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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎

390話 晩餐会 ③

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 その晩餐会は、グルケニア帝国、ムシハ連邦国の両国の参加者にとって、初めての経験となるものばかりだった。
 奏でられている音楽は多彩な音色で、初めて聴く曲ばかりだ。
 それに、ソースと呼ばれる液体が数種類色違いで有り、色別に掛けられた料理は、色が変わるだけで味も劇的に変わる。
 この様な料理など、今まで味わった事はない。しかも料理はどれも美味しい。

「アラヤ大公、此度の招待、我々は感謝している。前回の我等の無礼な行為は深く詫びよう。すまなかった」

 グルケニア帝国の頂点、皇帝である父が頭を下げようとするのを、アラヤ大公は直ぐに止めた。

「我々は、国家の新参者として審査される立場でした。なので、貴方方が警戒することは当然です。それに対してわだかまりを持つような事は、我々はしませんので安心して下さい」

 何より、ムシハ連邦国の代表国王の前で頭を下げる行為は、大国である威厳の印象が悪くなるので避けるべきだ。
 しかし、ムシハ連邦国の代表国王であるクルゴン王は、大精霊であるエアリエル様とばかり話をしている。

「エアリエル様、我等が【囀る湖畔】の里にもどうかお寄りください。今の時期ならば渡鳥が訪れ、求愛の唄を奏でております」

『ほう、それは一度見てみたいものだな。皆と相談し、検討するとしよう』

 美しきこの大精霊は、父が持つ【精霊視認】を持たない私にも何故見えるのだろうか。
 ふと、クルゴンの視線が私に向けられた。その視線は直ぐに戻されたが、この場に相応しくないと鼻で笑われた気がした。

「カチュア、此処へ来なさい」

 とうとう父に呼ばれ、緊張で肩が跳ね上がる。
 母は頑張りなさいと目で合図を送り、私を席から送り出す。
 この大公は、見た目は私より若いのに、父よりも大きく見えてくるのは何故だろう。

「アラヤ大公、これは我が娘の1人で名をカチュアという」

「…お初に御目に掛かります。皇帝パオロが娘、カチュアにございます」

 なんとか噛まずに挨拶ができた。

「我が子等の中で唯一の娘故に、多少甘やかして育ったが、器量はある娘に育った。歳は17と縁談には恵まれなかったが、親バカな私が相手を選り好みしたのが悪かったのだろう」

「娘を持つ親ならば、それは仕方がない事かと。私の身内も最近子が産まれたばかりで、それはもう可愛がっておりますから」

 父が皇帝に即位したのは最近だった。縁談の話は多くあったが、前皇帝であるがそれを許さなかった。
 父は私に親バカな態度を見せた事はない。私を手放したくなかったのは、お祖父様の方だったからだ。
 今頃になって私の利用価値があると考えた父に、本心では呆れもあったが、やっと関心を持ってくれた事に嬉しくもあった。

「聞けば、ラエテマ王国の第3王女様もこの公国に居られるらしいですな?」

 この情報は、父が王国の密偵から入手したもので、これを手に入れた事で今回の私の計画が浮上したのだ。

「ええ、彼女は王国の親善大使として務めております。今は、別室にて食事をしていると思いますが…。カチュア姫、彼女に会われますか?」

「は、はい。是非」

 大公の目配せで、進行役をしていた黒髪の女性が寄ってきた。

「お願いね?」

「かしこまりました」

 彼女は私を大食堂の外へと案内する。もちろん、私には2人の近衛兵が護衛ととしてついて来ている。
 案内されて向かった先は住居棟のロビーだった。

「あれ、アヤコさん?」

 ロビーには即席の食卓が設けてあり、大公の身内だと思われる者達が食事をしていた。
 その中に、子供達に紛れてミネルバ王女も居た。

「こちらは、グルケニア帝国パオロ皇帝の御息女、カチュア姫です」

「皆様、初めましてパオロ皇帝が娘、カチュアと申します」

 貴族流の挨拶をするカチュアに、皆が拍手で迎えてくれた。

「カチュア様、此処に居る方々はアラヤ大公の弟君とその奥方。そしてラエテマ王国の親善大使ミネルバ様と、ゴーモラ王国の親善大使サハド伯爵公子。そしてタオ画伯に…」

 アヤコに次々と紹介されるも、カチュアは情報が上手く処理されていない。

(竜人も弟⁉︎しかも、弟が何人居るのよ⁉︎え、今、ゴーモラ王国って言った?あそこって、魔物しか住んでないんじゃ⁉︎そもそも、人犬ヒュードク親子、エルフ家族?、ドワーフ、ラミア?も一緒に食事って、身分の差は無いのかしら⁉︎)

