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第25章 喰う、それは生きる為ですよ⁉︎
372話 再構築するもの
しおりを挟む『体調はどうだ?』
風の大精霊はベッドに腰を下ろし、アラヤの顔を覗き込む。
目覚めたアラヤは、左目の虹彩の色が赤く変色していた。いわゆるオッドアイだ。
「ん~、体調は良いよ?ちょっとだけ、お腹が空いているくらいかな」
間違いなく体調が良いなと、みんなが笑う。まぁ、確かに平常運転だね。
「アラヤ君、起きて早速で悪いのですけど、食べながらで良いので少し話を聞かせてもらえますか?」
「分かった」
再び大食堂にみんなが集まると、コルプスが温め直した料理が、アラヤにも配られる。
「えっと、とりあえず創造神召喚は防げたんだよね?」
「はい。私達の班も、ヌル虚無教団のアジトの壊滅、ダクネラ=トランスポートを捕らえました」
「うん、流石だね!かなりヤバイ奴等がいる集団だったわけだけど…誰も欠けてないよね?」
「俺が居るんだ、当たり前だろ?」
ニイヤのドヤ顔に、アラヤはニカッと笑う。きっと大変だったに違いないが、みんなが居るなら最高の結果と言える。
「私達の詳細は後でお話しするとして、先にアラヤ君の召喚を阻止した方法を聞きたいのです」
「えっと、アゲノル達からは話はどこまで聞いたの?」
「俺達は、アラヤが蠅王バアルゼブルに変身して遺跡から飛び出したところまでだよ。リアナとの出会いは話した」
アゲノルの隣にはリアナも座っていて、料理に夢中でかぶりついている。
「それなら、上空に出てからだね?意識を支配した後、神殿から出た俺の姿は厄災の悪魔の蠅王だったんだけど、使える技能自体は熾天使のバアルゼブルと同じだったんだ。そこで、スニス大陸全土に【眷属網羅】って技能を使って、全土に居る精霊達の位置を把握して感覚を共有した。それから、【異界視認】で次元の境界に刻まれていた召喚魔法陣を発見した。後は、時間に触れる無属性精霊達を介して、大陸にいる生命体の記憶を【捕食吸収】で喰ったんだ。魔法陣を作る際に関わったものの全ての記憶を一定量食べると、魔法陣が欠け始めた。そこからは、いつもの快楽でちょっと覚えてないや」
「記憶を食べる…⁉︎」
「そんな方法、確かに普通には無理だな」
「アラヤ殿、ラエテマ王宮の者達は約1年分の記憶がございません!その、少しの人数だけでも…記憶を戻す事はできないのでしょうか?」
ミネルバが僅かな期待を持って尋ねるが、アラヤは首を横に振った。
「凄い情報量が一気に押し寄せたんだけど、一瞬で溶けてしまったよ。とてもじゃないけど、戻すことなんて無理だと思う」
記憶なんて、魂と同様で形が無いものだけど、喰えたという事は消化もしている。
だが吐き出したところで、記憶は出てこないだろう。
「ミネルバ様、世界が終わる事に比べたら、1年くらいの記憶が無くなった程度、気にしなくて良いと思うのですけど…。そんなに大事な記憶があったんですか?」
サナエが、落胆するミネルバの肩を優しく撫でると、遂には彼女は涙を流してしまう。
「…記憶が無いと、大きな問題があるんです!」
「問題?」
「ラエテマ王国での皆様の記憶、それは皆様が立てた功績や人脈。それに我国との同盟でさえも、国王様達の記憶にございません!それどころか、私、リッセン、マイナは王国からすれば攫われたと同意なのです!今直ぐにでも、空中公国の存在を証明しなければ、皆様との関係が最悪な印象に!」
「あー、確かにそうなるかぁ。それなら、一度王宮に帰るかい?」
「えっ?」
「一から関係を作るやり方でも良いって事だよ。無くなった記憶を証明するよりは、新たな関係を築く方が簡単な気がするよ」
「そうですね。アラヤ君の言う通り、ラエテマ王国とは新たに友好な関係を築く方が良いでしょう。月の庭との同盟国は、スニス大陸ではまだラエテマ王国だけでしたので」
「ヤブネカ村のみんなや、バルグさん達とも初めからかぁ」
モーントガルテンの住民になってくれているみんなも、来る前の親しい知り合いから1年間を忘れられているという事だ。
