」

 グラトニーは頭を深く下げた後、ホムンクルス達を連れて退出していった。
 その後に、遅れて出て行く総指揮を任されていた配下の魔人は、その後ろ姿に怒りに震えていた。

「アシヤ=グラトニーめ!田舎出の新米研究者のくせに…‼︎」

 しかし、ホムンクルス達が振り返りニコリと笑う姿を見せられ、ぐうの音も出なくなるのだった。
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