【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第26章 楽しいばかりが人生ではないそうですよ⁉︎

377話 誕生祭

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 紅月が明るいある日の晩、空中公国月の庭モーントガルテンはラエテマ王国のヤブネカ村近くに停泊していた。
 夜中だというのに、村の村長宅は人が集まり慌ただしくなっていた。

「村長ー!私達にもお手伝いできる事は無いですかー?」

「トーメさんとハンナさんがいるんだ、上手くやれるさ!」

「しかし、なんだって彼女は、この村を選んだんだろう?」

「そりゃあ、村長やナーベさん達とも仲が良いからじゃないか?」

 中に入れない男達が入り口で騒いでいると、玄関の扉が勢いよく開けられる。

「男衆、ちょっとは静かにしなさい!妊婦の邪魔だわ!」

 マスクをしたベスが、衛兵時の睨みで男達を黙らせる。

「はい…」

 男達は静かになり、すごすごと入り口から離れていった。

「ベス、陣痛の間隔が短くなってきた、彼女の主人を呼んできな!」

「分かった!」

 赤髪のメリダ村長に言われ、ベスは村長宅から駆け出した。
 向かう先はモーントガルテンではなく、かつてはボロボロな空き家だったが、いつのまにか綺麗になっていた家だ。

「あらやさん!そろそろだよ!立ち会うんでしょう?」

 空き家には、モーントガルテンの人達が居て、その中に妊婦の夫であるが居た。

「私達も行きます」

 アヤコ達女性陣も立ち会うと、彼女について行った。
 残されたアラヤ達は、大人しくこの家で待つ事にする。

「本来なら俺が行くべきだと思うんだけど…」

 アラヤは少し残念そうに俯く。

「例え分身する前の妊娠だと分かってても、今の夫はあらやなんだからそこは譲りなよ」

 元は一心同体なわけだけど、今は兄弟の様な立場とはとても複雑な心境だ。

 スニス大陸の記憶喪失から幾月も月日が経ち、両教団の働きにより新たな環境が大衆に定着した。
 ラエテマ王国とも、ミネルバの活躍で再び同盟を締結。
 かつて親しかった人達への絆の構築は、みんな本当に頑張っていた。
 サナエの出産を本人の希望で、ヤブネカ村でできる事は本当に良かったと思っている。

 楽しい事も哀しい事も、絆を深めることに大事であり、改めて、記憶を失うことの恐ろしさを理解したよ。

「産まれたぞーーっ‼︎」

 普段は寡黙なゲンさんが、アラヤ達の元に大声で走って来た。
 あっという間に、村中で歓喜の声が上がっている。

「頑張ったね、サナエ」

「あらや、フフ、予想通りやっぱり男の子だったよ?」

 メリダに抱き上げられた赤子は、ワキワキと指を動かしながら泣いている。
 トーメが、そのままへその緒の処理を済ませると、直ぐにアヤコがヒールとクリーンを当てていた。

「あらや君、この子の名前はもう決めてるのかい?」

「はい。サナエが、女の子ならマイ(舞)、男の子ならヨウ(踊)が良いって」

「へぇ、ヨウ=クラトか。良い名だね!おめでとう、2人とも」

「「ありがとうございます」」

 産着に包まれたヨウはサナエの胸元に寝かされ、安心したのか寝てしまう。

「おめでとう、サナエちゃん」

「本当に頑張りましたね。とても私には耐えれそうに無いわ」

「サナエ様、立派な世継ぎの誕生、誠におめでとうございます!」

 アヤコ、カオリ、クララも涙目の笑顔で祝福する。

「次はクララ、アヤの順番だよ?今から、この痛みに覚悟してなきゃね?」

 クララは今、妊娠5ヶ月目、アヤコは3ヶ月目である。カオリにはまだ、妊娠の兆候は無い。

「私とクララは、【鈍感痛覚】の技能を頂いているので大丈夫です」

「なんかズルイなぁ~」

 ズルイと言っても、出産の痛みをちゃんと体験したいと、サナエは自ら技能の譲渡は拒んだのだけど。

「とにかく、あらや君とサナエはしばらく此処に泊まりなさい。さぁ、私達は村のみんなに報告だよ。当然、モーントガルテン持ちの宴会をするんだよね?」

「ええ、任せて下さい!」

 モーントガルテン主催の赤子の誕生会は、4日間に渡り盛大に行われた。
 ソーリン達もギリギリ最終日に間に合い、次は自分達だとナーシャを恥ずかしがらせていた。

「あらやもとうとう、一児のパパかぁ~」

「ニイヤは何で作らないの?」

「そりゃあ、まだ欲しくないんだろう?」

「違ぇよ。作らないんじゃない、できないんだよ。大体、今までも別に避妊してないからな?」

 アラヤ達は、先を越された感を今になり感じて、猥談に浸っていた。
 そもそも、亜人でも、相手が普通の人間となら、体質が違い過ぎて受精が難しいらしい。
 回数と量が比較にならない彼等でも、その上手く受精する確率は極端に低いようだ。