「ウフフ、混乱するのは分かりますよ?私も初めはそうでした。だけど、月の庭ここに住み始めると、身分や種族の壁なんて気にならなくなるんです」

 ミネルバも彼女の前で貴族流の挨拶を見せて微笑んだ。
 私より11歳と歳下なのに、私より所作が王女らしいと、カチュアは素直に思っていた。

「カチュア様は、この度は帝国の親善大使となるべくしての初顔合わせという形ですか?それとも、婚約する御相手を探しに?」

「…私には、それを決める権利はございませんので…」

 目的を見透かされては、カチュアは苦笑いをするしかない。
 ただ、私の今回の役割はある。それは、私が持つ特殊技能ユニークスキルによる下準備だ。

 私の持つ特殊技能は【連帯債務】。
 幼少期に、鑑定士により発見された特殊技能だ。
 その効果は、【発動時に術者から半径3m以内の知的生命体が仲間対象となり、発動時の術者の責務を補助しなければならない】である。
 言わば呪いに似た強制的な連帯責任である。正に、この様な場で効果が発揮される技能だ。
 しかし、限界人数と有効期間、発動条件も当然ある。
 【一定量の時間、対象となる者を視界に入れて会話をしなければならない】

 今回、父に与えられた役目は、大公と大精霊以外の者達にこの特殊技能を使い、同盟が締結し易くし、尚且つ親善大使の受け入れをし易くすること。
 だから、警護役の兵士達は私が役目を果たすかを監視している。

(大精霊のエアリエル様が居るあの場では、絶対に無理だと分かった。この場ではちゃんと成果を出さないと!)

「私もここで食事をご一緒しても宜しいでしょうか?」

「もちろんです」

 すんなりと円卓の輪に入ったカチュアは、現在対象可能な人数が10名なので、ミネルバは確定だが、弟君からは発言力がありそうな金髪の青年とその夫人から、竜人、タオ画伯、伯爵公子夫婦までを視界に入れる。

(私は親善大使となる。【連帯債務】発動!)

 ところが、魔力が消費された感覚が無い。

(あれ?おかしいな。もう1回、発動!)

「ああ、カチュア様。この国が空を飛んでいる所を見た事がありますか?凄いですよね~?」

「あ、いえ、まだ見ておりません」

 特殊技能が発動しない焦りで、カチュアは手汗が酷くなってきた。

「この島とも言える巨大な土地を、精霊達の力で持ち上げているんです。しかも、この月の庭では全ての大精霊の加護により、敵意を持った魔法や呪いはされるんです。この国が世界で1番、安全な国だと言えるかもしれません」

(ま、魔法無効化⁉︎何よそれ!え、でも発動もしてないわよ⁉︎)

 訳がわからないと、カチュアは目が泳いでいる。
 まぁ、特殊技能が発動しないのも無理もない。何故なら、無いものは使えない。
 特殊技能の【連帯債務】は、アヤコにより既に奪われているからだ。

(フフフ、久しぶりの強奪による快楽ですね)

 少し悦に浸るアヤコは、ミネルバに合図を送る。
 これは、先に鑑定で見ていたアラヤからの指示なので、技能は彼に渡さないといけないが、久しぶりの快楽に満足している。

「カチュア様、親善大使の件、私からも進言しても構いませんか?」

「え⁉︎それは大変有り難い話ですが…」

「ああ、俺達も進言しても良いぜ?父親と違って、常識人みたいだからな」

「というか、独身3人組。貴方達との婚約も年齢的にアリじゃない?」

「それは流石に早計でしょ?彼女とはまだ会ったばかりだよ?まぁ、親善大使ならお互いを知るに良いかもしれないね?」

(あれ?ひょっとしてこれ、技能発動してるんじゃ…?)

 結果的に監視していた護衛達も納得し、手答えあったと安心して帰る彼女達は知らない。
 彼女のこの技能は、事前に提示された参加者リストの段階から、アラヤに鑑定で発見され、パオロ皇帝が利用してくると読んでいた事を。

(この特殊技能は、リスクの検証は必要だけれど、アシヤ説得に有効かもしれない)

 アラヤ達の掌の上だと知らずに、パオロ皇帝は後日、同盟と彼女の親善大使の話を持ち掛けて来たのだった。
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