「あ、オードリー、そういえばヨハネスはどうだった?」
「はい。あの美徳教皇は、光の大精霊様に保護されていました。どうやら、ベルフェゴールとの戦闘でかなり消耗した様子でした。ミフル様が居られたので、おそらく記憶は無くしていないかと」
「そっか。それなら、まだ美徳教団は俺達には友好的になるかもね。大罪教教皇はどうだろう?スニス大陸に居たのなら、また厄介な関係に戻るかな…?」
教皇の記憶が、アラヤ達がこの世界に来た直後頃の約1年前なら、いきなり魔王の状況がアラガキ以外分からない事態になるのだ。
「ゴウダとバンドウは死んでるし、コウサカは死んだ後にゴーモラの女王。カオリさんとイトウ先生は行方不明扱い。正直、混乱するでしょうね」
「それなら、知っている人間を間に立てよう」
「知っている人間?」
「ベルフェル司教だよ」
「「「…ああ!」」」
「彼も、今なら死人扱いされない」
彼の死亡した記憶も無かった事にできる。その上、ヌル虚無教団側に加担した事も無い事にできるのだ。
「それなら、新たに友好的な関係を築く為に、いっそのことみんなでモーントガルテンの売り込みをしましょうよ?」
「どんな風に?」
「例えば…」
サナエの提案はこうだ。
ラエテマ王国の王族には、ミネルバ達がモーントガルテンの良さを売り込む。
バルグ商会には、バスティアノとタオが取引関係を新たに築く。これにはアヤコも参加させ、記憶を無くして戸惑っているだろうソーリンとナーシャの関係を戻す。
バルガス農園には、クララとオレオ親子がといった具合に、関係が深かった者達で新たな関係性を作るというのだ。
「そうと決まれば、急ぎ送り届けましょう」
「でも…みんな一度帰ったら、もうこの月の庭には帰る気が無くなるんじゃ…」
「「「そんな訳ありません!」」」
アラヤの不安を吹き飛ばす様に、みんなは力強く答えた。
「もうこの国の住民なんですよ?両親に例え手足を縛られてだって、飛竜に噛み付いてでも帰って来ますよ!」
いや、どんな例えだよ?でもまぁ、嬉しいよね。
行き先はとんとん拍子に決まり、次々とテレポートや飛竜で送り出されて行く。
アーパス様達も帰ると、モーントガルテンはかなり寂しい人数となった。
「私達には、元々帰る場所も無いからね~」
リズとアントンの故郷であるポッカ村は、記憶どころか、実際に無くなっている。だから戻る必要性は無いのだ。
なので今は、イトウ先生の授業を2人だけで受けている。
「君達は帰ってほしいんだけど?」
実は、来賓館に居座る者達がいる。
「金なら払うと言っている。もう少し泊まらせてくれよ?」
それは、助けてからそのまま住み着いた勤勉の勇者達だ。
「私達、今帰ったら間違いなく復興で休み無しなのは明確だもの。休みが足りないのよ」
純潔の勇者は、動きたく無いとソファにどっぷりと突っ伏している。
気持ちは分かるが、正直一緒に居たくないのが本音だ。
「満足いくおもてなしもできないよ?」
今、この国は手薄だ。
エアリエル以外の嫁達は誰も居らず、リズ姉弟とアスピダ達配下、後はニイヤ達分身体しかいない。
ゴーレムがあると言っても、人の手でしていた事は簡単に変われないからね。
「構わないよ。むしろ、暴風竜と模擬戦をさせてくれ」
「ダメに決まっているだろ⁉︎」
そんなやり取りをしながら2日。
ムシハ連邦国のエルフの里に戻っていたイシルウェ達から羅針盤通信機で連絡が届いた。
『結界に守られていたエルフの里は無事だ。みんな記憶はある。案外、結界に入っていた者達は他の国にも居るかもしれないな?それと、美徳教皇のヨハネスが今、他のエルフの里で療養中らしい』
「そうなのか、それは良かった。イシルウェ、すまないけど、彼に会って連絡をする様に言ってくれないか?」
「お安い御用だ!」
これでヨハネスが、上手いこと美徳教団をまとめてあげれば、絆の再構築がかなり楽になる事だろう。
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