「アヤコが、アフティもひょっとしたら懐妊かもって言ってたな」

「アスピダんところはまだだよな?な?」

「何焦ってるんだよ、俺達は寿命が長いんだから慌てる必要は無いだろ?」

「寿命って言ったら…レミーラ、大丈夫か?」

 みんなは黙ってしまう。ドワーフの寿命は平均約60年。
 レミーラは今10歳で、いわゆる人間で20歳にあたるんだけど、心配なのはそこじゃない。
 相手が、エルフのイシルウェだということだ。
 エルフの寿命は逆の平均約250年。この真逆の人生観の2人が、子を成せる時間は限りなく少ない。

「一応、付き合っているんだよね?」

「多分ね。アルディスも黙認しているみたいだけど」

「イシルウェが急がなきゃだけど、レミーラも奥手っぽいからなぁ」

「親父さんが先にヤバイ気がする」

 レミーラの父親のガルムさんは、既に38歳。人間だと76歳くらいだ。
 今は一人暮らしだし、鍛治師の仕事に妥協できるタイプじゃない。無理して体を悪くでもしたら大変な年頃なのだ。

「イシルウェを、焚きつける?」

「俺達じゃダメだろう。こういうのは本人に自覚させないと」

「それじゃあ、チャコと精霊達に頼んでみるかな?」

 アラヤ達が2人の後押しを考えている頃、本国の大食堂では留守番をしているエルフ組と配下組等が食事をしていた。

「サナエ様が第一子を出産され、クララ様とアヤコ様も懐妊されている今、保母となる知識を持つ者が居ないのは問題では?」

 オードリーが、私には不向き過ぎて不安だと話を切り出した。

「アラヤ様達は皆、兄弟が居られぬ1人っ子らしいですからね。カオリ様は知識が豊富ですが、子供は苦手で養育に必要なのは経験が1番だと弱気でおられた。私が経験するのはまだ先になるので、指導して頂けるなら学びたいのですが…」

 アフティは、鑑定で懐妊したばかりだとカオリに言われている。

「怠惰魔王様は、ご経験はお有りでしょうか?」

「私か?すまないな。私も1人だったし、子を持ったことは無い」

 イトウは、私に話を振らないでくれと、料理の皿を持ち退出してしまった。

「アルディス殿は、イシルウェ殿を育てた経験がお有りですよね?アルディス殿が適任では?」

「私で宜…」

「エルフの子育てを真似しない方が良いと思う」

 アルディスの言葉を、イシルウェが急に遮り否定する。

「種族で、子育ての文化の違いもある。私としては、彼等はやはり人間だし、住んでいた世界も違うから、やはり人間の子育て方に合わせるべきだと思うよ?」

 これには、アルディスだけでなくディニエルも眉間に皺を寄せ不快そうにしている。
 イシルウェは、なにもエルフの文化を馬鹿にした訳じゃない。
 ただ、アルディスの過保護過ぎる愛を危険視しているだけなのだ。

「あの、子育て経験なら私の妻があるけれど、やはり人犬ヒュードクである我々ではダメだろうか?」

 オレオ夫妻が名乗り出てくれた。
 確かに、彼の妻であるモコさんは、娘のハナをしっかりと育てている。

「いえ、ありがたい申し出です!クララ様のお子様も誕生を控えているわけですから、保育の流れとしても、その後も続けて頂きたい」

「モコさんを主任保育士に任命されるのでしたら、私も一緒に手伝えますね?」

 アルディスがニコリとイシルウェに笑顔を見せる。こうなると、流石にもう止める事はできないな。

「そ、そうだね…」

 結果的に、モコが主任保育士、アルディス、アフティ、ディニエル、時にバスティアノが保育すると決まった。
 サナエ達も、この案をすんなりと賛成したのだった。

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